事情説明
「さっきの会話、聞いてたんだろ? ぷろぐらみんぐ、ってのはなんなんだ?」
戻ってきて開口一番、彼から当たり前の疑問を投げかけられた。
「教えても良いんだけど、意外ね」
「あん?」
「そういうこと聞かないタイプかと思ってたから」
戦えれば他はどうでも良い、とか考えそうなタイプだと、どこかで決めつけてしまっていた感も否めない。
「んな訳ねぇだろ。傭兵ってのは情報が持つ価値を理解してねぇとやれねぇ商売なんだよ。どこが危険だとかどこが儲けやすいとかは当たり前として、新しい戦闘技術の体型から国の情勢まで把握しとかねぇと食いっぱぐれる上に、そもそも強い奴と戦えねぇだろ?」
人が多ければそれだけ強い奴がいる確率は上がる、ということか。
「そういう意味じゃあ俺は、まだこの世界についてなんにも知らねぇ。一番強いって紹介された奴と戦ったのと、中央の街に出たの。それに、そこで喧嘩を売られたのと、訳の分かんねぇ奴に訳の分かんねぇことを言われただけだ。だから、知っとく必要があんだよ。これからも、この世界で強い奴と戦っていくためにはよ。この世界について色々とな」
なるほど……となれば案外、私が色々と手を焼くよりも、彼が自分で試行錯誤した方が良いのかもしれない。
そりゃ、さすがに最低限の手助けはするけれど……ただ戦えればそれで良いだろう、と思っていたからこそ、戦いに巻き込まれやすい環境にあえて身を置かせてしまっていたのもまた事実だ。いきなりプレイヤー四人から集団で喧嘩を売られた時は焦ったが……まあ、そういう感じのことをされてしまっても良い、程度には思っていたし。
これは、一初心者プレイヤーとして彼を見て、私の作ったこのゲームを把握してもらうほうが、彼としても――このイベントとしても、プラスになりそうな気がする。
「……分かった。じゃあこの世界について、簡単にだけど説明してあげる」
「おう。なんなら、詳しく説明してくれても良いんだぞ」
「それも良いんだけど……さっきの話を聞く限り、あなた自身がこの世界を歩き回ったほうが覚えるんじゃない? 地図を見るより案内されたほうが道を覚えるタイプでしょ? あなたは」
「さすが妖精。俺のことをよく分かってる」
そもそも、仕事中に全てを説明していられるほどの時間的余裕がないのもまた事実だ。その間、彼のイベントを止めてしまうのだって問題になりそうだし。
「じゃ、まずは手始めにプログラミングについてだけど……ま、あなたの世界で言う魔法と同じなのよ」
「そうなのか? にしては、俺のことをそのぷろぐらみんがどうとか言ってやがったが……」
「それは、この世界自体がそのプログラミングで出来てるからよ」
「魔法で、ってことか?」
そう、と私の姿は見えていないのに頷いて、彼に喋りかけるように心の中で声をかけ続ける。
「実をいうとこの世界は、もう一人の自分を作り出す世界なの」
「は?」
「別の世界があったとしたらそこに行ってみたいか、なんて疑問、投げかけられたことない? あなたが今いるその世界は、“別の世界”を、こちらの世界から作った世界なのよ」
「あ~……まあ、言いたいことは何となく分かった」
「で、この世界を構成している人間もまた、プログラミングなの」
「ってぇことはなにか? 俺が昨日戦った奴も魔法の産物だってのが?」
「身体はね。ただ、中身というか……心というか魂は、ちゃんとした人間なのよ。別の世界に行ってみたいって気持ちで出来たんだから」
「じゃあなんでさっきのやつは俺をぷろぐらみんだって言ったんだ?」
「あくまでも、動物の耳が生えてる人だけが中身は人間、ってこと」
「なるほど。俺にはあの耳がねぇもんな」
「そういうこと。だからあなたみたいに耳がない人たちは、中身までもプログラミングされてるの。というか、その世界で産まれた、って言った方が分かりやすいかな」
厳密には違うけれど、ゲームの中にいる彼になら、そう説明した方が分かりやすいだろう。
「そういう人たちって、元の世界から来た『中身が人間』の人たちに比べて、受け答えが単調になるの」
「それなのに俺はそうじゃないから、わざわざ聞かれたってのか?」
「そういうことよ」
「つーか、わざわざ別の世界まで作って何がしたいんだ? こんな世界を作れるんならなんでも出来んだろ? それとも妖精と、この世界に来てる奴らは違うのか?」
「一緒よ。ただあなたの世界の魔法と同じで、努力してないと世界は作れない。それに、私一人で作ってる訳でもないしね。さすがに世界は、色々な人の協力があって成り立ってるのよ」
それに私の場合、この世界の作成にはほとんど協力していない。
イベントを企画するだけの存在が、世界を世界として成り立たせているなんて、傲慢甚だしい。
「で、この世界で何がしたいかっていうと……ただ戦いたいのよ」
「…………ほ~……」
そこで、得心がいったとばかりの表情を浮かべた。
「といっても、全員が全員そうじゃないんだけどね。ただ偽りの姿同士で会話をしてみたいって人も中にはいるわよ」
「貴族の仮面舞踏会みてぇなもんか。まあだが、そりゃ一部なんだろ? だからこそ、俺を喚んだ。違うか?」
「そういうこと」
戦いたがっている人が大勢いるから、同じく戦いたがっているあなたを喚んだ。その彼の解釈に間違いはない。MMOをやる目的は千差万別だが、あながち間違いではないはずだ。
「オーケー、分かった。この世界がどういう所で、なんで俺が喚ばれたのかも改めてな」
「それは良かった」
「んじゃ、魔法で出来たこの世界を、改めて見て回るとするわ」
「ん。じゃあ、どこに移動させて欲しい?」
「そうだな……じゃあ、あそこに移動させてくれ」
「あそこ?」
どこか分からず首を傾げる私に、彼は「ああ」と答えて続けた。
「ここに来て初めて行った、あの場所だよ」




