8.ゆる魔獣しかいない訳なかった
ブクマ登録してくれた方、ありがとうございます!!
忙しくて投稿が難しいのですが、時間を見つけて投稿することができました。
アドバイス(とくに能力名とか)、待ってます!
2015/9/10 風使の技能ということで、金の斧→金の風に変更しました。
青い空の海を、白い雲のくらげが遊泳している。
風が雲をもてあそび、すがすがしさが空を支配していた。
とても爽やかな朝である。
……しかし、それは俺の頭上に覗く空だけの話である。
この森を覆っているのは、魔素が凝結した白紫の濃い霧。
それと、水蒸気を多量に含んだじめじめの空気だけだった。
それでも俺たちが胸を弾ませながら顔を洗っている理由、それは新拠点の建築に他ならない。
「今日もがんばりましょうね!!」
「うん、頑張りましょう。エナと照夢さん!」
「ああ、完成させるぞ!」
気合いを入れ、朝食をとってから昨日も使った計画室――切り株の場所――に移動する。
俺は今日の計画や、細かい注意点などを二人に話した。
気が配れる男アピールも兼ねているのだが、二人は真剣に聞いてくれていて、そんなことには気が付いていないようだ。
説明を終え、建築現場に移動する。
古代遺跡、昨日自分たちが建てたものを見て、そう思ってしまった。
森の中のぽかりと開けた場所。
周りをおどろおどろしい木々に囲まれ、たたずむソレ。
黒々とした石板からのびる謎の柱。
そんな考えを捨てるように、短く息を吐くと、俺は今日の作業に手を付けた。
今日は作業を分担し、力のある俺とグランが、梁や屋根の骨組みなどを縄で縛りつけ、エナが壁を織る。
――織る、とあえていったのには訳がある。
見栄えやロマンを語る漢な俺の第一希望、レンガ積み……このアイデアは却下である。
時間がかかるうえに、横からの振動に弱く、効率的でないからだ。
隙間が少なくなるので、クーラーをつけるのにはもってこいなのだが、この世界のクーラーの有無さえ不確かである。
もちろん懐に持っているわけもない。
ちょっと考え、思考がめんどk……原点で考えることにした俺は、画期的なアイデアを思い付いた。
それが、エナの、藁的な植物を編んでいる理由である。
そのござのような編み物の一辺に、石などのおもりを入れ、梁からぶら下げることで壁にしようという訳だ。
て、手抜きなどではない。
合理的に建築を進めているまでだ。
とにかく、俺&グランは大急ぎで梁と屋根を作る必要がある。
骨組みが完成したら、エナを手伝い、壁も作り終わったら屋根にかける藁ぶき?のようなものを作る予定である。
それが終わったら接着し、装飾し……。
やることが目白押しだ。
分身の術とか使えるようになったらなぁ……。
そんなことを考えながらグランとの作業を進める。
「風刃!」
昨日の作業中に獲得した新しい技である。
どうも風斧だと、消費魔素が多くて燃費が悪かったので助かった。
あと、能力が木コリから風使へと変化したのだ。
これは驚きとともに少々の歓喜を俺に与えた。
木コリは、ちょっと微妙な名前の能力だったからだ。
俺たちは、できたてほやほやの梁の上に座って屋根の骨となる木材を縄で縛っているところだった。
あまり頑丈そうには見えないが、ここに永住して仙人になる予定はとりあえず無いので、その強度でも良しとしたのである。
エナは、空いた地面で精霊と話しながら壁を織っているところだ。
「もう太陽が真上まで登ってるな……。そろそろ昼食でもとろうか。」
とグランに持ちかけた時だった。
――コォォォォンコォォォォォン
環境の変化っていうのは腹の音色も変化させるのか……!?
