異世界の特性
ずっとゴーレムの音で、私の気配を消せていると思っていた。
だが相手は、私の気配をずっと見抜き続け、しかもその私が発する消す音を利用して……己の攻撃手段を、消していた。
「この世界はよ、言ってしまえば作られた世界なんだとよ」
そんな巧い戦いをしてきた男の言葉を聞きながらも、私は未だ、この場所からの脱出を考え続ける。
しかし――考えれば考えるほど、逃げ出すための手段が皆無であることを、ただただ如実に突きつけられてしまう。
それこそ、「私の作戦を逆に利用し、己の能力を使うための準備をしていたこと」を筆頭に。
「他の世界の人間が、擬似的でも良いから争いをするために作られた世界」「俺は自分の世界に居たままじゃあ強いやつと戦えないからこの世界に連れてきて貰ったんだが……」
強さも絡めたあらゆる要素が、私の脱出が不可能だと知らしめる。
ゴーレムを用いた囮すらも破られ、こちらの位置はバレ、投げ飛ばす鉄針を的確に防御してみせる相手……もし私の手元に全ての鉄針がああろうとも、おそらくはどうやっても、逃げられない。
「お前はどうなんだ? 女」
暗殺者たる私は、こうした相手を、本人が気づかぬ間に殺すための存在だ。
もしくは毒を盛り、倒すための誰かの援護をする。
それが出来ない以上、そもそも私では、コイツと戦って勝てる可能性なんて無かったのだ。
例えその勝利条件が、逃走という形であろうとも。
それでも私は、彼と対峙しなければならなかった。
その理由こそが……私がこの世界に来た理由、そのもの。
「……勝手に連れてこられただけ」「あなたとは違う」「私達は、自分の意志では来ていない」
静かに、ただ淡々と事実だけを述べる私の言葉を聞き、男が無防備に腕を組む。
「なるほど……」「ってぇことは、この世界でしたいことは特に無いってことか?」
「当たり前」
隙だらけ……それなのに、私の力量ではその隙はすぐ無にされてしまうことが、分かってしまう。
「んじゃ、帰る手段があればすぐに帰りたいのか?」
「……帰れるの?」
「それは分かんねぇ」
内心、少しだけホッとした。
だって私は、出来れば『赤の姫』には、ココに留まって欲しいから。
彼女を迫害ばかりしてくる人間を助けようとする、なんて環境に、再び彼女を置きたくない。
「ただ、一つわかったことがある」「お前自身は戻りたくねぇんだろ?」
「……何故?」
先程の安堵は隠しきっていた自信がある。
しかし今回の驚愕は、隠しきれた自信が無かった。
「理由は簡単だ」「帰りたい奴ってのは、帰れるの? なんて訊き返さねぇ」「帰りたい、って答えるんだよ」「……ま、傭兵業を続けてきた上での、ただの経験則だがな」
たった一つの返事の仕方で見抜かれた。
しかしそれを認めるのは癪だったので、一言も発することはしなかった。
「そうやって帰りたくないって思ってるんなら」「この世界に留まりたい理由があんだろ?」
「……話さないといけない理由が?」
「俺を呼んだ妖精は、それを知りたがってる」「お前たちがこの世界にとって害になるのか否か」「それ次第では――」
「私達を殺す?」
男の話を止めてまで発した言葉に、いいや、とその男は首を振る。
「全力で戻す方法を探す」
「……なに? それは」
「そのままの意味だよ」「この世界に居て邪魔なら、元の世界に追い返すしかねぇんだよ」「少なくとも、この世界ではな」
「は?」
「言ったろ? ここは戦う奴のための世界だってな」「ここではな、普通に殺したんじゃ死なねぇんだよ」
「っ!」「そんな……不死の世界なんて、あり得ない……!」
「あり得るんだよ、これが」「現に俺は、二回死んでる」
二回……それって……。
「さっきの会話でも思い出したか?」「そうだ」「俺は二回、エレノアに殺されてんだよ」




