だから異世界転移って何だよ
ふと気がついたら、俺は路地裏でひっくり返っていた。
辺りにあるものに見覚えがねえ。幅広の石畳で作られた直進の通路に俺は寝ているんだが、壁際に箱が大量に積まれている。自分の周りには瓶が大量に転がっていた。何だこの箱は。何だこの謎の瓶は。
自分がどこにいるのかもよく分からねえ。直前の記憶を引っ張り出してみても、家で寝ていたような気がする。どうなってやがる。
しばらく寝転がったままで記憶を探り出す。
何だか金髪の女が出てくる夢を見ていたような気がする。自称女神だったような。
そんでもってそいつが俺に何かをくれたような気が。
自分の手を見てみると、瓶を握りしめていた。ラベルには謎の文字。読めねえぞ。
おいおい、噂の異世界転移ってやつか?
何かこの瓶が凄い能力を秘めているとか、凄い能力を使うための道具だったりするのか?
よく見たら、ラベルが逆になっているだけだった。霞んだ目をこすってもう一度見る。こりゃ酒瓶だ。
それで思い出した。俺は酒場で酒を飲んだ後、路地裏で寝ただけだった。家に帰ったのは気のせいで、女神っぽいのはただの夢だ。
周りにある瓶も全部酒瓶だ。積んである箱も酒瓶が入ってるだけだ。
全部俺が飲んだのか? 記憶がねえな。
朝から冴えねえな、全く。
ま、俺はこの世界が気に入ってるから、別の世界なんてものがあったとしても行きたくねえがな。
欠伸を一つ噛み殺して、寝たまま持っていた酒瓶を適当に放り投げる。酒瓶に向かって別れの挨拶も忘れない。じゃあな、昨日は楽しかったぜ。覚えてねえけど。
「いだいっ!!」
酒瓶が喋りやがった。まだ酔ってるな、俺。
なんか足音が聞こえるような。酒瓶に足が生えてこっち来てんのか。やっぱ異世界に来たのかもしれねえ。
寝てる俺の真上に女の顔がいきなり出てきた。俺の顔を覗き込んできている。金髪の女だ、夢で見た奴とちょっと似てるな。まぁまぁ小綺麗な顔だし、若い。
目がつり上がっていやがる。つまり、かなりキレてるってことだ。
こりゃあれか。女神はやっぱり夢じゃなくて、あの瓶自体が女神だったってことか。そりゃ投げられたらキレるわな。
「ちょっとあんた!! いきなり酒瓶投げてくるとかどういうつもりよ!!」
女神が怒声をぶつけてきた。眠気が残る頭には嫌に響く。
ちょっと視線をずらしてみると、女は酒瓶を持っていた。多分、俺が投げたやつだ。
おかしいな。つまり酒瓶は女神じゃないってことか。
……酒瓶が女神とか俺ぁ何言ってんだ? まだ酔ってるな。
「すっごく痛かったんだからね! 謝りなさいよ、ほら!!」
女神じゃねえ女が何かキレてやがる。うーん、何でだ?
ちょっと考えて俺は気がついた。つまり、俺が見もせず放り投げた酒瓶がこいつにぶつかったってことだろう。
それでこいつは痛がってキレてる、と。なるほど。
じゃあ俺は悪くねえな。眠いし、寝るか。
そう思って俺は目を閉じる。次の瞬間、頭に硬いものがぶつかる衝撃が走る。
「いでえっ!!」
思わず起き上がって頭を押さえる。むちゃくちゃいてえ。
俺の前ではさっきの金髪の女が酒瓶を振り下ろした姿勢で止まっていた。
酒瓶で殴るとか何考えてんだこいつ、酔ってんのか!?
