この世界の終わりを
最後大幅に書き加えてしまったらいつもよりさらに遅くなってしまった……すいません。
「どうして、わたしを助けるの?」
「…………」
その質問に、私は何も返さない。
あなたが頑張っているように見えたから、なんて理由を話すと、彼女は自分の行動に意味があったのだと思ってくれるかもしれない。
だから本来なら、言うべきなのかもしれない。
だけど……言えない。
だって私は、何も考えず、人を平気で殺してきた――他人のことを考え、他人のために頑張れる彼女とは真逆の、人間だから。
だから静かに、その場を立ち去る。
彼等三人が入ってきた部屋の入口から。
私が飛び込んだ窓とは、逆の方向から。
「ちょっと待って!」
引き止める声。
だけど私は、歩みを止めない。
でも――
「いつもありがとう! ワガママだけど、無茶するけど、これからもお願い!」
――その背中に、そんな言葉を、投げてきた。
「…………」
部屋を出て、気配を消したまま滑るように、足音を立てず誰にも気付かれぬよう、宿屋を出る。
そこで足を止めて、彼女が泊まっている部屋の方を見上げる。
……無邪気な言葉だった。
心からのお礼を言って、図々しいとも取れるお願いすらも平気でしてくる。
見た目通りの子供っぽさ。
……だからこそ、眩しかった。
私が見なかったその表情はきっと、闇夜を照らして明るくするほど晴れやかだったに違いない。
闇の中で生きてきた私とは、真逆の……。
◇ ◇ ◇
……だから、守ろうとした。
ずっと彼女を影から守るために、勝手に付き従っていた。
彼女に見られないように、彼女に及びそうになる害を排除し続けた。
助けられたことに気付いた彼女が、一人でお礼を言うぐらいには、ずっと一緒に……。
……でも、そんな幸せは、長く続かなかった。
元々は命を狙われた所を助けて知り合った関係だ。
それを撃退したということは、追撃隊が来るということ。
そして、前の敵を私が撃退したということは……私もまたその追撃隊に、敵として認識されてしまったということ。
この前のように、不意を衝いて倒してやることなんて、出来やしない。
だから……あっさりと、追い詰められてしまった。
「ねえ」
「……なに?」
繋いだ手の先からの言葉。
初めて繋いだ手は、本当に小さかった。
「わたしは、死んじゃうの?」
「…………」
それに、返事なんて出来るはずもない。
町の人からの依頼を受けた彼女。屋敷に盗人が入るから警備して欲しいというその依頼。
それ自体が、罠だった。
私は怪しいと思った。でも彼女は引き受けた。
そして案の定、罠だった。
私も含めた彼女を殺すための。
「そっか……」
答えない私を見て、初めて彼女から、ガッカリとしたような声を聞いた。
屋敷の一室。倉庫のような場所。
殺される寸前の彼女の手を引いてここに逃げ込むことすらも、相手の想定通りだったに違いない。
出入口以外逃げ道のない部屋に、追い詰められてしまったのだから。
「クロ」
「……クロ……?」
「こっそり呼んでたあなたの名前。ネコみたいだから気に入らないかもしれないけど」
「……どうして?」
「何が?」
「どうして、そんなに明るいの……?」
さっきのガッカリとした声は、ホントその時だけ。
今はもう、いつものように、明るい声だった。
だから、疑問だった。
「だって、仕方ないじゃない。わたし、人間じゃないんだし」
諦めてる訳でもない、本当にただの、無邪気な声。
「人間の世界にいる竜族なんて、殺されて当たり前なんだし」
「……分かってたのに来たの?」
「だって、人間のことが好きだから」
つい見てしまったその表情は、本当に明るくて……満面の、笑みで……。
本当に、この世界自体が間違えているとしか、思えなかった。
こんなにいい子が殺されて……この子を殺そうとした奴が生き残る。
そんな理不尽……あって良いのだろうか。
「閉じ込めてきた人たちだけど、わたしは本当に、大好きだから」
どうして、と口を開こうとして――扉が向こうから、開けられた。
それと同時に爆発音が部屋の中に響き渡る。
私が仕掛けた罠だ。
本当に最後の悪あがき。
開けた一人を、運が良ければ殺せるだけの……逃げ道を作ることも出来ないそれが発動した。
それはつまり……私達を追い詰めた敵が向こうにやってきた、ということ。
……終わりか。
そう思うと同時に、ガクンと、世界が暗く・黒く・傾いた。




