戦う以前の問題
「巧いな」
……もしかして、その私の狙いを褒めたのか。
イヤにハッキリと届いた男の呟きが、私の足を、止めさせた。
本能がこれ以上進むなと、訴えた。
その、私の止まった気配を敏感に察したのか。
男が私を見て――確かに笑った。
右方向から鉄針が迫り、遅れてゴーレムの攻撃が迫るのが分かっている、この目の慣れでどうすることも出来ない、魔法の暗闇の中で。
「――大地を弾く・歪な力――」
不意に、耳に届く男の言葉。
何かずっと続いていたような言葉の端。
もしかしたらそれは、ずっと口ずさんでいたものなのかもしれない。……いや、続いていたのだ。
さっき聞こえた男の言葉は、多分私が勝手に聞こえた気になっていただけの幻聴。自らの頭の中で響かせた、彼が言ったようが気がする言葉。
私の本能が、私の足を止めるために発した警告音。
だからイヤに、ハッキリと、聞こえた気になった。
「――我が身に宿り・力を与え――」
そう何かを唱えながら、男は迫る数本の鉄針全てを、中剣と外套を力強く振るうだけで弾き飛ばす。
そして真正面から迫るゴーレムの腕を――鉄針を弾くことで方向を調節させた石柱が倒れてくるよりも強いその刺突攻撃を――
「――破壊する力で、我が身を守れ!」
――何か、力強い言葉を叫びながら、その手に持つ一本の中剣で、受け止めた。
「なっ……」
呆気に取られたような声が、思わず口から漏れてしまう。
普通に考えて、あんな巨大なものがあんな勢いで襲ってきたら、避けようとしてしまうのが人間という生き物だ。
それをこの男は、あの短い剣一本で、受け止めた。
生存本能というものが欠けているのだろうか?
でなければあんな芸当、出来るはずもない。
このまま壁に向けて押し潰されて、その土の腕を赤と肉片に染めるための材料と成る……はずなのに、そうはならなかった。
一瞬、だった。
男が土塊の腕を止めていたのは。
「ふっ……!」
小さく短い、けれども力強い呼吸音。
同時、ゴーレムの腕が上に弾き飛ばされた。
真正面から迫る腕を受け止め、一瞬の内に下方向から力を加え、軌道を大きく逸らしたということ。
どこにそんな力があったのか。あの巨大な塊を上にズラすとなれば、相当の力が無ければならない。
あの細腕で――十分に太いがあくまで人間基準でしか無いソレで、そこまで出来るとは思えな――
「――っ」
魔法。
その言葉が、脳裏をチラつく。
さっきまで呟いていた何かの言葉。
アレがもし、あの男にとっての魔法発動の条件だとすれば……!
「本当は追撃してぇとこだがな……」「その隙にここを通られるのも困るんでな」
軌道を上に逸らされたゴーレムは、そのまま追撃すること無く腕を引き……誰にも攻撃されないからと、定位置に戻って、微動だにしなくなった。
そう……男は生存本能が欠けていたんじゃない。
生存本能に乗っ取った上でその場に留まり、対処して見せたのだ。
「あなたも、竜族……?」
独り言のような言葉の時もずっとこちらを見ている……既に位置がバレているのなら、隠れ続ける意味もない。
大人しく、気になったことを訊ねる。
それに男は、いや、と苦笑いを浮かべながら、
「その竜族ってのがお前の世界で魔法を使える存在を指すんだろうが……」「生憎と俺は、お前の世界の人間じゃない」
その言い方に、合点がいった。
先に出ていったあの二人とは違う――もちろん私の世界のものとも違う、魔法の発動のさせ方……それはつまり――
「俺がお前と同じ所があるとすりゃ」「それは、異世界人って部分だけだ」
――そういう、ことだ。




