西の戦い(1)
かなり長くなったので二つに分けます。
もう一話はすぐに投下します。
そんな状況の中、まず動きがあったのは星羅だった。
いや、動きが止まったのが、だろうか。
彼女はあと一つ、角を曲がれば西側のパーティと対峙することになるのを知っているからか、そこで待機し初めた。
彼女のフィールドからは敵の『魔法属性』二人は見えない。角を曲がるまでマップに映らない絶妙な距離で待機させているからだ。
『近接属性』二人と曲がり角付近で距離を取って対峙している状態、とでも言えば良いのか。
二手に分かれた星羅とエレノアの、どちらがどちらに向かったのかを正確に把握していた所を見ると、「察知」を持っているのは真っ先にエレノアの攻撃に晒されなかった東側の『遠距離属性』なのは間違いない――アイコンの動きで「超長距離」をしたことぐらい分かるからだ――が……。
もし西側の『魔法属性』に「察知」のスキルを覚えさせているキャラがいれば、このまま膠着状態に陥ってしまう可能性がある。小隊チャットで東側の「察知」持ちが伝えてもそれは同様だ。
しかしだからといって、飛び出しても魔法攻撃に晒されてしまうだけ。
このままイタズラに時間を消耗しても、テンマがやってきてさらに敵の戦力が増してしまう。ならばどうするのか……。
…………。
……ずっとキャラを動かさず、ただ待ち続ける星羅。
この間にも、エレノアは東側の四人パーティと戦闘を始めてしまった。
それでもまだ、動かない。
一体何を考えて……。
……いや、そうか。
そういうことか。
この膠着状態こそ、星羅の狙いだったのか……!
そもそも、一人で四人のパーティを相手にするなんて無理がある。
それは今、四人と戦っているエレノアとて同様だ。
その証拠にコンテナの周囲を動き回り、近接属性を寄せ付けないよう「バックステップ」や「ダッシュ」のスキルで常に一定距離を開けて戦っている。
集団戦特有の包囲をされぬよう立ち回ってようやく、といった感じだ。
『ヘビィスタイル』の星羅は謂わば、一撃必殺の『近接属性』。
そんな身軽な立ち回りは出来ても、それでは己のスタイルを十分に活かせず、いずれは息切れしてしまうのは明白。
だからこそ、膠着状態に持って行ったのだ。
言ってしまえばこれは、一人で四人を抑えつけているようなもの。
西側のパーティは生半可に星羅が来ていることを知ってしまっているせいで、己の陣形を崩しづらい。あと一歩踏み出してマップに姿を現してくれれば、魔法攻撃の的に出来る。
もし直線距離だったならこうはならなかっただろう。距離があっても魔法は当たるからだ。
だがコンテナという障害物があるせいで、『魔法属性』から近づいてもコンテナを盾に魔法を当てられないかもしれない。
これらの状況が噛み合ったことで、この状況自体が彼等にとっての“枷”になってしまっているのだ。
GvGの作戦を立てる際、忘れられがちになることの一つである。
相手も「察知」スキルを持っているだろうからこちらの位置がバレてしまっているだろう、と前提に置いた作戦を立てないのは。
普通に考えて、お互いのキャラがプレームインしているのに相手が動かない状況というのは、カメラにギリ入らない位置にキャラを置いてていることがバレてしまっている可能性が高い。
あと一歩踏み込んでくれれば総攻撃できる……その状況にばかり目がいって、その答えに辿り着けていないのだ。
しかしそこで、この膠着状態を破る存在が現れた。
テンマだ。
だって彼が現れると同時、星羅が動いたのだから。
見えていないはずなのに動いた……つまり事前に、あおい姫に来たら教えてもらうようお願いしていたということ。
だってあおい姫のチャットはずっと、パーティチャットのままエレノアへの指示しか出していない。
しかし一度、テンマが西のパーティと合流した瞬間、「来た」、とだけ、打ち込まれていた。
それはつまり、この勝負が始まる前から、その一言を意味ある言葉にしていたということになる。




