16.明るい声に笑いかける
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ざけんなざけんなッ! どいつもこいつもッ!
平気で自分を捨てるような真似しやがってッ!
エイシに会ったあと、スバルは王城にある自分の執務室に向かっていた。もう日暮れが近い。もう遅いのでユキに会うのはやめた。せっかく休めているのにスバルのせいでその休みを邪魔したくはないし、こんな気持ちではユキにまともに会えない。スバルの思っている通り、スバルの表情はものすごい剣幕だった。怒りとイラつき、腹立たしさがこみ上げてきて目つきの悪い顔をさらに悪くさせていた。周りの使用人も「ひッ」と声をあげながらスバルを避けていく。本来なら無礼に当たる行為だが、スバルにとってそんなことはどうでもよかった。
絶対に認めない。あの人を、エイシを王になんてさせない。
王になれば、その過酷な責務と期待に症状が悪化してしまうかもしれない。
もしかしたら、このまま療養させていれば良くなっていくかもしれない。
生きて、くれるかもしれない。
だからスバルが王になるのだ。あの人が生きるために。死んでほしくないから。
だからユキを手放したのだ。死んでほしくないから。いなくなってほしくないから。
スバルの願いはただそれだけなのだ。
『ごめんね、スバル。愛しているよ』
『ただあの人の、スバル殿下のおそばにいたいのです』
エイシの優し気な声を思い出す。
キリエルから聞いたユキの悲痛な願いを思い出す。
「馬鹿じゃねぇの……」
スバルは執務室に向かっていた動きを止めて、呟く。
こんな自分のために、自身を犠牲にする必要なんてないのに。
でも、それはスバルも同じことなのか――……?
スバルも、これが自分を犠牲にしている行為なのだろうか。
エイシと同じように、自身を犠牲にしようとしているスバルを放っておけなかったのだろうか。だとしたら、エイシにその決断をさせてしまったのは、スバルの行いのせいだ。もし、スバルがユキを手放して王になろうとしなければ、エイシは今のように苦しまずに済んだのではないだろうか。
それはユキだってそうだ。スバルが婚約破棄しなければ、ユキは厳しい訓練を受けて、いらない傷を受けて、護衛騎士になんてならなかった。
もしかして、無駄だったのか。今までのことがすべて――……。
だけど、どうすればよかった――……!
スバルは俯いて唇を噛む。
今では後悔が胸の中で渦巻く。あの時はこれが最善だと思った。スバルが王になってしまえさえすれば、エイシはその重荷から解放され、ユキはどこかで幸せに生きられる。スバルが我慢すればいいだけのことだった。それでもよかった。兄が、エイシが、ユキが、生きてくれるなら、幸せになってくれるなら、スバルはできたのだ。
けれど、否定される。助けたかったエイシに、ユキに。
これからどうすればいい。
わからない。わからない。
相反する。
エイシの望みを叶えるためには、スバルは幸せにならなくてはならない。
そして、ユキの望みを叶えるためには、スバルはユキを手放すわけにはいかない。
けれど、スバルの望みを叶えるためには、スバルは王になってユキを手放さなくてはならない。
しかし、エイシは言う。真のスバルの望みは王族を抜け出し、ユキと幸せになることだと。
スバルは、目元を片手で覆った。
泣きそうになっている顔を、誰にも見られないようにするために。
知りたくなかった。思い出したくなかった。
スバルが昔、夢に描いていたことを。そしてまだその夢を心に描いていることを。
見てみたかった。エイシが王になった国を。
尊敬していたから。なんでもスバルに教えてくれて、大らかな、けれど冷静な判断を下せる人だから。人をからかうあのユーモアも、きっと国に明るい未来を与えただろう。
