戦いの前に
なんとか……ギリギリ間に合いました……。
これで今年の更新は終わります。
次は2日休んで、来年の3日(いつも通り4日の0時過ぎ)に更新いたします。
「…………」「……なるほどな」「確かに、その全部を封じてまでお前を殺さねぇのは」「俺みたいな力バカには難しそうだ」
「…………」
そうは言うが、出来ない、とは思っていないような表情が見える。
まるで……私の誘いに乗ってやる、と言わんばかり。
……苛立つと同時に、彼なら本当に出来るのだろう、という妙な確信を抱かせる。
経験則に基づく本能、だろう。ゴーレムと戦うエレノアとあおい姫を見た時に、この二人なら勝てる、と思った時と同じ、アレだ。
「ダメ!」
否定の言葉は『赤の姫』から。
>>私も反対
続いて、あおい姫からも。
>>あなたに死なれると、私も困るの
「どうして?」
>>私も私なりに、色々と知りたいからよ
「それなら、彼女だけでも大丈夫」「彼女は人を助けるために一人旅を続けてきた……」「立派な、人だから」
人。
私にとって彼女は、竜族ではあっても、人である。
人間ではなくても人なのだ。
だから……守りたい。
「大丈夫」
不安げに、私を見上げるその“人”に、私は告げる。
「彼を倒して、私も追いかけるから」「前までみたいに、あなたを影から守るから」
こういう時に、安心させるために笑顔の一つでも浮かべてやれれば良いのだろうが……生憎と、私にはそこまでのことは出来ない。
だから信用させるために、その手を握る。
「私の戦い方に、あなたは邪魔だから」
「っ!」
「だから……一人で、戦わせて」
そして、突き放すような言葉。
手を繋いでいるのに、言葉は違う。
けれどもそれは、今までの私を――彼女を影で守り続けてきた「頼もしいクロ」という、『赤の姫』が抱く私の幻影を思い出させるために、必要なこと。
「……分かった」「……でも、絶対に……」「また、私を守ってね」
「…………」
無言でその手を離し、二人の前に出る。
「話は決まったのか」
「ええ」「あおい姫、『赤の姫』のこと、お願い」
>>赤の姫……?
疑問には答えない。
「ほら、ガキども二人はさっさと部屋から出ろよ」「じゃねぇと、せっかくここに残ってくれるって言ったソイツの意志を無駄にしちまうぞ」
>>調子に乗って……エレノアに負ける癖に
「はんっ、いずれ勝つさ」
負け犬のようなセリフをあおい姫も告げて……エレノアと同じように、いつの間にか閉まっていた部屋の真ん中にある箱を開け、彼の隣を素通りして、部屋から出ていった。
これで残っているのは……彼と私の二人だけだ。
「さて……」
小さく呟く彼を見て、私は静かに、構えを取る。
そう……取るべき行動は、一つ。
私が一人残って、この男を殺すこと。
ただ、それだけだ。
大人しくついていく、なんて選択肢、最初から存在しない。
もし失敗しようとも、犠牲が『赤の姫』に及ぶことはない。
……これ以上の手があるというのなら、教えてほしいぐらいだ。
唯一の欠点は……やられそうになった時行うつもりの私の自害を、彼が妨害しやすくなったことぐらいか。
「…………」
鉄針を数本抜き、手の中に隠すよう袖に忍び込ませる。
「なるほど」「それがお前の暗殺道具か」
バレてる……しかも、抵抗するということも、だ。
『赤の姫』に小声で告げたことが聞こえたのか……いや、思えば最初からそれも見越して、彼女たち二人を逃したように思う。
あの二人がいれば、私が本気を出せない。
それが分かったからこそ、私の誘いに乗った。
戦闘狂。
そんな言葉が脳裏をチラついた。
「ま、無抵抗で来るとは思って無かったさ」「良いぜ」「俺に勝てるとは思えねぇが、相手してやるよ」
上から目線のその言葉にしかし、苛立つことはない。
これが相手の挑発と分かっているから。……もちろん、それもある。
しかしそれ以上に、私の中でスイッチが切り替わったからだ。
……暗殺者の戦いは、気配を断つことから始まる。
感情なんてものは、相手の五感に敏感に引っ掛けてしまうものの一つ。
だから……押し込めるのでも殺すのでもなく、無にする。
自然と。
霧散させて、消し去る。
……中剣一本を手に、ダラりと腕を下げたまま、自然体の構えを取る男。――それ故の隙の無さを確認しながら、私もまた、身を屈めて対峙した。
真正面からの戦いは、圧倒的に不慣れだ。
しかしそれでも……ここでは、やるしかない。
彼女を、逃がすためにも。