「ちゃんと! 謝り! なさいよ!」
女は怒りの形相でまた酒瓶を振り上げる。
あんなもので何度も殴られたら馬鹿になっちまう。いや、とっくに馬鹿だが悪化する。
「お、お姉ちゃん! それ以上はダメだよ!」
もう一人、女がやってきてブチ切れてる女を止めに入る。姉ちゃんとか言ってるから姉妹か。
「止めるんじゃないわよ! どう考えたってこいつが悪いでしょ!」
「で、でも、悪気があったわけじゃないかもしれないし、それ以上叩いたら危ないよ!」
姉の暴行を止めようと妹は必死だ。姉の振り上がった両腕を頑張って押し止めている。
朝っぱらから変なことになっちまった。路地裏なんかで寝るもんじゃねえな。
さてどうするか。痛む頭をさすりながら、俺は改めてこの姉妹をよく観察してみた。
姉の方は長い金髪がそれなりに色気がある。顔も悪くないし、何より胸がでかい。妙に短いスカートからちょっと覗く太腿なんかは舐めたくなる。
妹は姉と比べるともう少しガキっぽい顔立ちだ。背も低いせいで余計に幼く見えるが、そのくせ胸は姉よりでかい。性格も弱気っぽいし、かなり美味そうだ。
俺は考えた。ここで会ったのも何かの縁だろうし、朝飯の代わりに女を食うってのも悪くなさそうだ。よし、決めた。
腰に固定してある魔導書を引き抜く。錠前が外れて巻きついている鎖が勝手に解ける。開かれた白紙のページの上で魔法陣が展開。
「……え?」
「ほぇ?」
姉妹が魔導書を見て揃って呆けた顔を並べる。
「1号、出てこい」
俺の呼びかけに応えて魔法陣から黒々とした触手が出現。美人姉妹の二の腕、太腿、首、腰に絡みついて持ち上げる。
「ひっ、やぁあああああああっ!?」
「きゃぁああああああっ!!」
路地裏に絶叫が響く。うーん、いい声じゃねえか。
そこそこ表の通りから離れているとはいえ、あんまり騒がれると流石に誰か来ちまう。口を塞いでとっとと終わらせるとしよう。
俺の意思を読み取って1号が女どもの口を触手で覆う。
「んーっ! んーっ! んーっ!!」
妹の方は怖いのか目をぎゅっと閉じて震えてるが姉が暴れるわ騒ぐわ。口を塞がれたままでもくぐもった声をあげて両手足をばたつかせてやがる。といっても、1号の触手の力はかなりのもんだ。女がちょっと暴れたぐらいじゃびくともしない。
「さぁて、どこからやってやろうかなぁ」
姉の方が俺を睨みつけてくる。まぁまぁ迫力あるが今の状態じゃ逆効果だな。これからどんな風に表情を変えるかと思うと、むしろ興奮してくる。
姉の方だの妹の方だのじゃ何か味気ねえな。名前ぐらい聞いとくべきだったか。
こういうとき、最初は活きのいい方から遊ぶのが俺の最適解だ。
1号の触手が暴れる女を引き寄せて俺の手前で止める。きつめに触手が締め付け、痛みに女が苦鳴をあげて動きを止める。
その間に俺は太腿に顔を寄せて舌を這わせる。ちょっとしょっぱい汗の味がするな。最高だ。
相変わらず姉が俺を睨んできてるが、ちょっと涙目になってやがる。よっぽど今のが気持ち悪かったんだろうな。俺のやったことを見たせいで妹の方は顔面蒼白になってる。安心しろって、次はお前だからよ。
スカートの中に手を入れて内腿をさすりながら、1号の触手が妹を引き寄せる。こっちは騒ぐ様子がないからそんなに締め付けなくても良さそうだ。
俺が胸に手を当てると、一度だけびくっと震える。たまんねえなぁ、いい反応しやがるぜ。
「んーっ!!」
妹に手を出したせいで姉がまた声を張り上げて抗議してくる。無視だ、無視。
そのまま少し胸を持ち上げて軽く揉む。服の上から見る以上に大きさと重さがあって、俺の手に合わせて形がよく変わる。
「……ふっ……っ……!」
ついに泣き出しちまった。ぼろぼろと目尻から涙が溢れてる。
「んな泣くなよ。身体の部位を触ってるだけだろ? 減るもんじゃねえしよぉ。それに、どうせそのうち男に触らせるんだから一緒だろ?」
一生処女ってわけでもねえだろうし。泣くほどのことなのかね。俺には分かんねえな。
どうせ泣かせるんなら弱気な女よりも強気な女の方が興奮できる。胸を軽くぽんぽんと叩いて一旦離す。後でまた触ってやるから待ってろよ。
姉の睨む目に殺意が見える。可愛い妹に手を出したから殺すって感じだ。
「おー怖い怖い。じゃあお前さんに代わりになってもらおうじゃねえか。妹よりマシだろ?」
今度は姉が肩を震わせる番だった。だが今までと違い暴れたりはしない。
そうそう。これが強気な方から手を出す理由なんだよ。次第に気が弱くなっちまうから、初めのうちは気が強いってところを楽しまねえとな。
1号の触手がスカートに張り付いて捲り上げる。白の生地にレースのついた可愛らしい下着を履いていた。
いよいよメインディッシュだ。俺はゆっくりとそれに指を近づけ──。
「そこまでだ!!」
ようとしたところで、何故だか若い男の声がした。何だ、このパンツ喋るのか?