スバルはその光景を見届け、愛しているユキと一緒にどこか遠い地に赴いて静かに暮らしていきたかった。
これがスバルの夢だった。誰も語ってこなかった、スバルの夢。
「ちくしょう……ッ」
スバルは顔を覆ったまま、廊下の壁にもたれかかった。周りで使用人たちが心配するような気配を感じたが、触れてはいけない雰囲気を感じたのか、使用人たちはその場を離れていった。
そしてスバルは一人、静かに涙を流しながら、悔しそうに唇を噛んだ。
窓から差し込む夕日が眩しいからだと、心の中で言い訳をして――……。
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次の日の朝。
ユキは、いつもより早い時間に目が覚めた。
昨日は久しぶりにゆっくりしたせいで反動で早く起きてしまった。一つ欠神をしてベットからおり、身支度を整える。頬の腫れが少し収まっていたのを確認し、ユキはネグリジェを脱いでブラウスを羽織った。
いつもは身支度はメイドのサヤが行っているが、今日は早く起きたので自分ですることにした。ユキは自分で身支度ができないわけではない。けれど、サヤはユキの世話をしたがる。というのもサヤは何かとユキにおしゃれをさせたがるのだ。
このネグリジェもそうだ。本当はこの格好だと夜に警護するとき動きにくいのだが、サヤがせめて寝るときだけでもと言って懇願してきたので仕方なく着ている。サヤは髪型や化粧、服装を人一倍気にする。前は制服のネクタイをリボンに変えようとしていたし、いつもぞんざいにくくっている髪型だって、編み込みを入れたりして可愛くさせようとする。令嬢時代は受け入れていたが、騎士になってからはそういう女性らしい何かをすると、騎士を軽んじていると思われるかもしれないので、あまりしないようにしていた。
正直ユキも面倒だと思っていたのだ。
令嬢の頃からおしゃれなんかも興味なかった。けれどスバルが見てくれるかもしれない、好きになってくれるかもしれないと思ってドレスも髪飾りも頑張って可愛いものを選んでいたのだ。しかし騎士になった今ではもう必要ない。
けれどサヤは諦めなかった。騎士の服装でもなんとかユキをかわいくしようとおしゃれをさせてくる。サヤ曰く、女性を忘れないように、ということらしい。だからせめて化粧だけはサヤに任せている。肌荒れと日焼け対策らしい。まあサヤが好きなら別にいいのだが。しかし早く身支度ができる方がユキにとっては楽だし、スバルにだって早くに会える。
すると、コンコンと扉からノックが聞き、身支度をしていた動きを止めた。
「ユキさん、起きてますか?」
ユウトの声だ。しかしユキは眉を潜めた。
昨日は、ノックもせずに遠慮なく入ってきたくせに、今日は何なのだ。
すると、ふとユキは自分の恰好を見下ろした。ブラウスは中途半端にボタンを閉め、下はまだズボンを履いておらず下着姿だ。下着は白いレース状の生地に胸の真ん中には控えめにリボンが施されている。確かに今この格好の時に入られたら困っていただろう。
しかしユキは一昨日のことで思ったことがある。
男に襲われた時、怖くなった。裸にされかけて、男に今から何をされるかを想像して恐怖して身体が震えた。
けれど、今ユキは騎士だ。こんなことを毎度されて震えてなんかいられない。スバルの護衛騎士ならば、常に冷静になって対処できていなければならない。身体を見られたからってどうだ。別になんてことはない。下着姿になろうと裸になろうとどんな時もスバルを守るために駆け付けなければならないのだ。羞恥は今からでも捨てるべきだ。
そうだ。慣れなければ。今ここで。
そう決心しブラウスのボタンを留めかけていた手を下した。
「ユキさん? 寝てるんすか?」
返事がないことで寝てると思ったユウトは扉をゆっくり開けた。
「お邪魔しまーす……ッて起きてんじゃないっすか! 着替え中ならそう言ってくださいっす! ノックしたでしょ⁉」
