宝の番人(5)
「ヒーリング!」
薄っすらと聞こえた声は、あおい姫のものか。
「……って、あれ……?」
思わず、声が漏れ出る。
そして自分の声が聞こえたことに対して、再び動揺が走る。
今度は、言葉を失くすという形で。
「クロっ!」
つい考えなしに、地面に腕をついて上体を起こしてしまう。
横向きで倒れていたのか、起き上がる時は片腕しか地面に触れなかった。
……そんな無防備な姿を晒してしまったせいだろう。身体全体に重い何かが飛びついてきた。
「っ!」
受け止めきれず、無様に倒れてしまう。
それでようやく、誰かが自分に襲い掛かってきたのだと気付いた。
「……?」
だが、どこにも痛みがない。
身体にナイフを突き入れられたような感触が無いのだ。
……いや……そうだ。
そもそも私は、あのデカくて硬いゴーレムとか呼ばれていた人間じゃない魔法を使う生物を相手にし……『赤の姫』を庇って、死んだはずだ。
それなのにどうして今……私はその『赤の姫』に、抱きしめられているんだ……?
>>死んでなくて良かった
『赤の姫』が抱きついてきたのとは反対側――最初に上体を起こした時の背中側から、そんな安堵にも似た声がした。倒れたまま顔を向けてみると、あおい姫が杖を構えて立っていた。
>>さすがに、NPCに復活魔法は効かないだろうしね
「復活魔法……?」「……もしかして、私を治したの……?」
>>そ。街でNPCにも魔法が効くかどうかって、昔気まぐれで調べてて良かった
>>そんなの調べてたんだ……
呆れたようなエレノアの声が、『赤の姫』の少し後ろから聞こえてきた。
顔を向けなくても気配で分かる。段々と感覚が戻ってきている証だ。
>>覚えたらとりあえず使ってみたくなるでしょ
「……わたしを、蘇らせたの……?」
>>じゃなくて、傷を治したの。私これでもヒーラーだからね
「魔法で傷を治せるの……?」
>>治せるの
「じゃあ……」「私は、死んでない……?」
>>ギリギリ、HPが残ってたの
HP……?
>>それよりも、その子のことを宥めなさいな
言われてようやく、ずっと抱きついたままの『赤の姫』を見た。
涙を滲ませ、泣くのを我慢し、喜んでくれている彼女を……。
「……そこまで」
私のことを、と続きそうになる言葉を、グッと飲み込む。
「当たり前じゃない」
けれどもその飲み込んだ言葉すらも分かったかのように、彼女はそう答えた。
私の胸に顔を押し付け、グリグリとしてくる心地よい重さ。
涙や鼻水で服が汚れることすらも気にならない。
こんなにも大事に思われたことなんて、一度としてなかった。
「でも私は――」
それが嬉しかったせいなのか。
つい、暗殺者だから、と言ってしまいそうになった。
「――死んでも構わない、量産品みたいなものだから」
咄嗟に言葉を変えるが、伝えたいことは変わっていない。
そもそも暗殺者なんてのは、消耗品だ。
潜入方法は自由だが、その先で捕まってしまえば、色々と情報を開示してしまう前に自害する存在。
拷問に掛けられずとも、服装や持ち物・身体の作りや怪我の治療痕だけで色々とバレてしまうものだ。
だから敢えてソレ等を残し、偽の情報を与える目的が無い限りは、自爆して自害する。
そうならず、目的を達成し・成功し・生還したところで、他の消耗品よりも長持ちするな、程度の価値しか、国は持ってくれない。
私が、そうだったように。
「そんなことない」
顔を上げ――潤ませた瞳で私の目を見て、彼女は言う。
言ってくれる。
「だってクロは……」「初めて、私を認めてくれた人間だから……」
「っ!」
言葉に、詰まった。
「あなたのおかげで……」「私は、人間を助けたいっていう」「自分が間違いじゃないっていうことに、気づけたんだから」




