幕間(3)
だいぶ長くなった上に遅くなった。
でもなんとか明日も更新したい。
こんな中途半端はアレだもんな……。
彼の独り言が多かったせいだ。
街中であれだけメッセージチャットに刻まれない吹き出しを作っていれば、そりゃイベントのことを知っているプレイヤーは色々と察する。
さっきからずっと後をつけられていた。
……いや、あの後ろからの魔法攻撃をあっさりと避け、しかも相手が展開して追い詰めようとしていた方向とは逆へと移動して囲まれないようにしているところを見ると、あの彼の独り言は案外ワザとだったのかもしれない。
>>避けられたっ!?
>>ミスじゃなくて露骨に避けたけど……
>>そういう仕様? 不意打ち出来ない的な
>>それなら尚の事ミスじゃない?
と、四人がパーティチャットで会話をしている。本当は言葉の前にそれぞれのキャラ名が表示されているのだが、誰が誰であっても構わないような内容だ。
そんな四人のパーティ構成は、近接属性が一人・遠距離属性が二人・魔法属性が一人といった感じだ。
このゲームで組めるパーティ最大人数で、バランスよく整っている。
ただ、男一人に女三人と、一見ハーレムパーティのような感じもするが……どうだろうか。全員中の人的には男のように見えなくもない。
>>まあでも、予定通りで良いだろ
>>おk。じゃあ攻める
パーティリーダーである唯一の男キャラの言葉に応えるように、小柄な桃髪のツインテ猫耳少女は彼に走り近づく。
その両手には既に武器が握られている。
身の丈以上の大剣。
現実世界ならあり得ない組み合わせだ。ゲームだからこそあり得る萌え要素だろう。
小柄な子が大きな武器を扱う姿が可愛く見える気持ちはすごく分か――ではなく、近接型の彼女のスタイルは『ヘビィスタイル』だということが、その姿から分かった。
大剣や斧・槍等、攻撃力は他の武器よりもワンランク高いが、重量がかなりある武器を扱うのに特化したスタイル。それが『ヘビィスタイル』だ。
基本的に武器は、キャラの攻撃力ステータスより低いものでないと、攻撃速度が極端に落ちてしまう。
モンスター相手なら気にすることじゃないかもしれないが、プレイヤーを相手にするならこれは致命的。
そうした致命を失くすために、『ヘビィスタイル』の固有スキル「両手持ち」がある。
一つの武器を両手で持つことで、武器の重量が半減される。そうすることで、他の武器と同じ攻撃速度で、圧倒的な攻撃力を備えた重量武器による攻撃が行えるようになる、ということだ。
「っと」
ブンッ! と音が聞こえてきそうな、早い大振りの横薙ぎ。しかし彼はその攻撃を受けること無く後ろに飛び、黒の外套すら掠めさせず避ける。
「さすが」「その体躯でそんな武器を使うだけはあるな」
感心する彼の声が吹き出しで出る中、遠距離属性の一人も攻撃できる位置へと移動を開始する。
MMO「ラッキー・スター」では、パーティプレイは利点だけじゃない。むしろ利点と呼べるものは獲得経験値が増えることと、その経験値が正確に分配されること、後はパーティ間で周囲にバレない作戦を立てられるようになる「パーティチャット」が使えるようになること、の三点だけだ。こと戦いにおいては不利になる点しか目立たない。
その最たるものが、仲間への攻撃だ。
こうしたフィールドでは、パーティを組んでいないプレイヤーへの攻撃は出来ない。
しかしパーティを組んでいると、仲間の攻撃が当たってしまうようになるのだ。
もちろんダメージはない。しかし「崩し攻撃」を受けた時と同じ仰け反り時間を受けてしまう。
プレイヤー同士で戦っている時にコレは致命的だ。
しかもマウス操作で相手をクリックし、キャラが自動で移動するタイプのゲームでは、仲間に攻撃を当てないよう相手に攻撃するのは普通に難しい。
だから強い敵と戦う時は、仲間を攻撃しないように立ち回る……もしくは、パーティを解散する。
