銃士・エレノア:Lv254(2)
「さて……」
本当に、自然体で。
まるで歩き始めたことすらも意識できないほどの緩やかさで。
けれども、確かなる疾さで――エレノアとの距離を詰める。
「がっ……!」
その動きを――エレノアの攻撃が止めた。
魔力で固められた(という設定の)銃弾が、彼の身体に命中した。
「ぐっ、がっ、がはぁっ!」
そこから連続して、二丁から連続して放たれる弾丸の雨を浴び続ける彼。
ってええぇぇぇーーーーー……? せめて躱す素振りぐらい――
――と思った所で、思い出した。
そういえば彼の世界に、あんな武器なんて無かったことを。
「ぐっ、そぉがあぁっ!」
少攻撃の七乱打から大攻撃まで繋がる一連のコンボを受け終えてからようやく、次の攻撃が始まるまでの隙を衝いて吠え、転がりつつエレノアとの距離を取る。
「なんだよ、その武器はよ……」
銃弾を放つ前の身体を上下に揺らした構えを取るエレノアに問いかけるが、やはり返答のチャットは無い。
「ちっ……」
小さく舌打ちしながらも、彼はその武器から視線を逸らさない。
先程の攻撃を受け、その武器がどういったものなのかを瞬時に理解したのだろう。
仕組みなんて理解する必要はない。
要はあの武器が、距離があろうとも攻撃を放ってくる武器――それこそ矢を自動で放つようなものだとさえ理解できれば、それで良い。
目を凝らし、敵の攻撃の出に集中しながら、一歩ずつ距離を詰めていく。
……あ……そうだ。さっき抱いた違和感はコレだ。
私は彼とエレノアの戦いを、ずっとディスプレイで観戦している。
そのはずなのに、時たま彼視点の――彼を客観的に見たような映像が、頭の中に映る。
いや、想像できる、といった方が正しい。
それはまるで2Dの――ドット絵の動きを妄想するかのよう。
しかし異世界を見る時と同じ、これがただの妄想でないという確信が、私の中にある。
ということはこれも、異世界を見る能力の一つか。初めて誰かを移動させたから、その誰かと意識が繋がるなんて知りもしなかった。
まあ、あくまで時たまだし、一部でしか無いので、痛みまで共有している訳ではないが。
「っ!」
一歩、彼がさらに踏み出すと、エレノアがコンボ始動となる小攻撃を放ってくる。
ディスプレイでは白色の線で描かれるだけで、プレイヤースキルでは躱しようがないその弾道。
しかしゲームの中の世界の住人たる彼にはその軌道が見えているのか――
彼は足を止め、身体を傾け――一歩後ずさり、その攻撃を避ける。
「Miss」の表記が、彼の頭上に表示された。
「……なるほど」
ニヤリと、彼が笑ったような声を上げた。
躱すような動きを見せたのは念のため。
真の狙いは、その射程距離を見極めるためだったのか。
確かに、ディスプレイで確認する限り、彼とエレノアの距離はちょうど、攻撃が届かない距離のように見える。
後1ドット、どちらかが距離を詰めるだけで、エレノアの攻撃は当たるだろう。
「オマエの武器の間合いはココか」「それが把握できただけで十分だ」「さて……ここからは反撃、だな」
力を溜めるように膝を折り、力を込める。
最初の自然体な動きとは真逆。
これから攻めるということを誇示する動き。
手に持つ二つの剣を胸の前に構え――爆ぜた。
その、一息に間合いを詰めようとする彼に、小攻撃を連打するエレノア。
しかし彼の頭上に出てくるのはダメージの数値ではなく「Miss」の文字のみ。
彼のこの世界での動きが見える私には分かる。
彼はこのゲームでのスキル「ダッシュ」と同じ速度で、相手との距離を一息に詰めて迫る。その最中、この戦いで初めて見る銃による攻撃を、その両の剣で弾いているのだ。
さすが自称・世界最強。
どんな武器でも一振りで扱えるようになる天才。
その名は伊達ではない。
「さあ」
ザッ、とエレノアの前で停止する。
その距離は、自らの武器の間合い。
攻撃できる懐に、潜り込んだ証。
「終わりだ」