一瞬そうも思った。
だがこの音は、最近よく聞く謎の音だということに気が付いた。
すぐ近くで聞こえる。
「照夢さん、あれ……魔獣ですね……。」
グランが苦い顔をして指した、エナとは反対方向の地面。
その短く切った草の地面を、移動する俺の目線はあるものを捉えた。
人間ほどの大きさの、黄土色と灰白色の縞模様の切り株。
そこに浮き出る顔はいかめしく、こちらを睨みつけていた。
もっと長い間、魔獣=ほのぼのだと思っていたかった。
薄々感じてはいたさ。
すべてが緩いゲームのようになっているわけなどないよな……。
こんな変なやつも魔獣なのか……。
俺はあまり認めたくない事実から逃避しようとしたのだが
「照夢さん!能力をとれますよ!チャンスです!!」
エナの猛烈な背中の押しにより、俺は何故か梁から降ろされ、切り株の前に立たされた。
チャンスとピンチの使い方間違ってる、エナ!!と突っ込みたい。
――コォォォォォンン!!
心なしか身体が大きくなった切り株が俺に突進をしてきた。
ぼ、僕はいい人間だよ!だから止まってくれるかな?
俺の小さな心の叫びは大きなこいつの鳴き声でかき消された。
「う、風斧!」
俺はとにかくこの風を怪物に放った。
――ゴゴンッ
そんな音がして切り株の動きが止まった。
――と思っていたら、すぐに動き出したのには、流石に俺も焦らずにはいられなくなった。
俺はぎりぎりで突進を避けつつ、決死の攻撃を幾度も仕掛けた。
……だが全然効かない。
黄土色と灰白色がぐねぐね動いていて気持ち悪い。
ふと気になって横をちらりと見ると、エナやグランは闘技場の座席にいる気分になっているのか、拳を上に突き上げて応援している。
死にそうになったらグランが助けてくれるのではないか
そう思って、攻めの姿勢を保てているのだが、少し心配になってきた。
早くけりをつけないと……!
――さもないと今日の作業が遅れて夕食も遅れる……。
こんな理由で死ぬ魔獣も可哀そうだが、俺の夕食の重要さには代えられない!
最近は魔素の減り具合も感覚で分かるようになってきたのだが、その感覚が、俺の魔素が不足していくのを感じ取っている。
体力も、この何日間かで増えたのだが、戦闘となると消費が尋常ではない。
できるだけ紫ぜんまいも温存したい。
グランに貰ったサッポクリアもとっておいたほうがいいだろう。
とりあえず決着をつけなくてはならない!
そうは思っているのだが、この俺がそんなに余裕なわけはなく、頬はかすり傷を負っている。
相手は疲れを感じないのか、動きが鈍っていないので危険な状態だ。
――ザッ
うっ……。
腕に痛みが走る。
切り株の枯木色の触手が、俺の体の各部を攻撃してくる。
一撃一撃はたいして重くはないのだが、小さな痛みの蓄積で辛い……。
俺がひるんでいることをいいことに、魔獣はニタニタと笑いながら攻撃をしてくる。
口はあるのに、そこから声は出ないのが奇妙だ。
油断しきっている切り株が大きく身を乗り出し、触手で体を支えながら飛びかかってきた。
ここだ!
俺は、直感というにはいやに自信が乗っている感覚を得た。
それと同時に技を打ち込もうとする。
――≪【通常能力 風使】において、〖大技 金ノ風〗を獲得しました≫――
頭の中にアナウンスが響く。
俺は、流れのままにその大技を放った。
「金ノ風!!」
――ドゴォォォオン
土煙が薄くなってきたので、俺は魔獣のいたところを目を細めてよく見た。
しかし、そこにはあの縞模様は無く、代わりに木片が散らばっていた……。
自分が倒したという驚きを隠せずに、散乱した木片を俺は見つめていた。
そしてグランとエナに向きかえり
「面白いやつだったな。だがもう只の木片よ。」
と、決め台詞を言――
――≪【高能力 大小化を獲得しました】≫――
状態通知さん、空気読みましょうよ……。
まったく……。
俺が格好をつけようとすると何故かいつも失敗する。
というか、指摘――誰にという話だが――する機会を逃していたが、この世界、能力名テキトー過ぎるだろ……。
管理者でも創造者でも、この世界の仕組みを理解している人間に突っ込みたいが、今は素直に能力の獲得を喜ぶべきだろう。
エナとグランも、俺の初戦闘での初勝利に賞賛の声をかけてくれた。
「やっぱ照夢さんが勝ったでしょ!お兄ちゃん」
