話しかける前のお話
明日更新できないです……遅い上に申し訳ない。
突然明るくなったことで、視界が白に染められる。
ただそんな中でもちゃんと、視覚以外の五感で気配を探る。
目を塞がれた際の咄嗟の対処法だ。
音・臭い・味・触感……砂を固めたような足元・土塊のような臭い・泥臭い味・固さの奥にちょっとした柔らかさがある触感……洞窟、とは、少し違うような気がする。
なんというか……自然と出来たような感じがしない。
そんな感想を抱いている間に、白けていた視界が元に戻ってくる。
そこに広がる世界は、気配で探ったものとほとんど変わらなかった。
「ん……」
『赤の姫』も視界が元に戻ったのか、私と同様に周囲を見渡す。
「どこ……? ここ」
「……知らない」
「そうなの?」「私が知らないだけで人間の世界の新しい何かとかじゃなくて?」「こう、瞬間移動的な」
「竜族でもない人間が、魔法なんて使えない」
「それもそっか~……」
何か納得するように呟いた後、
「じゃ、ちょっと探検してみよっか」
いつも遠くで見ていた無邪気な笑顔を浮かべて、そんな危険な提案をしてきた。
「危ないから止めたほうが良い」
「だからって、ここで留まってても何もないじゃん」「帰ることも出来ないし」
ほら、といつの間にか離されていた繋いだ手で指差された先は、私達が歩いてきた方向。そこにはあるはずの出入口が無くなっていて、地面と同じ材質と思われるブロック壁があるだけだった。
「ま、帰れたとしても、あんな真っ暗な所は勘弁だけど」「クロももちろん、ついて来てくれるでしょ?」
「……距離を置いてなら」
「え?」
「イヤとかじゃなくて」
少しショックを受けたような気がしたので、慌ててフォローする。
「私は、隠れてコッソリ攻撃することに慣れている」「正面から戦う術が殆ど無い」
「あ~……」「だから中々わたしの元に出てこなかったの?」
「…………」
ここで嘘を吐いた方が、色々と面倒なことにならないと思う。
でも、吐けなかった。
あなたを殺しに来た暗殺者だと、言わずに済む、絶好のチャンスだったのに。
「じゃ、これからもわたしを見守ってくれるってこと?」
「……もちろん」「……それに、こんな見ず知らずの場所で一人は、私も困る」
「だよね」
そう言って、安心を孕んだ満面の笑みを浮かべた。
「じゃ、こっちに――」
曲がり角の“角”から出てきたかのような位置にいた私たちは、そうして彼女が指す方向へと歩き出そうとして――
――その少し先にいきなり、包帯をグルグルと巻いた人間が現れた。
本当に、急に。
それこそ文字通り、瞬間移動してきたかのように。
黄色に輝く“何か”に包まれて、ソレが出てきた。
「えっ!?」
驚く彼女を後ろに下げ、私は手に握ったままだった鉄針を一本、その首元へと投げつける。
相手の動きを止めるツボ。相手が躱さず、当たり所さえ完璧なら、その一撃で相手を絶命させることの出来る一撃。
ソレが見事、敵の急所を突いた。
その格好から先読みできず、結局そのままの位置にいることを想定して投げてしまったが、どうやら相手も転移したばかりで満足に動けなかったのだろう。そのまま、ズシン、と後ろに倒れた。
……ん? いや、それはおかしい。
脚から力が抜け、段々と血液の巡りが悪くなり、心臓に行き届かなくなって絶命するはず。だからあんな、後ろにいきなり倒れるなんてことは……。
「わ~……さっすが」
パチパチパチ、と彼女が拍手をしてくれる。
それがちょっと嬉しくて、こんな疑問後で考えれば良いやと思った。
「でも、この人に話を聞いても良かったんじゃ?」
「……こんな外見の人、信用するの?」「竜族の島では普通?」
「そういえば……見たこと無いかも」
そうか……ということは、竜族の島、という可能性もない、か……。
……まあ、私が教わってきた人間の世界だって、鳥籠の中のようなものだ。私の知らない地域に出ていても何らおかしくはない。
「まあ、いきなり殺しちゃったのは、ごめんなさいだね」
人を助けるが、人を殺すことに拒絶を示しているような娘ではない。それはずっと見守ってきて分かっている。
彼女はあくまで好き勝手に、彼女の感性で、助けたい人とそうでないと人を決めている節がある。
それが危険だという話も分かるが……私が彼女を見守っているのはきっと、その思い切りの良さなのかもしれない。
「……っ」
「ん?」「どしたの? クロ」
「向こうから、二つの足音が聞こえる」
細長い路に反響するその靴音。警戒を露わにする私に反し、
「あ、じゃあ今度は不意打ちとかじゃないんだ」「じゃあ、話聞いてみよ」
彼女は本当に無邪気にそう言ってきた。
……まあ確かに。会う人会う人殺していては、ここがどこか聞くことも出来ない。怪しくなければ話を聞いてみるのも悪くはないだろう。
彼女の意見に賛同するように、握っていた鉄針を服の中へと仕舞う。
それが私の同意と分かったのか、それとも彼女もまたその足音が聞こえたのか、その方向へと駆け足で向かっていく。
その後を慌てて追いかける……なんてことはしない。
私はあくまで暗殺者。
彼女を影から守るだけだ。
>>なんでランダムダンジョン……?
>>そりゃ、ただチャットしてるだけってのもアレじゃない?
そんな会話が遠くで聞こえる中……その二人が、姿を現した。
おおよそ旅をしているとは思えないような格好をした二人組。
蒼い髪と金色の髪をした女性二人組が、向こうの曲がり角からこちらの通路へと入ってくるのが見えた。




