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紫陽花の季節

作者: しずく



この季節も見納め、花は咲き誇りをやめて緑のみを残し去っていく7月。

二人の思い出の季節が巡るけれど、私の心はもう踊らない。




国語で習った和歌の冒頭を思い出しては、若さって大事だなと改めて感じる。

もうあと2ヶ月で私は三十路を迎える。

ながあめ…えっとなんだっけ。

そりゃ、十何年思い出してなきゃ忘れるか、和歌なんか。


雨音は怒るように激しくなるが、きっとこの分だと私の仕事前には止むんだと思う。それはそれでラッキーかなと眼鏡を探して枕を叩く。


痛いんだけど。

おっと、隣の旦那が相も変わらずいつもの通りスマートフォンをがっちりと掴んでLINEを見せないようにこちらを睨んでくる。

もうすぐ40ながらLINEとスマホゲーム中毒の重患者だ。

結婚しても尚夕方から朝まで飲み明かす元気っ子。いやいや、年考えろし。確かに見た目は30歳前半だけどさ…結婚したなら朝までは控えろよな、この浪費家。


何て事は口に出すことなく、ごめんねーっと独り言の様に呟いて布団を離れる。


…まぁ、浮気相手なんだろうなと過る考えはつい1ヶ月前のこと。

旅行先で上司に頼まれたと購入したご当地系のキティちゃんのハンカチ、女性受けが良さそうなお菓子。


ついこの前の旦那の誕生日には手帳をプレゼント…後にもう一度立ち寄って転勤する同僚に色違いをプレゼントすると言い、購入。しかしながら後日その同僚の送別品を相談される。さらに後日…夫婦してお気に入りのバンド(女性人気が高い)のライブDVDを知人に貸して…未だ返ってこない。

夜中コンビニに出掛ける回数が増え、遅いからと電話をすれば話し中。

極めつけは夜の営みの趣向がアブノーマルやら回数まで変わった。私的には満足の改善だが女の影がちらつくとどうにも気持ちが悪い。同じ皮膚で擦り合わせれていると思うと…もう鳥肌ものでーす。



…こんなにあからさまに女が居ますって言うような行動を取る男が何処にいるだろうかと思ったが…


そういえば前の彼氏もそんな分かりやすい嘘ついていたなと考えると案外女に夢中になる男はボロが出やすいのかもしれない。


しかも、なぜ私が毎回他の女にあげるプレゼントの代金を支払っているのか謎である。

腹立たしくあるけれども、ある程度生活費として貰ってるからしょうがないかなと…思う様にしている。

ただ、ボーナスの中身をちょろまかして貯金しているのには流石に…きっとどっかで浮気相手と旅行に行くのかしら。私の誕生日はきっと何もないのかな。

 


排水溝に私の長い髪の毛がグルグルと流れきれずに渦を巻いている。


シャワーが全部この黒い心と一緒に旦那への恋慕も流してくれればいいのに。

惚れた弱味だな、と失笑して支度を始める。



昔は心から相手を信じて尽くし、遊びもせず、ただ家のために時間と労力を費やしてきた。

犬が二匹居るのだがその世話と躾も私の仕事だ。

正直にいって私は猫派なので実は大して可愛くはなかったのだが、やはり一緒に住めば情も愛も芽生えるもので今では帰ると真っ先に撫でるような習慣がついている。

新婚の冠が外れてからも出掛けのキスと帰りのキスは欠かさない…愛犬に越されることが多いがこれはノーカウントとしている。


今は、ない。



化粧は薄め、髪はとかさず帽子を被る。

適当な服を着て仕事場の制服と弁当を持ってさっさと出る。

道が混む時間帯の出勤になってからというもの、慌ただしい出発が日常になった。

弁当はただコンビニに寄ることを避けるための質素なものだし、大概が腹に収まらずに終わる。

1日一食も望んで食さず、飲み物で過ごすこともある。

遥か昔の過度なダイエットを今も続けてしまっている。きっと心の中で旦那に飽きられたくないと言う想いの残り火なんだろうか。


胸糞悪い



吐きそうになって吐くものがないことに気づく。

時間が惜しいのでさっさと車に乗って勤務地に向かった。





旦那は昇進する様だ。

今まで何故上に上がれなかったのか不思議な位仕事が出来る人だった。同じ仕事をしていた私はその能力と人間性に惚れたのだ。

それは外面しか見てなかった。


人間性といったところで、所詮は仕事中の対人関係による人間味というもので、けして彼の本性から滲み出たものではなかった。能力は言わずもがな…仕事にしか使わない。

私も当時は若かったと言うことか。


昔に戻って言ってやりたいが、頑固で負けず嫌いの私が例え自分からだとしても従うと言うことはないと思う。

苦しくてもまだ、旦那の事を愛しているんだろと、泣きながらでも当時の私は核心をついてきただろうから。



結果は同じ。知ってたとしても、私は旦那と一緒になっただろう。



後悔は無い。ただ不快な時間を共に過ごし、この騙し合いが続くのかと思うと少しげんなりするくらいだ。



そう、総ては自分のせいなのでなんとも出来ない。

後悔はするものの解決にどう動いていいか…

勿論離婚ならそれ用の証拠を集めて今までのイライラを発散する方法もあるが、果たしてどこまでの関係かというところの問題である。


不貞行為と見なされるのは、そういう大人の行為があり、尚且つ複数回を立証しなければなはない。

一回であるならば証拠として弱い。

但し、立証できれば向こうからの離婚希望は跳ね退けることができ、不貞行為を行った両者に賠償を迫ることが出来るが…あの嘘つきな旦那は既婚者というのを隠していると思われるのできっと相手の方からは受け取れないだろう。

だから、証拠を集めるだけ無駄になるやもしれない。

そう、私はそれでも離婚はしたくないから。


それでもまぁ、別れるようなら今後彼も相手も困らない様にすっきりさっぱり自分にけじめをつけたいものだ…


旦那も二度と間違いを起こさないように学習してもらう他ない。


旦那の事で泣いて心を病むのは私で最後にしたい。

一つでもあの人のためになるなら私は鬼嫁にもなりましょう。


仕事ばかりで彼を省みなかった私。

私が物理的に傍にいなければすぐにでも誰かを求めてしまう彼。


私が一番悪い。

全部解っててわからないふりをしたから。

すべて相手のせいに心から出来たら、どんなに楽なんだろうね。



今日も彼は彼女を迎えにいく。



きっと今夜から明日の夜まで私は一人なんだろうね。



記念日は7月7日。

今年は運悪く雨だそうだ。



はなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに



春は過ぎて初夏になる。

雨はきっと長く続く。



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