エナがなんか俺の勝敗をかけていたようなことを言っていたが――グランにおいては、俺が負けると思っていたらしい。
が、しかし幸か不幸か、俺の耳は気に入らないことを反対の耳から通りぬかせる特技を持っているので、俺の心は達成感と自尊心と満足感であふれていた。
しかし、冷静な分析も必要だ、そう思い今回の戦闘について考えてみた。
今まで運よく魔獣には出くわさなかったが、今回のように危険な場合にもなり得る。
見たところ森のなかでは中級といったレベルの魔獣だが、それでもてこずってしまった。
つまり俺はまだ弱い。
また、魔獣を倒すと、能力などを落とすことがあるということ。
あとは、極限の状態だと技を生み出しやすいということか。
まあそれは、この意志がものをいう世界では当たり前のことなのだろうけれど。
俺は思ったことを、今後に生かせることを願ってグランとエナに伝え、二人からも知識を貰った。
やはり俺の見立ては正しかったようで、あれは中級レベルの魔獣らしい。
中級だと、致命傷は負わないため戦闘訓練に適しているという。
なんと……主を前にして、俺の死ぬ気の戦闘を訓練だと言うとは意外に強気だな……。
まあ、実際二人にはその程度なのだろう。
強気なくらいが配下としては心強いのでそのままでいいと思う。
あとは、俺は結構な確率で能力を獲得できるのかと思っていたのだが、実は稀なことらしい。
いつどんなときでも、俺は運には味方されるようでそれはうれしくもあるが、少し悲しい感じがする。
実力でも何事にも向かっていけるようにならなければいけない。
まあ、運も実力のうちだとは言うけれどな……。
あと、切り株のせいですっかり忘れていた。
俺たちの横に建物の骨展示があったことだ。
さて、再開しないとな
二人に声をかけようとした俺はまだ昼食を食べていなかったことに気がついた。
どうりでさっきから体が養分を求めている感じがしていたわけだ。
一回今の拠点に戻ってテントの横のテーブルで昼食をとり、シャルルとロザン、それと干し果物の安否を確認し、俺たちは建築現場に戻った。
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
「よし!!できました!!」
「やっとできましたね……!」
「完成だ……」
俺たちはそれぞれ感嘆の意を漏らした。
空はオレンジ色に染まり、この開けた場所も影に覆われてきている。
午後の作業は午前とは打って変わり、慎重で集中力のいるものだった。
午前の仕事をムキムキなおっさんに例えるなら、午後の仕事は繊細なお姉さんだろう。
どうしてこう例えたのかは自分でも謎だが、俺たちがそのどちらともの作業をこなし、ついに新居を完成させたことには変わりない。
喜びと疲労の入り混じった声でお疲れ、と言い合い、この建物の外見を確認する。
見た目は、鉛筆の先端とサイコロを組み合わせたような――円錐と直方体を組み合わせたような形をしている。
幼児の遊ぶ積み木に似てる、なんか努力の結晶をそう思ってしまったが、満たされた心から満足感が逃げ出しそうなので口にはしなかった。
全体が藁で覆われていて、たてあな住居を連想させる。
入り口は藁の編み物を巻き上げる形になっていて、外の各柱には、小さなランプがついていて周囲を明るく照らしている。
中は、大きなランプが一つぶら下がり、床には柔らかな毛皮が敷かれている。
動物に抱きしめられている感覚が味わえそうだ。
周りには棚を置いている。
カーペットの奥には2つの扉があって、一つが乾燥室、もう一方が倉庫になっているのだ。
あの古代遺跡がたてあな住居まで進化したかと思うと……なんか微妙だな。
当初の予定では中世のヨーロッパを……。
まあ、それでも機能的なつくりにはなっている。
風は通すようにしてあるのと、グランが魔法を薄くかけてくれたのとで、この蒸し暑さはなんとかしのげる程度だ。
俺たち三人は、夕食を食べ、荷物と相棒を連れて"テイトアナ"に引っ越すと、毛皮に抱かれながら心地よい眠りについた。
あ、ちなみに"テイトアナ"は、たてあな→tateana→テイトアナというように、どこかのナイスな照夢さんによってつけられたらしい。
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次話の投稿も、五日後くらいになると思います。