洞窟旅行
この広場へたどり着くまでにある洞窟へのワープエリアに触れ、エレノアも彼もその場を後にする。
ついで映った画面は、一本道の洞窟だった。
海底洞窟、という設定なせいか、青白い岩壁と土で囲まれたその道を、エレノアの後をついて行くように彼は歩いて行く。
「そういや、この場所もこうやって道が繋がってんだな」「当たり前なことだが、ずっと妖精にテレポートしてもらってたから忘れてたわ」
と、一房に結ばれた金色の髪を揺らしながら足を止め、
>>妖精?
チャットウィンドウにそう表示させてから、エレノアは再び歩みを再開した。
「俺をこの世界に連れて来てくれた奴だよ」「元の世界じゃ戦える奴がいなくなったからな」
>>戦える奴がいない?
「誰にも負けないぐらい最強になっちまったんだよ」
>>でもさっき、負けるって話した
「まだ未熟だった頃はな」「俺だって何も生まれつきこんなに強かった訳じゃねぇよ」「負けて、今みたいについて回って、弱点を嗅ぎつけて、勝ってきたんだよ」
>>ひきょう……
「傭兵は情報戦だ」「俺達の世界じゃ当たり前で、向こうも同意してたんだよ」「ま、それをこっちの世界で当て嵌めて、こうやって勝手について回るのは卑怯だったかもな」
>>そうやって、人を殺してきた?
「殺してねぇっての」「俺は向こうが殺す気でいない限りは殺さねぇ」「こっちから喧嘩を売る時はギリ手加減するっての」
>>そうなると、負けるよ
「なに?」
今までも足を止めていたのに、今度はかなり長い時間、足を止める。
>>死にかけでも、平気で動き回れるから
きっと、HP1でも動きが鈍らないことを伝えたかったのだろう。
彼が本当にこの世界にいる人間だと考えて、必死に言葉を探してくれたのかもしれない。
もしかしたらエレノアのプレイヤーは、この道案内もイベントの一つだと考えているのかもしれない。
そのため彼の言葉を、先ほど会ったあおい姫とは違い、ちゃんと一登場人物として見て・聞いて・考えて、答えてくれている。
>>トドメを刺さないと、逆に殺される
「だとしても、俺は自分の理念は曲げたくねぇ」「つーかそれこそ、そこまでして襲ってくるってことは、俺を殺す気だってことだろ?」「だったら十分対象内だ」「お前だってこの前は、俺を殺す気でいただろ?」
>>……なるほど
まあ確かに、この世界では全員、彼を殺す気で来るだろう。
なんせ強制Lv1アップイベントの対象なんだし。
そのことを把握しているはずなのに、ど忘れでもしたのか、本気で心配してくれたエレノアのプレイヤー。……あれ? 現実はドジっ子属性かな?
「そういう意味じゃあ、お前はなんでこの世界にいるんだ?」
さっきからずっと立ち止まったまま、二人は話を続ける。
「妖精に聞いた話だと、この世界は現実で戦えないから戦うための擬似世界、なんだろ?」「でもお前はどっちかっていうと、戦いたがってるようには見えねぇ」「あんな人気のないとこに一人でいて、一体どうしてぇんだよ」
足を止めたまま――けれどもさっきとは違い、三点リーダーを打って考えていることを伝えにしないエレノア。
イベントのNPCに話して良いことなのかどうかを考えているのかもしれない。
>>私は、周りにチヤホヤされたい
やっと、文字を打ち出した――そのタイミングで、急に魔法陣が現れ、魔物が姿を見せた。
「うお!」
驚きの吹き出しを出す彼と、すぐさま戦闘の構えを取るエレノア。
「なんだよこれ……」「こんなのがこの世界にいるのか」
そういえば、彼の世界は生粋のファンタジーっぽい世界なのに、こうした魔物のような異形の怪物はいなかった。
変わりに、人の心に巣食う「魔族」なるものはいたが……それは心への寄生なんで、外見は人と変わらない。
バンバン! と驚く彼を置いて、SEを鳴らしながらモンスターへの攻撃を始めるエレノア。
大きな蟹、とでも表現すれば良いのか。
色は真っ赤ではなく、ハサミや脚が紅いだけで、他はどちらかというと水色。
目もギョロりとしていて、気持ち悪い。
まあ、ドット絵で見れば、そこまで気持ち悪い外見ではないのだけれど。
ただやはり、キークエスト終盤のダンジョンにいる敵なせいか、大きさは普通の蟹とは比べようもない。むしろ彼の視線から見てみれば、そのサイズは人の三倍はあろう大きさだった。
「ふむ……」「攻撃は通るのか」
エレノアの攻撃を見ながらそれだけ呟くと、一本の長剣を抜き、両手で握って構える。
そして銃撃しているエレノアへと歩き迫る、その蟹にある無数の脚を――一薙ぎのもとに、全て切り捨てた。
ガクッ! と姿勢を崩したのを確認し、
「我が手には大地。我が足には空。覆す力・相手への罪・屠り諌める力となりて」
詠唱――魔法発動。
瞬間、大きな蟹が上下逆さになり、地面に叩きつけられる。
そうして身動き取れなくなった蟹の胴体を……ジャンプし、上から真っ二つに、切り裂いた。
しかしドット絵で見ていると、ただ一度攻撃をした後魔法を唱え、一瞬だけ浮いたモンスターに再び攻撃したあと「CRITICAL!!」の表示が出て、一撃で倒したようにしか見えなかった。
「なるほど……まあ、俺でも倒せるか」「ふむ……こういうのを相手にして戦うのも悪くはねぇな」「これもまた、俺の世界にはいなかった存在だしな」
独り言を呟き何やら納得している彼の脇を、戦闘状態を解除したエレノアが、スッと追いぬく。
「ん?」「おい待てよ」「さっきの続きは?」
その言葉に一度足を止め、
>>また出るから。とりあえずすすむ
とだけ返して、さっさと歩いて行った。
まあ、言うタイミング逃しちゃったのは確かに事実だ。ただでさえ言い難いことで、本人もそれなりの覚悟を持って文字を打ち始めたのに、あそこでモンスターが出ちゃうとどうしても……ね。まあ仕方ないだろう。
こりゃ、後でまた同じ話を聞き出すのは、至難の業になるだろう。




