対処の終わり(1)
しかし……そのおかげで見えた。
解除している間は無防備になる、といった事実。
ハッキリ言ってこれは大きい。
これがある限り、エレノアが攻めやすくなる要因にはなっても、邪魔になる要素にはならないはずだ。
それに、もう一つ。
時間を止めていること。
これもまた一つの気付いたことだ。
このフィールドをただ脱しただけなのなら、時間は動かしておいた方が良い。一分半を超えればそのままこのフィールドから出られるのだから。
でもそれをせず、わざわざ時間を止めて戦っている。
つまり敵は、この勝負に勝つ必要があるということ。
どうしてその必要があるのかは分からないが……それがきっと、テンマをNPC化し、操作権を奪っている敵の狙い。
こちらのプログラミングを覗いていること、その覗き見からすぐに対処法を行う腕前、さらに別部署からハッキングやクラッキングをされている報告もないことから、相当な腕前を持っていると見て良いだろうが……。
――私には遠く及ばないことを、見せつけてやろう。
もう一つのUSB型キーボードを机の下から引っ張り出し、今使っているBluetoothのキーボードを少しずらして、その隣に置く。
キーボードの二つ使い……使う人が使わなければ遅くなるだけだが、キーはあくまでこの自分の能力を最大限活かすソフトを操作するためだけに使う今の私にとって、遅くなる理由にはならない。
時間操作を止めていなければ敵が困るのなら……動かしてやればいい。
片方では今まで通り敵のNPC化ステータスを入口に、根源へと至るプログラミングを。
そしてもう片方で、このフィールドに及ぼされた設定変更を元に戻すプログラミングを。
それぞれ入力していく。
目を瞑り・頭の中でフィールドの映像を思い浮かべながら・見えるプログラムの流れを辿りつつ・それらを書き換えるためのプログラミングを……行っていく。
並列処理、の次元ではない。
今私がしている脳内処理は、タスク処理だ。
複数の思考の元、キーを叩いている。
……二つのプログラミングがどんどん入力されていく。
これを発動させる。
それで……決着だ。
――しかしその見通しが甘いことを、私はすぐに思い知らされる。
あくまでこの方法は、エレノアがテンマを抑えつけてくれるからこそ出来ること。
つまり、エレノアが戦わないことを選んでしまえば、選べないことということ。
だがエレノアが戦わないなんて選択をするはずがない。
だからそう……私が、私自身の見通しが甘いと思ったのは――
――エレノアが、負けてしまうかもしれなかったからだ。
逃げたエレノアとあおい姫を追いかけ、先ほどと同じように銃撃を躱し肉薄したテンマは、防御するエレノアの上から攻撃を繰り出す。
それは、どう見ても小攻撃のモーションなのに――何故か、エレノアのHPが少量ずつ削れていった。
「魔法の矢!」
異常事態を見抜き、エレノアとの距離を無理矢理開けさせるために、あおい姫が攻撃魔法を繰り出す。
あおい姫の周囲に生まれた八つの魔法の矢は、時間差で次々とテンマへと放たれる。
しかしその魔法の矢は一発もヒットしない。全てが「MISS」表記。
「バックダッシュ!」
「ヒール!」
だが逃げる隙は出来た。
エレノアはテンマと距離を開けてあおい姫の隣に並び、あおい姫は隣に並んだ彼女のHPを回復する。
まさか……小攻撃のモーションのまま大攻撃相当の攻撃に書き換えてくるなんて……!
ぬかった……!
私が大掛かりなプログラムを組んでいる間に、そんな細かな――けれども絶大な効果を発揮する書き換えを行うなんて……!
確かに冷静になって考えれば、それぐらいは可能だろう。
私が書き換えてもすぐに書き換え直していることを思えば、むしろ今までやってこなかったのが不思議なぐらいだ。
思えばスキルのクールタイムはまだちゃんと機能しているのだからなんとかなっているが……これすらも書き換えられたら、文字通りエレノアたちに打つ手が無くなってしまう。
――しかしなんとか、それよりも早くこちらのプログラムが完成した。
ただ当然とばかりに、根源に至る方はすぐさま使い物にされなくなる。
もちろんその間、テンマの動きは止まっていた。
そのおかげでエレノアを回復する隙と、あおい姫が距離を取り直す時間を稼げたのだ。
それに……狙っていたのは、もう一つのプログラムだ。
この長いプログラムは、あくまでも囮でしか無い。
制限時間を再動させるプログラムこそが本命。
だから後は……エンターキーを押すだけ。
それだけでプログラムは起動し、このフィールドの時間が――動き出す。




