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セクシャル・セクシャリティ

作者: fullfull


それに気付いたのは去年のことだった。



ハタチになった私たちは(中にはまだ未成年の子もいたけど)合法的にお酒が飲めるということで仲のいい女友達だけで集まって家でタコパ&飲み会を決行した。


家だったから皆ゆるい服装だったし、夏で薄着ということもあって、私たちはかなり無防備な格好をしていた。


ハタチになる前からお酒は飲んでいたのだけれど、「合法的」「ハタチ」「大人」という言葉たちが私たちの何かを助長させたのか、その日はみんなかなり飲んでいたし、わたしもかなり酔っていた。


たぶん、それが大きな要因なんだと思うのだけれど、わたしは明香里の小さな胸を覆って いる、見え隠れするブラジャーが少し気になっていた。


その奥にあるものや、無防備な太 ももに触れたいとも少しは思っていたかもしれない。



「ねー誰かチューしよチュー!」


と、急に瑠璃子が騒ぎ出した。



誰も瑠璃子とはしたがらなかったのには笑ったけど、瑠璃子は「いいもん!じゃあルリが決める!明香里!由貴にチューして!」と、言い始めた。


他の皆は盛り上がっていたけど、さすがにわたしは、いやいやいや、という感じで振る舞っていた。


明香里も最初はそんな感じだったのだけれど、かなり飲んでいたこともあったのか「えー、もう仕方ないなぁ~」とずりずりと近づいてきてわたしにキスをした。


キャー!マジでマジで!なんでルリにはしてくんないの!!とみんな騒いでいたけどわたしはもうそれどころではなかった。


当時、彼氏はいたけど、彼氏としてるときと似たような興奮がわたしを包んだ。


そこから、女の子も好きになった。のだと思う。たぶん。











日本人の7.6%がセクシャルマイノリティらしい。


最近社員が自殺したことで色々話題のあの会社が調査していた。


明香里とのキスの後から、なんとなくそういうことが気になるようになった。


自分がバイセクシュアルというものに属するということに自覚的になったことが要因なんだと思う。


最近はパンセクシュアル、アセクシュアルなんていうのもあるらしい。性別なんて垣根はない!ということなのかなと勝手に思ってるけどどうなんだろう。


セクシャルマイノリティの人達が集うバーもあるみたい。


今度行ってみようかな。














理香とは幼稚園の頃からの仲だった。


友達は大勢いるけど、親友と呼べるのは多分理香ぐらい。


理香も同じだと思う。


理香は別の学部だから明香里のことは知らない。


だから理香には自分が女の子のことも好きだということを伝えられた。


理香は凄く驚いてはいたけど、「話してくれてありがとう。」と真面目な顔で言ってくれた。


やっぱり理香は親友だ。


幼稚園のときはよくチューしたり手繋いだり、「おっきくなったら結婚しようね!」なんて言い合っていたくらいだから。


でも、今になっても、セクシャルマイノリティであることを打ち明けても変わらないでいてくれるのは、本当にありがたいことだし奇跡的なことだと思う。


しょっちゅうお互いの家で二人で飲んでたのに最近あんまり会ってないな。


また今度家に遊びに行こう。













講義が終わって、ノートを鞄にしまっていると、美香に「今日飲みに行かない?貴之たちと行くんだけどなんか予定ある?」と聞かれた。


元々、誘われれば簡単についていく質だし、特に予定も無かったので参加することにした。貴之が誰だかも知らなかったけど。


はしご酒がマイブームだったから行ったことないお店だったら良いなーと思っていたけ ど、大学のすぐ近くにあるいつもの安居酒屋だった。


「ごめーん!ちょっと遅れちゃった!」と美香は軽いノリで話す。 「良いよ良いよ!」と男性陣。


その中の一人が、



あ、はじめまして、鈴木貴之です~!


チャラそうだなこの人、とわたしは思ったけど貴之は社会学部らしい。


いや、社会学部とか文学部の人が硬派っていうのは完全にわたしの偏見だけど。


他にもその場には男女合計で10人ほど居たけど貴之のことが一番印象として色濃い。


まぁ、あれだけ今の日本社会とか、経済とかについて初対面でべらべら話されたらそうなるよなぁと思う。


「普段の生活で何気なく見過ごしてしまうことに焦点を当てるのが社会学なんだよ!」


とか、あついよ。そして何者だよ。君は。


ただ、セクシャルマイノリティについて特に熱弁していたのが個人的に少し嬉しかったりもした。


「渋谷区では日本で初めて同性カップルに対して『結婚相当の関係』だと認める証明書を 発行してるし、どんどんそういう流れが強くなっていくべきだと俺は思うんだよ。もっと カミングアウトしやすい社会、LGBTの人たちが生きやすい社会になっていくべきなんだよ。」


