銃士・エレノア:Lv255
明日はたぶん更新できないです。
確かに、普通ならここで終わりだろう。
銃の有利性はその間合いの広さ。
それが剣の間合いにまで詰められた。
後はその乱撃に為す術なく晒され、敗北するだけ。
斬り刻まれて終わり。
――あくまで、普通なら。
「はぁっ!」
彼の攻撃は全て隙が無い。
相手の防御を掻い潜る――もしくは押し広げる斬撃群。
普通に見るならどこから攻撃がきたのかも分からず、切り傷によるダメージが積み重なり、いずれ防御できなくなり死んでしまう。
でも、これはゲームだ。
相手はただ、防御用のボタンを押しているだけで、その攻撃を全て防ぐことが出来てしまう。
「なにっ……!」
驚きの声を上げたのは彼だ。
そりゃそうだ。
ただ体の前で銃を翳しているだけで、横への攻撃も上からの攻撃も・足払いも拳打も、当たらないのだから。
「ぐっ……!」
外套を翻し、相手との距離を開ける。
どういうことか見極めるためだろう。
そんな彼に、エレノアは隙の大きい――けれども相手の防御を崩すことが出来る、小攻撃と大攻撃を同時押しすることで放つことが出来る「崩し攻撃」を放つ。
「がぁっ……!」
真正面の銃口から放たれた攻撃は何故か、警戒していた彼の隙間を縫って、左眼へとヒットした。
「くっ、そっ……!」
バックステップを繰り返し、先ほど見極めたエレノアの射程外へと逃げる。
……エレノアを蹴った時に言った、彼特有のダメージ判定。
普通のプレイヤー同士――もしくはモンスターとのバトルでは、小攻撃を連続で出し、大攻撃でコンボを締めるのが基本だ。
崩し攻撃は、それら攻撃に対し、防御ボタンばかりを押し続ける相手への、文字通り「崩し」として使用する。
このゲームの戦闘は、三つのボタン・四つの行動で成り立っている。
小攻撃・大攻撃・防御の三つのボタンから放てる三つの行動と、小攻撃と大攻撃同時押しにより放てる崩し攻撃という四つ目の行動。
防御していれば小攻撃ではダメージを一切受けず、単発で出せば隙が大きい大攻撃は防御は崩れないが半減したダメージを通す。崩し攻撃は防御している相手に放ちヒットさせれば、暫くの間相手を無防備にすること出来る。
そうした単純な仕組みの元にこのゲームの戦いは成り立っている。
しかし、この世界に生きる彼は違う。
そんな単純なものが戦いではない。
だから彼と戦う場合のみ、プレイヤーキャラの攻撃は、運によってその軌道が変わる。
もちろんプレイヤーからしてみれば何の変化もない。
しかし彼にとってみれば、剣を振り下ろされたからといって上段からの攻撃が来る訳ではなくなってしまうのだ。
それがどれだけ厄介か。
もし攻撃モーションが複数あればまた違ったのだろうが、このゲームはコンボのどの段階でどういったモーションが描かれるか決まってしまっている。
そのせいで、こうせざるを得なかったのだ。
ただ、この世界に生きているということを踏まえれば、一つの逆転の道筋があることもまた分かってもらえるとは思う。
そう……要は、相手キャラの急所を狙い打てば一撃で相手を倒すことが出来る、ということだ。
プレイヤーからしてみれば、イベントの敵は一撃死を放つ可能性がある、という認識にしかならない。
これを利用すれば……この私が作った圧倒的不利な状況からの逆転も、彼ならば不可能ではない。
「…………ふぅ~……」
落ち着くように息をつく彼。
見えていた軌道とは違う攻撃を浴びて一瞬戸惑ったようだが、そういうものだ、と思考を早々に切り替えたように見える。
さて……ここからどうやって――
――そう考えていたら、彼の左胸に、正確に、銃弾が突き刺さった。
「……………………え……?」
急所への攻撃。
それは、この世界で生きているからこその一撃死。
つまり、プレイヤーキャラだけではなく……彼自身にも、適用されるということ。
どさっ……と、彼の身体が倒れる。
頭上には「CRITICAL!!」の文字と、彼に設定されたHPと全く同じ「1000」の数字。
一撃死。
間合い外なのにどうして……と見てみれば、エレノアは一丁しか銃を構えていなかった。
……『遠距離属性:ガンスタイル』のスキルの一つ、「超長距離」。
遠距離属性の武器を片手で装備している場合のみに発動するパッシブスキル。
その銃弾の間合いは――フィールドの端まで。
それが、キャラの運と絡んで、彼の心臓を穿った。
エレノアにレベルアップのアニメーション。
このイベントの目玉。
彼を倒せば無条件でレベルを1上げる。
それが適用された証だ。
何も知らずに来た彼の初戦闘は……黒星に終わってしまった。