初めての会話
竜族。
その単語を聞いて思いつくのは、大きな蜥蜴のような化物の姿だろうか。
裂けた口に大きな顎、吐く息は火炎に喰らうものは人間の血肉。その身体は人の数十倍に至り、その全身が人間では対抗できない硬い鱗で覆われている。
私もまた、伝承で聞く竜族はそんなものだった。
……いや、事実そうなのだろう。
ただこの“病気”に対して、後付けとしてこの伝承の竜を当て嵌めただけで。
それ程までに恐ろしいものだと意識付けるためだろう。
この病気に掛かると、救いが無くなる。そして誰もその発症者に近づかないよう分からせる。それを一聞きで分からせるための言葉選び。
そうした部分も確かにあったはずだ。
だがそれ以上にあるのは、人間ではなくなる、という言葉での締め付け。
その病気を発症して、人間から竜族になるという、それを当人に意識付けるための言葉。
口は裂けない。顎も大きくならない。吐く息だって普通だし人間の血肉すら食べない。もちろん身体だってそのままだし、鱗なんて生えるわけもない。
ただ、頭に角が生える。
小さな小さな角が。
そして、死ななくなる。
死んでも傷が塞がり、身体と角が少し成長して、生き返る。
その上大きな特徴が、魔法が使えるようになる。
私達人間には、絶対に届かない領域に、手を伸ばす。
だから人間ではないと、言われてしまう。
竜族として、扱われてしまう。
「ねえ」
そんな子が、私に声をかけてきた。
今までコッソリと助けてきて、気付かれないようにしてきて……でも今日、三人同時に彼女を襲おうとするから、助けてしまった。
だってこの娘はきっと……竜族なのに、次殺されたら、死んでしまうだろうから。
竜族は、誰かを憎んだその時に、植え付けられた種が発芽して、発症する。
でも逆に言えば、誰かを愛すれば、その芽は枯れてしまう。
……この娘はもう、人間を愛してしまっている。
迫害されて、島に閉じ込められたのに、そこから出てきてまで、閉じ込めた人間を助けてしまっている。
それほどまでに、人間を好いている。
私なんて、そこに惹かれたのだから、間違いない。
だから、殺されたくないから……助けた。
初めて、彼女の前に、その姿を晒してまで。
「いつも、私を助けてくれてるのって、あなただよね?」
明るい声。
死体が三つ転がっている、宿屋の一室で聞くには違和感のある程、見た目通りの子供特有の高い――けれども聞き心地の良い声だった。
「……それが?」
ランプが消され、月明かりだけが挿す部屋の中央。ベッドから上体だけを起こして私を見ている彼女に背を向けて、私はそれだけで応える。
遠くから見たことある彼女の姿は、『赤の姫』と呼ばれるだけのことはあった。
長い髪は真紅で瞳も赤く・いつも装着している鉄の鎧も朱を基調としている。
その中で脚具・スカート・角だけが黒く、太ももが真っ白で、それらの部分だけが際立っていたのが記憶に残っている。
顔立ちは身長と同じで未だ少女の域を出ておらず、どちらかというと“可愛い”という言葉がピッタリ。
雰囲気も無邪気に近しかった。
それなのにどこか、上品と感じさせる何かを醸し出しており、さすが“姫”と呼ばれるだけはある。
……でも、彼女は厳密には『姫』ではない。
ただ、竜族を隔離する島から出てきた竜族、というだけに過ぎない。
だから国は、私に彼女を殺すように、命じてきた。
今彼女を殺せることを知っていて、殺してしまっても、何の問題も無いのだから。