「興味本位でゲイバーとかに行こうとするやつもいるけど、LGBTの人達は真剣なのにさ、興味本位で行くなんて馬鹿にしてると思うわけ。」


この人は「セクシャルマイノリティに関心がある俺ちょっとかっけー」とか、ちょっとは思ってるんだろうな。


まあ、他人と違うってけっこう重要だし。


それでもちょっとは嬉しいんだけど。













貴之に、自分がバイセクシュアルなことを伝えると何故か「そうなんだ!良いことだよそれは!」と喜ばれた。



熱量がうざいけどやっぱり嬉しい。


ちょっと、少し、認められたような気持ちになる。こうなるだろうと思っていたのだけれど。


それに、貴之はやたらと褒めてくれる。


「LGBTの人たちには可能性がある!」


「LGBTの人たちがもっと外に開いていけばそれは社会にとって大きな力になる!」


自分には無限の可能性があるような気持ちになる。


いや、あるんだと思う。


「7.6%もいるんだよ。でも7.6%しかいないんだよ。」

「むしろ選ばれた7.6%なんだと思うわけ。俺は。」


13人に1人。

13人の中でかけがえのないのはわたし。


「男、女にとらわれないところから始めないと。」

「7.6%にしかできないことがあると思うんだよ。」


わたしにしかできないこと。

少数派のわたしたちだけができること。














久しぶりに理香の家で二人で飲むことになった。


やっぱり、いろんな人と飲むのも楽しいけど、気心の知れた理香と飲むのが一番好きだ。



理香も同じだと思う。


理香は意地でもクーラーをつけないので仕方なく扇風機を強にして我慢する。


理香に貴之のことを話すと、面白い人だね、と笑ってくれた。


お前何様!?ってかんじだけどねー、とわたしはケラケラ笑った。


ソファに身をもたれかけてあいつ頭いいけど馬鹿だよなぁと思う。




でもさぁ、わたしも思うわけ。


13人に1人はLGBTなんだからさ。


もっとカミングアウトすれば良いのにね。


受け入れてくれない社会も問題だけど、LGBT側にも問題あるよね。


もっと自分からカミングアウトしていかないとさ、分かってもらえるわけないのに。


そんなことぐらい想像できないと駄目だよね。ほんと想像力って大事。



扇風機が生ぬるい風を吹かせている。



わたしはLGBTの一人として、そういうことを伝えていく役目があるのかなとも思うの。


言い切った後、わたしは手に持っていた残りのカシスオレンジを一気に飲みほした。


あー、あついなぁ。


暖色のライトで照らされた壁を見ながら、わたしは思う。


ふと、理香の方を見た。


理香は真面目な、静かな顔をしていた。


「あのね。」


んー?と猫なで声を出す。


「わたしも、女の子が好きなの。」


ー日本人の7.6%がセクシャルマイノリティらしい。ー


「もっと言うとね、あたし、幼稚園の頃から由貴のことが好きだったの。」


ー「おっきくなったら結婚しようね!」ー


「でも、やっぱり違う。」


ー「LGBTの人たちには可能性がある!」ー


「由貴はさ、カミングアウトすることが正しいと思ってるでしょ。」


ー「LGBTの人たちがもっと外に開いていけばそれは社会にとって大きな力になる!」ー


「でも、打ち明けられるようになることが最善じゃないよ。」


ー受け入れてくれない社会も問題だけど、LGBT側にも問題あるよね。ー


「誰が好きなのか、それを打ち明けるのかどうかは自分で決められるんだよ。」


ーそんなことぐらい想像できないと駄目だよね。ほんと想像力って大事。ー


「由貴はセクシャルマイノリティである自分を特別だと思って、さらにセクシャルマイノリティであることを打ち明けている『セクシャルマイノリティの中でもマイノリティな存 在』になりたいだけでしょ。」


ーわたしはLGBTの一人として、そういうことを伝えていく役目があるのかなとも思うの。ー


「由貴は、自分を特別だと思いたいだけなんだよ。」


座っているのに足下がぐらつく。


「そうしてないと立ってられないんだよ由貴は。」















ずっと泣いていた。


一日ぶりに鏡の前に立つ。


こんな顔じゃ学校行けないや。


目の前で、髪の毛ボサボサですっぴんでまぶたを腫らした21歳の女の子がこっちを見ている。


なんだか途端に笑えてきた。


あぁ、大丈夫だ。


マイノリティにならなくたって大丈夫だ。


わたしは、そんなものに頼らなくたって立っていられる。


まだまだぐらぐらしてるけど、でもきっと、わたしは大丈夫だ。




理香に「また今度ご飯行こう。」とLINEをする。


既読がついた。


返事が来ない。


どうなるか分からない。


でもわたしはきっと大丈夫だ。


わたしは、大丈夫な生き方をきっとしていく。


「これしかない」って生き方を、きっとしていくんだ。







携帯をベッドに投げたすぐ後に、ヴヴッと、バイブレーションの音がした。


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