顔を少し赤くしながらそう叫び、扉を閉めようとするとユキがつかさず足で扉を抑えてきた。
「はあ⁉ 何してんすか⁉」
「いいから! このまま閉めずにお前は私の裸でも見ていろ!」
「あんた頭おかしくなったのか⁉」
必死に閉めようとするユウトにユキは精一杯の力で抵抗する。
そうだ。まずユウトに見られることで慣れることにしよう。
ユウトも一応は男だ。男性から裸を見られる、という状況を作りだすことは可能だ。これでユキ自身裸を見られることに慣れてしまえば、今後何があってもスバルのもとに駆け付けられるし、恐怖心も薄まるだろう。
しかし、ユウトにとってはユキのわけのわからない行動に混乱するばかりだ。
「なに裸見られたがってるんすか! あんたは痴女か! 一昨日はあんなに怯えて泣いてたくせに!」
「な……ッ!」
ユウトの発言で、一昨日の夜泣いていたことを知られていたと知り、顔を赤くした。
「う、うるさいッ! そのための練習なんだ! 付き合えッ!」
「何の練習だよ⁉ あんた実は馬鹿なのか⁉」
「誰が馬鹿だ! これでも周りの貴族たちからは秀才だと認められていた‼」
「そういうことじゃないっすよ! 裸を見られたがる女なんてどこにいるんすか!」
「ここにいるだろう⁉ いいからさっさとその手をは、な、せッ‼」
「い、や、だ‼ 俺がスバル殿下に殺されるじゃないっすか‼」
なかなか放さないユウトにユキは苛ついてさらに力を強める。ぎりぎりと攻防戦が続いた。扉が開いたり閉まりかけたり。もし今廊下に誰かが通ったら自分の下着姿が見えるかもしれないが、そんなこと気にしてられない。今は何よりこの扉の攻防戦に打ち勝つことが最優先だ。
扉の開け閉めを繰り返すたびに顔をさらに赤くしていくユウトをよそに、ユキはさらに足に力をいれ姿勢を低くした。これで引っ張る力も強まるはずだ。そろそろ扉がギィギィと悲鳴を上げ始めているのは気になるが。
しかし、そのおかげで扉が開きかけている。勝ったと笑みを浮かべるユキだが、ユウトは顔を真っ赤にしながら、慌てたようにギュッと目を瞑った。
「こんっの馬鹿‼ 俺じゃなかったら一発で襲われてましたよ……ッ⁉」
「誰が襲われるって?」
すると突然ユウトの横から冷たい声が聞こえた。見知った声に、ユキもユウトも動きを止めた。
お互い動きを止め、ユウトは身体をガタガタと震わせながらゆっくりと声の方に向いた。そこには、いつもの通り不機嫌そうな顔をしたスバルが腕を組んで隣の部屋の扉の前に立っていた。
「でえええええ⁉ スバル殿下‼」
「え⁉ ス、スバル殿下……ッ⁉」
「おわッ!」
ユウトは顔を青くし、目の前の人物の名前を声にあげた。すると、スバルが近くにいることを知ったユキは顔を赤くして慌てて取手から手を放した。放した拍子に力強く引っ張っていたユウトは、勢いよく後方に吹っ飛び壁に激突する。その拍子に扉が閉まった。
ユウトは、壁から勢いよく起き上がって怒りに染まった表情でユキの部屋の扉に近付いた。
「ちょおおおおおおっと⁉ おいこらああああああああ‼ スバル殿下が来たら閉めるってどういうこと⁉ 俺だったらよくてスバル殿下はだめなのかよ‼ ちょっと腹立つんすけどぉ⁉ 出てこぉおおおおおおおい‼」
「うるせえ‼ 一体何なんだってんだ!」
ドンドンと扉を乱暴に叩きながら怒鳴るユウトに、スバルはうるさそうに顔をしかめた。
そのころ、ユキはユウトとスバルの声を聞きながら急いで身支度を整え始める。
「ス、スバル殿下が来た……ッ!」
スバルが来た。早く着替えないと。
先ほどまで平気だったのに、スバルに見られると思った瞬間急に恥ずかしくなってきた。焦りと恥ずかしさでモタモタしていると、扉の向こうでもう一人の声がした。
「あのぉ……すみません。そこよろしいでしょうか?」
「あ?」
