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現実ネトゲに異世界人最強を入れてみた  作者: ◆smf.0Bn91U
MMO「ラッキー・スター」と異世界の傭兵
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プロローグ(1)

 彼は、その世界では最強だった。

 初めて持つ武器であろうとも一振りすれば自らの手足のように操り、集中力を要する魔法であろうとも戦いながら唱えて放つ。

 武術・魔術共に卓越したレベルに達した魔法戦士。

 さらにそれらを最大限活かせる本能レベルでの戦闘力。不意打ちを許さない気配察知能力と反射神経。

 こと戦うことに於いて、その能力の高さは他の追随を許さなかった。



 そう。

 この世界では。



「つまり……本気で戦える場所と相手が欲しいと」

「まあ、そういうことだわな」


 手を頭の後ろに組み、壁にもたれ、退屈そうに彼はボヤいた。

 壁……というよりかは、崩れかけの石柱、だろうか。青空の下に広がる草原の上に、ポツンと、「建物があった」という名残だけが存在している、その一角。

 その建物に、どういった意味があったのか……そして現在、どういった意図で残されているのか、私には分からない。


 だって私は、この世界の住人ではないのだから。

 小さな人形程の大きさをした、彼の世界でいう妖精のような姿。

 ちょっと露出の高い格好は、私自身のことでありながらも、正直二十代後半の独り身女性としてはイタい。私自身の世界では、ハロウィンで着ていようとも浮くこと間違いなしだろう。


「もうホント、傭兵稼業だから戦いはあるんだけどよ、相手に歯応えが無いのなんのって」


 無造作に切られた短い髪、細身ながらもガッチリとした力強い印象を与える上背。その身体を守っているのは、急所部分に鉄板を仕込んだ革の軽鎧のみ。防御力よりも動きやすさを重点に置いていることが見て取れる。

 その上からさらに黒のフード付き外套を羽織っているのは、旅のためなのと、その身体を少しでも隠して攻撃を躱しやすくするためだろう。


「ふ~ん……」


 彼の話を聞いて、私はふと、あることを思いついた。

 今任されているMMOのイベント。二十周年を飾るのに相応しいものを。

 そう言われて企画し、けれどもプログラミングの途中でイマイチピンとこなくなったアレ。正直練り直したくて仕方が無くなったアレに、彼を使うという手。

 NPCの思考を人間に近づけ、不意を衝いてプレイヤーを襲わせる襲撃者イベント。

 それを本当の――異世界の人間を、ゲームの中へと入れて行う。



 ……やっと、ピンと来た気がした。



 昔から異世界を見ることが出来てたからこそ、今までピンと来なかったのだ。

 今にして思えば、自分ほんもののにんげんが異世界へと入れるのに、偽造人間いつわりのにんげんを擬似世界へと入れることに抵抗があったのだろう。

 企画していた時にあんなノリノリだったのはきっと、自分の姿で想像していたせいだ。


 だからもう……コレしかない。

 思い至って、それしかないと、思ってしまったのだから。


「ねえ」

「あん?」

「だったらさ、別の世界に行ってみない?」

「別の世界だ~?」


 怪訝な表情を浮かべる彼に、私は説明――しようとして、ゲームとかMMOの説明を、こんなファンタジーな世界の人に説明することの難しさを瞬時に察知した。


「そ。ここよりも強い人が沢山いる世界。実は今だから明かすけど、私はその世界を作った人の一人なの」

「マジかっ……! そいつぁスゲェなあ! おいっ!」


 ……まあ、嘘はついていない。


「でもよ、俺がそんな世界に行って良いのか?」

「むしろ、あの世界では戦いを望んでる人ばかりなのよ。だからあなたみたいに、強い奴と戦いたがってる人は大歓迎よ」

「なんか……殺伐とした世界を作ったんだな……お前」

「いやいや、私一人じゃないから」


 戦闘狂に憐れまれるなんて冗談じゃない。


「それに、戦っても良い地域ってのも決まってるしね。だからもちろん、戦いたがってない人もいるってこと。あくまでも、戦いたがってる人が多いだけ」

「ほ~ん……」

「あと、その世界ではね……耳が違うの」

「耳?」

「そ。動物みたいな耳を付けてるの。それが、戦いたがってる戦闘狂ばかりの世界の住人の、戦える人の特徴」


 とまぁ、そんな感じで……乗り気になってくれている彼に、MMO世界の設定を、あたかも本当にある世界のように説明し始めた。

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