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現実ネトゲに異世界人最強を入れてみた  作者: ◆smf.0Bn91U
MMO「ラッキー・スター」と異世界の傭兵
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いなくなる存在

 テンマのHPバーはまだ残っている。

 あと数撃与えなければ倒せない。


 そのはずなのに……テンマは動かない。




 いや……動けないのだろう。




 ……やはり。狙い通り。

 彼のあの剣は、この世界でもちゃんと効力を発揮してくれた。


 彼の元の世界での職業は「傭兵」だ。

 傭兵とは知られている通り、人の頼みをお金を対価に叶える職業だ。

 兵士としての代替・街の警護・野盗の討伐……彼の世界での傭兵は、それらが代表的な仕事だった。

 しかしそれら以外で、彼にしか出来ない「傭兵」としての仕事が舞い込んでくることもあった。


 ――魔物の討伐。


 厳密にはそうした風に依頼される訳ではない。ただ依頼された先で、偶然魔物が住み着いていることがあれば討伐するだけ。

 ……魔物、と聞いて私達が想像するものと言えば、異形な存在だろう。

 人の形をしているが肌が青いとか、魔力が強いとか耳が尖ってるとか、そういったものもあるかもしれない


 しかし彼の世界での魔物というのは、人の心に巣食う見えない存在だ。

 そのため「魔物」というのも、彼の師匠のような人が勝手につけただけに過ぎない。


 魔物に心を巣食われた人間がどうなるのかというと、何かを殺す際、一切の躊躇をしなくなるのだ。

 人間というのは、同族・別種族関係なく、まず初めに誰かを殺すことを躊躇する。

 0(ゼロ)をイチにするのにかなりの労力を要するのだ。

 それが無くなる。

 いずれ慣れる生き物である以上、一からさらに積み重ねる毎に抵抗は薄れていくだろうが……それもまたある意味、魔物に巣食われたようなものなのかもしれない。


 ただ、そうした“慣れ”ともまた一線を画すのが魔物なのだ。


 その違いというのが、他人を殺す際、どうせ生き返るだろう、と考えてしまうようになること。

 ただそれでも、心のどこかで・頭の片隅で、生き返るはずがない、という常識が過ぎる。

 不意に広がる気持ちと、これまで積み重ねてきた当たり前の矛盾。

 そんな己の中に生じる違和感すらも、抱いた次の瞬間には、何も思わなくされる。


 書き換えられるのだ。自分を作り上げてきた全てが。

 本人の知らぬ内に。気づかぬ内に。


 考え全てが、塗り替えられる。


 記憶が改竄される訳ではない。

 だからこそ怖ろしい。


 今までの自分が勝手に作り変えられ……殺される。

 何も分からぬまま。

 意識せぬまま。

 いつの間にか。


 もちろん、周りすらも気付かない。

 気付いたとしても、ただ考えが変わっただけとしか思わないだろう。


 だからこそ逆に、何も怖くないように思える。

 気付いていないなら、苦しくないのなら、普通に殺されるよりも怖くないじゃないか。

 それで良いじゃないかと、そう思う人もいるかもしれない。


 ……でもおそらくは、その考えこそが、彼の世界にいる魔物の狙い。

 誰も警戒しないからこそ、好き放題に、魔物は人に巣食うことが出来る。

 そうしていつの間にか、全人類が魔物に侵されてしまえば……待っているのは、死の世界だ。


 考えても見て欲しい。

 何かを殺してもどうせ生き返ると思っている人が、どういった行動を取るのかを。

 周りに生き返るはずがないと否定され、どうしてそんなことを言ってるんだと苛つき、それを証明してやるとばかりに、誰かを躊躇なく殺しにかかるだろう。どうせ生き返るのだからと。

 そしてそのことで周りに責められても、自分が殺した生き返らない死体を見ながら言うのだ。


 どうせ生き返るのだ、と。


 そして再び、その責めてくる周りにも証明してやるとばかりに、襲いかかり殺していく。

 最後には周りに沢山の死体を作り上げ、生き返るから大丈夫と思い、「生き返らないだろう」と自分の中にいる自分が言ってくるが気にもならず、実際に生き返らない目の前の環境に違和感を覚え、だけどその違和感すらもおかしくないと――何がおかしくないのか分からないままおかしくないと、次々と思考を塗り替えられる。


 完成される死の世界とは、そういったものだ。


 誰も彼もが他人を殺しても何も思わぬ世界。

 いつの間にか作り変えられてしまう、怖ろしい世界。




 それを少しでも食い止めるために、彼は戦っていた。




 そのための武器が、彼のあの長剣。

 終ぞ師匠と呼ぶことは無かった、自分では勝てなかったからこそついて回った剣士に譲ってもらった、魔物殺しの武器。

 人の内側に巣食った闇を殺すための、得物。


 だからこのテンマに宿った存在にも通用すると思ったのだ。

 宿ったのが魔物でないのは分かっていたが、中に巣食うモノを殺す武器ならば、通じるだろうと。


 そのため彼には、中剣ではなく長剣で戦ってもらう必要があった。

 そうした狙いがあったから、テンマ本来のプレイヤーに、キーボード入力と画面表示の権利を返るようプログラミングした。

 そうすれば彼に事情を明かすような会話をするだろうと踏んで。


 彼をテンマと戦わせたのだって、テンマを殺させるためじゃない。

 長剣でテンマの中身だけを殺してもらうためだ。

 そもそも、テンマを殺せば勝ちだなんて決めつけ自体がいけなかった。

 そんなことをしては、逆にテンマのデータを奪われる可能性すらある。


 だから何度も、根源に至ろうとプログラミングしていた。……まあ最後のは彼の長剣について調べられて無力化されないための囮だった訳だけど。

 あの長いプログラムを――それも決まれば勝ちが確定する行為を囮として使うわけないと思われているからこそ、囮として機能した部分もあるだろう。


 そうまでする必要は無かったのかもしれない。

 無駄な行為も大量にあっただろう。

 ただなんにせよこれで――




>>あれ? 動くようになった




 ――テンマの操作は、本来のプレイヤーへと戻ってくれた。

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