しかし、今回はそれがない。
何故なら、強制レベルアップの対象が一人になってしまうからだ。
パーティを組んでいる状態で彼を倒せば、全員にその恩恵が与えられる。
四人とも、レベルがとっくに100を超えているのだ。それを逃さない手はない。
というかこのゲームは、シナリオが展開するキークエストを全てクリアするだけで、レベルは100を超える。そこからのクエストはこちらが用意するイベントのものしかないため、経験値が稼ぎ辛くなる。
なんせ最奥に宝箱がある、同レベル帯ならクリアに一時間~二時間も掛かるランダムダンジョンに潜るしか無くなってしまうのだ。
そんな環境で、強制的に1Lvアップ。
何が何でも欲しいはずだ。
その結果、戦い辛くなろうとも。
「ほっ、ほっ」
避けられないタイミングを狙いすました斜め横からの銃撃を、抜いた中剣の一本で弾く。
金髪ポニテのこれまた猫耳をつけた遠距離属性の女性キャラは、昨日戦ったエレノアと同じ『遠距離属性:ガンスタイル』か。
そしてリーダーと思われる唯一の男性キャラ――馬耳で背が高い茶髪の男が、『ヘビィスタイル』の桃髪の後ろから弓を構えて放ってきた。
『アロースタイル』か『ウェポンスタイル』か……どちらにせよ、弓を装備して味方の真後ろから攻撃するということは――
「ぐっ……!」
――やはり、『アロースタイル』のスキル「曲射」を覚えていたか。
このスキルは謂わば、先ほど説明した仲間への攻撃を無くすスキルだ。弓矢装備時限定・しかもパーティプレイでしか有効じゃないスキルだが、覚える人は覚える。
彼が銃撃を弾いた隙を衝き、仲間をすり抜けた攻撃が来るわけ無いと思っているところへの攻撃。
それはさすがの彼でも避けられないし防ぐことも難しい。
ただ、急所に当てるのだけは防げた。――が、その攻撃が崩し攻撃だったせいで、特別強い攻撃にも見えなかったのに、体勢が大きく崩れてしまった。
こういう時、実は防御行動を取らない方が後々都合が良かったりする。
防御さえしなければ、崩し攻撃による“無防備な時間”が発生しないからだ。
……これもまた、この世界特有の、彼の知らなかったルール。
「ヘビィストライク!」
前衛に立っていた桃髪の女性がアクティブスキルを放ってくる。
ただ振り下ろすだけのスキル。しかしそのダメージ倍率は……二倍。
しかも、小攻撃全てから大攻撃まで繋げたコンボ攻撃からの、二倍。
「つあぁっ!」
無防備な彼は何も出来ずその攻撃を受けてしまい、大きく吹き飛ばされてしまう。
攻撃の変化軌道は運良く急所を外してくれたが、彼に設定されているHPが大幅に減ってしまった。
それこそ次、桃髪の小攻撃二発でも受ければ、彼はまた敗北してしまうだろう。
だが「ヘビィストライク」の効果によって一気に相手四人との距離が開き、彼にも体勢を整える余裕が出来た。
――でも、それをプレイヤー達が見逃すはずもない。
「ディープミスト!」
今度は残りの――青髪狐耳の女キャラが魔法を放つ。
おそらく最初に不意打ちとして放った火柱の魔法も、彼女に依るものだろう。
ただ今唱えたものは、攻撃魔法ではない。
避けられると読んだのだろう。
その考えは正しい。
おそらく普通の攻撃魔法なら、彼も避けられた。
今唱えたものは、対象の周囲に霧を発生させるもの。
本来の効果は敵を霧に紛れさせ、こちらをマウスのターゲットにされないようにするといったもの。こちら側からはターゲットにできるのに、相手は霧から抜けるまでこちらをターゲットに出来ない。
こと戦闘において、その差は激しい。
しかも彼の場合、本当に霧で視界が塞がれてしまうのだから、厄介さがさらに際立つ。
「…………」
その状況に置かれてようやく、彼は二本目の中剣を抜いた。
そして霧の中目を閉じ、ダラリと両腕を降ろした状態で、彼もまた魔法の詠唱を始めた。