扉から聞こえてくる見知った声とスバルの声が聞こえた。ユキはその扉の声の主に気づいて、顔を明るくした。期待しながら扉を見つめていると、その扉がゆっくりと開き、思っていた人物が姿を現した。
甘栗色の緩いウェーブのかかった髪に、若草色の瞳を持つ小動物を思わせる可愛らしい顔立ちをしたメイド服を着た少女。
「サヤ!」
扉から姿を現したのは、ユキの専属メイドのサヤだ。
サヤの姿にユキは安心して駆け寄って抱きしめた。
「お嬢様! お元気になられて良かったです!」
抱きしめられたサヤはユキと同じように抱きしめ返し、喜びの声をあげた。しかしすぐに涙交じりの声が聞こえてきた。
「お嬢様! ……ッ私、もう、心配で、心配で……ッ! お嬢様が傷つくなんてもう見ていられません! どうしてお嬢様ばかりがこんな目に……ッ!」
抱きしめていた身体を離し、涙を流しながらユキを見る。その瞳には本当にユキを按じている様子がうかがえて、ユキは嬉しくなってサヤに微笑んだ。
「ごめんね。心配かけた。けれど、大丈夫だ。こんなことでへこんでられないさ」
「けど、まさか男性に襲われるなんてッ! ひどいです!」
サヤは顔を覆って悲痛な叫びをあげた。しかしユキはその様子に嬉しそうに微笑む。
サヤは昔からこうだ。
暴力を振るっていたツクヨ男爵にも、さすがに目の前では言わなかったがユキの世話をしながら悪口を言って怒っていた。
女性を殴るなんて最低だとか。ユキの綺麗な顔に傷が残ったらどうするのかとか。ツクヨ男爵は男性としても、人間性としても虫けら以下だとか。
サヤはいつもユキの為に怒ってくれるのだ。だからユキはツクヨ男爵に暴力を振るわれても頑張ってこれたのだ。
「私のために怒ってくれて嬉しいよ。……サヤ、大好き」
「……ッお嬢様!」
サヤは感動してかさらに涙を流した。ユキはそれを優しくぬぐう。
これはユキの本心だ。いつもユキの心配をしてくれて、ツクヨ家から出た後もついてきてくれて、王城に一緒にいたいというユキのわがままもきいてくれてくれた。
真っ直ぐで、素直で、ユキに甘くて、けれど時々厳しい、そんなサヤがユキは大好きだった。
これが、友達、というものなのだろうか。
いやいや、とユキは心の中で首を振る。
こんなこと言えばサヤは引いてしまうかもしれない。楽観的な思考や思い込みは相手を不快にさせてしまう。
すると、ふと疑問が浮かんだ。
「それはそうと、今日は早いんだな」
そうだ。この時間はまだサヤが来る時間帯ではない。
首を傾げていると、サヤは先ほどの涙を消し、顔をぱっと明るくさせた。
「はい! お嬢様の身支度を早めに整えようと思いまして!」
「へ?」
何か用事があるのでは、と思っていたユキはサヤの発言に素っ頓狂な声をあげる。
恐る恐るサヤの手に持っている物を見ると色々な化粧道具や髪飾りがはみ出ている大きなバッグを持っていた。いつもはこんな大きなバッグは持っていない。嫌な予感がする。
そのころサヤはユキの表情に気づいてか気づいていないのか、にっこりと笑ってバッグを顔の目の前に掲げた。
「では、さっそく!」
「ま、まてサヤ……。で、殿下がもう起きているから仕事をしないと……」
そういうとサヤは口に手をあててわざとらしく声をあげた。
「まあ! スバル殿下は女性の身支度も待てないような小さい男性なのですか?」
「あ、いや、その……」
そう言われてしまえばユキは弱い。
どういい返そうか悩んでいると、サヤはポーチを持ちながら腰に手を当てて、ふんっと鼻を鳴らした。
「お嬢様! こんなときこそおしゃれですよ! おしゃれをして、嫌な気持ちなんて吹き飛ばしましょう!」
「あー……。いや、いらな……」
「スバル殿下もきっと喜ばれますよ?」
「……」
正直にいらないと言おうとしたとき、スバルの名前が出てきてぴたりと言葉を止める。
――スバルが喜ぶ? なぜだ?