女の身体をちょいと退けると通路に男が立っていやがった。黒っぽい服装の黒髪で……いや、容姿なんかどうでもいい。言うことがあるとしたら、剣を構えてるってところと、身体から魔力が発せられているってところだ。
「何か用か?」
「女の子の叫び声がしたから来てみたら、お前は何をやっている!!」
いきなり何だこいつ、見て分かんねえのか。これからこいつらを食うに決まってんだろ。何で聞いてんだ?
質問の意味が分からなくて黙ってると野郎が切っ先を向けてきた。
「その子たちを離してもらおうか」
よく分かんねえ勧告をしてきやがった。はい、つって離すと思ってんのか。
それともあれか。こいつもこの女どもとよろしくやりたいってことか。そりゃ困るな、こいつらは俺の獲物だ。
「いや、そうはいかねえな。つまみ食いしたいっていうんなら後にしろよ。俺が楽しんだ後で飽きたら分けてやるから」
野郎が歯噛みしてやがる。悔しいのかと思ったら違った。よく見たら、こりゃ怒ってるって顔だ。
「この外道め、覚悟しろ!!」
剣をもう一度構え直して、男が俺に向かって突っ込んでくる。
外道ってことは俺のやってることが良くないから怒ってんのか。たまにいるんだよな、こういうの。迷惑だからやめろよな全く。
野郎が剣を振り下ろす。1号の触手が割って入って受け止め、触手がぶった斬られた。
……は? ぶった斬られた?
「え?」
慌てて俺は身体を反らして躱す。剣の切っ先が目の前を通過。おっかねえ。
切断された1号の触手が地面に落下して痙攣したようにのたうちまわる。次第に動きが止まり、魔力の淡い燐光となって消えていった。
おいおいおいおい、こいつ1号の触手斬りやがった、信じられねえ! どんだけ頑丈だと思ってやがる!
「ちょっと、痛いんだけど」
1号が文句を言ってきたがそれどころじゃない。触手が斬れるんじゃ、人間の身体なんか豆腐みたいにスパスパいけちまうぞ。
びびってる俺を尻目に野郎が女どもを掴まえてる触手に向かう。やばい。
「でやぁあああっ!!」
高速の剣撃が振るわれて触手がばたばたと落とされる。宙に浮かされていた姉妹は支えを失って落下。それを野郎が片腕ずつで掴まえる。
「っと、大丈夫?」
「え、えぇ……」
「あ、ありがとう、ございますっ」
女どもが呆けた顔で礼を言う。
どうなってんだよこれは、おい。
「この世界に来た途端にこんなトラブルを見つけるなんて思わなかったよ。さぁ、逃げよう!」
わけのわかんねえことを言って野郎が剣を鞘に戻してから姉妹を片腕ずつで抱えて跳躍する。一息で隣接している建物の屋上まで消えていった。
……終わり? ここには何も残ってねえ。魔導書持って突っ立ってる俺がいるだけだ。
つまりなんだ、どういうことだ。
「要するにマスターは獲物を取られて逃げられたってことですね」
「無様じゃのう」
「痛いんだけど」
胸ポケットにいる花と肩の上の2号と頭の上の1号が順に言ってくる。
「……ふざけんじゃねぇぞぉおおおおおおっ!!」
俺は力の限り叫んだ。いきなりぽっと出てきた若造に折角の獲物を取られたままにしてたまるかってんだ。
どうせあれだろ、わけわかんねえこと言ってたから自称異世界人だろ。舐めやがって。
このままで済むと思うなよ!




