話し合いの、片隅で
明日で番外編終わります。
「なんで席に戻ってこないのよ」
春と萌が見えるけれど、少し離れた席。
ケーキを取りに行ってから戻ってこないあおい姫を見つけた星羅は、彼女と同じようにケーキ皿を手に取り席を立ち、その正面の椅子に腰掛けた。
「なんでって、そりゃ真剣に二人で話ししてるからよ。星羅だってそれを察したから私の所に移動してきたんでしょ?」
「気まずかったからよ。私が移動したことすら気付かないほど真剣に話してるでしょ、あの二人」
「そうなるのが分かってたからさっさと食べてさり気なく移動したのよ」
「先に話せ!」
机をバンっと叩くが、キャピキャピとした周囲の喧騒に紛れて消えた。
「全く……ってことは、そもそもこのオフ会はあの二人を会わせるためのものだったってこと?」
「まさか。星羅とエレノアの中の人に会いたかったのが第一よ。テンマはついで」
「ついででストーカーと対面させたの?」
「ストーカーじゃないって」
「なんでよ。女同士だから?」
「ちゃんとした理由はあるのよ?」
「は? 理由? 直感って理由にはならないのよ?」
「違う違う。ほら、テンマって慕われてたでしょ」
あおい姫に言われて思い出してみれば、確かにそうかもしれないと星羅も思う。
急にGvGをすることになったのに九人も集めることが出来たのだ。どうでも良い相手やただのネットの知り合いだと、そうはいかない。
星羅だって、フレンド登録している相手を急に呼び出したとしても来てくれるとは到底思えないし、逆の立場で急に呼ばれても誰の元へも行かない自信があった。
「アレを見た時にさ、ただのストーカーじゃないな、とは思ったの。だから、あの時戦闘した人たちから色々と話を聞いたって訳」
「わざわざ?」
「わざわざ」
「……あなたのことじゃないでしょ? それなのに?」
「それなのに。ま、エレノアのストーカー言い分だけを信じるのはアレかなって思って」
思っただけでそこまで行動する人なんてほとんどいない。
まして相手はネット内で知り合った、明確な友人でもない人だ。
……いや、それなのにそこまで出来るから、ちゃんとした姫キャラじゃない彼女が、ちゃんと姫キャラとして扱われているのだろう。
要は、似た者同士だったのだ。
あおい姫とテンマは。
「課金装備貸したりレベル上げ手伝ったり、一緒に冒険したり友達作ってあげたり、色々としてあげてたみたいよ。あの時戦った人たちは、そうしてテンマを慕った人たちばかりだった。まさかそこまで気を回せる子が女子高生だとは思いもしなかったけど」
「ギルドとかは?」
「作ってないみたいだし、あのキャラだけでサブキャラはいないみたい。それは二人で待ち合わせした時に聞いたことだけど」
「ふ~ん……ま、作らない方が慕われるようになったりするものよね。そういう無償の心が良いって人が一定数いるみたいだし。まるで正義の味方だもんね」
答えながら、あおい姫の話が本当なら全て春の勘違いということになるな、と星羅は思っていた。
同時に、きっとあおい姫も萌の仲間に話を聞いている時同じ気持ちになっていったんだろうな、とも。
課金装備を貸してくれたり足りないアイテムを課金アイテムとしてくれたりした、という話をチャットで見た時、春に会いたいがために貢いでいるのだろうと思っていた。
だがそれがどうも、テンマにとっては周りに行う“当たり前”のことだったようなのだ。
まさか課金装備を貸したり課金アイテムをくれるのが“当たり前”だとは、思うはずもない。
現金を渡してくれているようなものだ。
それが裏のない善意だなんて、普通は考えない。……少なくとも、星羅とあおい姫はそうだった。
「……まさか、そんな優しい人がまだネットゲームやれてるなんてね……」
課金アイテムを無償でくれる人……そんな噂が広まれば、すぐにたかられるに決まっている。
しかし今もそれを続けて、しかも慕ってくれている面子がほとんどだということは……周りが萌を守っているということになる。
痛い目をみれば、周りに無償で課金アイテムを渡すなんてこと、止めているはずだから。
なんならネトゲ時代を辞めていても、おかしくはないのだから。
……だから尚の事、萌の仲間たちは、春のことに必死になっていたのだろう。
慕っている人が、気にかけていた人だから。
「だから、会わせたくなったのよ」
課金アイテムで補助するという点は違うにしても、周りが慕ってくれている。
そうした部分が自分と似ているから。
そんな含みがある言葉を呟いて、あおい姫はソフトクリームでも作ろうかと思い、ケーキ皿を置いたまま席を立った。