そう疑問を含んだ目で見ていると、サヤはニタっと意地悪く笑った。
「男性は女性が綺麗に変化するだけで、舞い上がってときめくものです。きっとお嬢様がおしゃれをして綺麗になれば、スバル殿下の気分も明るくなりますよ!」
「そ、そうなのか……?」
ユキは男性の一般事情というものを知らないから、サヤがそうだと言われればそうなのだろう。確かに最近スバルは、暗殺のことや通常業務が重なってあまり休めておらず、気分も沈んでいたように思う。もし、ユキがおしゃれをして綺麗になれば、サヤの言う通り、スバルの気分も明るくなってスバルにいい効果を与えられるのかもしれない。
もやもやとユキは考え込んでいた。
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ユキが少し逡巡するように顔を俯かせている間、サヤはバレないように笑いをこらえていた。
(スバル殿下にお嬢様の魅力を伝えるチャンス! これを逃すわけにはいかない!)
仕返しだと言っていたのも本当だろうが、本当はスバルのそばにいたいがために頑張って護衛騎士になったことは、サヤにはバレバレだ。隠しているつもりだろうが、長年一緒にいたサヤには通じない。
よく事情は知らないがユキを婚約破棄した見どころのないスバルに、がつんとユキの魅力を伝えて、あわよくば両想いになってほしい。サヤの願いはただその一つだった。
こんなに頑張ってきたのだ。少しぐらいユキの気持ちが報われてもいいだろう。
周りが認めなくても、サヤが認める。ユキには幸せになる権利がある。
サヤはそう確信している。だからこそ、サヤにできることを精一杯するのだ。
――あともう一押し。
「……お嬢様、私はお嬢様の身支度を整えることが生きがいなのです」
「サヤ……」
わざとらしく涙ぐんでいると、感動したようにユキはサヤの名前を呼んだ。こんな純粋なユキをだましていることは心苦しいが、本心でもあるので気にしないことにした。
「どうか、私の生きがいを奪わないでくださいませ……」
そう悲痛な面持ちで言うと、とうとうユキは諦めたように笑った。
「わかった。スバル殿下と、サヤの為だ。でも、今日だけだからな?」
「……ッはい!」
作戦成功だ。サヤは心の中でほくそ笑む。
(見ていなさい。見る目のない可哀想なスバル殿下! 私の技術でメロメロにしてやるわッ!)
そう思いながらサヤは、意気揚々とユキの身支度を始めた。
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そのころ、ユキの部屋の外では。
「で、誰が襲われるって?」
「……えっと」
スバルは、ユウトに冷たい視線を浴びせながら質問、いや尋問していた。
さすがのユウトも冷や汗がでる。本当のことを言ったらきっと殺される。
「あー……俺そんなこと言ってましたっけ?」
ユウトはとぼけることにした。明後日の方向を向いて白々しくボケてみる。
しかしスバルは、腕を組んでユキのいる扉を見つめた。
「裸がどうのっていうのは聞こえたが?」
それを聞いた瞬間、先ほどのユキの艶かしい下着姿を思い出してユウトは顔を赤くした。そして次いでスバルに対して罪悪感に襲われ、勢いよく廊下に土下座をした。
「うわああああああ‼ すんません! すんません! 見たくて見たんじゃないんです! あれは勝手にユキさんが下着姿を見せてきたっていうか、なんていうか! おおおおお俺は決して邪な気持ちなんてなかったっすよ‼ 本当っすよ⁉ ほんのちょっとだけ見えて、『あ、意外に胸あるな』とかしか思ってないんで‼」
「……へえ。なるほど、扉の向こうのあいつはそんな恰好をしていたのか。それでお前はそれを見たと?」
「……あ」
そうだ。スバルは一度も扉の向こうのユキの格好について語っていない。しかもよく考えれば、スバルの角度から部屋にいるユキの姿が見えるはずがなかったのだ。
つい裸という言葉に動揺して、墓穴を掘ってしまった。
たらりと嫌な汗が額から流れる。恐る恐る顔をあげると、そこには先ほどの冷たい視線をさらに冷たくしたスバルがいた。まるでこの国を凍らせにきた、さながら魔王と呼ぶにふさわしい形相をしていた。
あまりの恐ろしさにガクガクと身体の震えは止まらず、そしてその後に何も言わずにじっと見下ろしてくるスバルが恐ろしくて仕方がない。いつもなら怒って殴っていてもおかしくないのに。
そう思った瞬間、頭を下げていたユウトの頭は廊下の床に食い込んでいた。
シリアルとギャグで風邪ひくかもです……。




