戦闘前の遣り取り
相変わらずあっさりと、次々と魔物を狩りながら、彼は再び海底洞窟へと戻ってきた。
>>ねえ
と、いきなりチャットウィンドウに文字。
同時に、エレノアが入口付近のワープポータルから姿を表した。
ワープしたのではない。
本当に、スッと、姿を現した。
『遠距離型:アロースタイル』のスキル「隠密」。
歩く以外の行動と何かとの衝突で解除されるが、それまでの間はずっと誰の画面にも姿を見せなくするスキルだ。
今回は文字を打ったから解除されたが、このスキルは戦闘をするための構えを取ることも・キャラを走らせることも実質的に禁止されるため、本当は射撃地点へとゆっくりと移動するためだけのスキルなのだが……今回はテンマから隠れるために、村を出ると同時に使用したのだろう。
ということは、そこからは歩きだけでここまで移動してきたのか。
彼もゆっくりと歩きながら寄ってくるモンスターを狩っていたことだし、少しだけ早くエレノアが着いていても何ら不思議ではない。
>>どうして、彼を殺したの?
「やっぱりここにいたか」「ってあん? 会っていきなりの質問がそれか?」
>>だってあなたは、相手が殺しに掛からない限り殺さない、って言った
「そりゃそうだが……」「だがまあ、すぐに蘇るんだろ?」
エレノアが何かを打とうとして悩んでいるのが、私でも分かる。
「それにあそこで殺しておかねぇと、お前を追いかけかねなかったからな」
>>私のため?
だいぶ間が開いてからのエレノアの疑問に、ああ、と短くだけ彼は答えた。
これは……勘違いしてるかもなぁ……。
取りようによっては「本当なら殺さなくても良い相手を、己の信念を曲げてまで殺してくれた」と取られかねない。
事実はそんな優しさに満ちたものじゃないんだけどなぁ……でもエレノアの中の人が中高生なら、確実に勘違いするだろう。
そういう夢見る乙女的なことに夢見る年頃だろうし。
>>あなたは本当に、別世界から来た人間?
「だから、そう言っただろ?」
>>そっか
間が開いてから言ったあと、また妙な間が開く。
これは……やっぱり……。
>>なんだ、ここにいたのか
そんな、恋愛漫画のような点描が描かれそうな空間が形成され始めたところで、シュワン、とワープポータルで誰かがやってくるSEと共に、誰かが洞窟内へとやってきた。
言うまでもない。
ネズミ耳の男性キャラ。
テンマだった。
>>なるほど。エレノアはこの奥にいたのか。通りで適正レベルのランダムダンジョン前に張ってても来ねぇ訳だ
「しつこい男だな、お前も」「まさか、すぐに追いかけてくるとは思いもしなかった」
ついに、自分がずっと隠れていた場所がバレてしまったことに対して絶望しているのか。
大分キャラ同士の距離が近いのに、エレノアは一歩も動かない。
そんな彼女とテンマの間に、彼は身体ごと割り込ませて、無理矢理視線をぶつける。
>>隠密のスキルを使ったってのは知ってるからな。マップを隅々まで歩き回ってぶつかれればって思ったんだが、まさか解除してるのと会えるとはね
おいおい……海底フィールド全てを隅々まで走り回ったっていうの?
「隠密」のスキルを使ってると思ったからって?
あの中心街マップ二つ分の広さを分割して三つのフィールドにしてる場所を?
触れたら解除されるのを知ってるからって、まさかそこまでしてくるなんて……。
……ちょっと、所ではない。
かなり怖い。
というか不気味だ。
「隠密」使用中は歩いてしか移動できないことが分かっているといっても、分岐があってどこに移動しているか分からないあんなに広いフィールドを、推理すらせずただがむしゃらに歩きまわってここに辿り着くなんて……。
人生でストーカー行為なんて現実でもゲームでもされたことはないけど……当事者じゃない私でこんなに不気味だと思うんなら、当事者のエレノアはもうホント……。
そりゃ、隠れるし逃げ続ける訳だ。
>>それじゃあエレノア、一緒にパーティを組むのがイヤなら、話だけでもしないか? チャットチャット。ボイスチャットしろとは言わないから、話だけでも
「それならまずは、俺を倒せ」
その吹き出しを見てやっと彼に気付いたのか。
>>ちっ……マジこのイベント邪魔。何俺とエレノアの邪魔してんの?
「だから、今は俺が用事をしてるからだっての」
>>ホント、一人にこだわらずに他のやつのとこ行けよ……イベントプログラミングした奴マジ糞だな……
さすがに、ここで彼に殺されれば、ここに戻ってくるまでにエレノアが逃げることを知っているからか。
テンマは今度こそ武器を抜いて、上下に揺れるように構える。
>>ここで村に戻されたら面倒だからな。たかが強制LvアップのNPCとか瞬殺してやるよ
「やってみろよ、横入り」
応じた彼もまた、中剣を一本抜き、ダラリと腕を下げるようにして構えを取った。




