4.兄妹の過去の傷
少なめで、内容もワクワクするものではないですが、今日か明日に、もう1話探検話を投稿する予定です!
2016/8/21 5話の時間的な書き換えと同時に、この4話も最後の方を変更しました
「許可する!」
俺は高らかに声を上げた。
「「ははーっ、ありがたき幸せ!」」
――俺が一夜のうちに国王になったということを、誰が信じることができようか。
……誰もいないだろう。
そりゃあそうだ。
勿論この俺が国王などになったわけがない。
ただ俺は、森の奥深くで切り株に腰をかけ、頭を垂れた2人の男女を、苦笑しながら見下ろしていた。
俺は、昨日2人から『私たちの付き添い&忠誠を認めてほしい』と言われていた。
その返事を出したというわけである。
楽観的に、そそそいっと決めたように感じるかもしれないが、これでも一応よく考えたのである。
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
昨日の夜エナが寝た後、俺はグランに俺がいた世界について話をした。
「照夢さんの故郷について教えていただけませんか?」
グランがそう言ったのだ。
"故郷"か……。
思えば、昨日までいたあの店が遠いことのように感じられる。
使い古したクッションを乗せた、カウンターの椅子。
壁には、インコと馬が野原に寝そべる絵を飾っていた。
俺はランプをぼんやりと見つめながら、俺がいなくなった"故郷"のことを考えていた。
俺が消えたところで、たいして世界は変わらないだろう。
せめて、通と親には俺がいなくなったことに気が付いてほしい。
あれ?この店に誰かがいたような……。
そこまで小さな存在だったとは流石に思いたくはないが、時間がたてば忘れられてしまうだろう。
所詮人間の記憶とはそういうものだ。
クールビューティーな人間を知っていた気がする、程度には覚えていてもらえるのだろうか。
「……照夢さん!照夢さん?」
「……あっ、ああ……。俺の故郷の話だったな。」
俺は、トルコの名物料理から、日本の伝統的な作法まで幅広く知識を伝授した。
グランは、その中でも特に日本の文化に興味を持ったらしく、礼儀作法はもう俺の脳みそからは絞り出せないほど語った。
俺が話している間、目を賢そうに輝かして、俺の話を聞くグランはとても知的な感じに見えた。
ああ、俺もせめて見た目だけでも知性を持ちたかった。
しかしそうすると、またまたクオリティーの差を嗤われることになるので、内外同時に知的人間にはなったほうがいいかもしれない。
いや、知的じゃないところが俺の個性なのだから、案外このままがいいのかもしれない。
――今日の俺は考えることが、どこか的を外れているような気がする。
やはり、若い二人の運命を自分が握りかけていることへの、頭の整理がうまくできてないのだろう。
俺を見つけたとき2人は、俺のことが神々しく見えたようだが、俺はそんなオーラは勿論、生気さえも放てていないような状況だった。
そんな状況下で、自分が救世主に見られたことに嬉しさを俺は感じていたのだろう。
しかし、そんな甘いものではない。
人間2人の人生、これは重過ぎるものだった。
俺はグランに、俺への忠誠、これにどれほどの熱意があるのかを語ってもらった。
「俺、グラン・ドレ・カテナと、妹のエナは、ちょっとした貴族に生まれました。貴族といっても、上流庶民と等しいほどで、あまりお金持ちという感じではありませんでした。とはいっても、食べるものには困らず、それなりに楽しく日々を送っていたんです。だけどそんなある日……俺たち家族がいつものようにリビングで談話をしているとき、そいつらは……そいつらは来たんです……。」
グランの顔つきが辛辣になる。
毛玉も、話の深刻さを察してか、もぞもぞと動くのを止めた。
「親は、魔法で危険をすぐに察知すると、俺たちに逃げるように言いました。俺とエナはとまどいながらも非常用の扉から外に出ました。そのとき……中から聞こえたんです…………、親の……叫びが……。俺たちは一心不乱に逃げました。父と母は、どうにかしてあの危機を乗り切っていると信じて。。。……だけどそんなことはなかった。数日後に町の人に父と母の行方を聞いたところ……その答えは"死"でした。」
その後2人は、自分たちが強者と敵対したときに、身を守れるように強くなろうと決心をしたらしい。
俺は真剣に、グランの告白を聞いた。
そんな辛い過去があったのかと思うと、自分を守ってもらえるから仲間にするか、という思いもあった自分がつくづく嫌になってくる。
エナは、そんな暗い過去を感じさせなかったが、あの明るさは、その辛さを紛らわすために自分自身に暗示をかけるものなのかもしれない。
俺は、ここまでの2人の人生、これから進んでいくべきである道、それを深く考えた。
グランが寝たあとも、何回も俺がすべきな判断を考え直した。
よくやく考えがまとまったとき、これでいいのか、そんな不安も生まれたが、俺は自分を信じることにした。
◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆ ― ◆
昨日の判断の結果を、返事を乞う2人に堂々と言ったのだが、その俺のノリに合わせて2人が戦国時代のようなセリフを吐いたので苦笑いしていたのである。
「そうと決まったら今日の活動を始めよう!」
「あ、まずは朝ごはんですね。」
格好よく主を演じたつもりだったのだが、グランの朝食をとろうというセリフで台なしになってしまった。
俺は笑いながら2人に嘆いた。
グランは昨日俺とたっぷり話したことで、言葉遣いからは忠誠心が抜けてきていたが、本人によると、心のなかの俺の地位は格段に上がったらしい。
疑わしいが、近い仲になれたことは嬉しい。
そんな兄に影響されたようで、エナは口調は変わらないものの、笑顔が増えた気がする。
俺達は、簡単で質素な朝食――グランにとっての話であり、俺にすると、いいことがあった日の夕食に相当する美味さ――を済ませた。
「さて、今日はまずなにをするか?食糧の量が少なければ、今日にまとめて2日分は取っておいた方がいいぞ。」
「いつもその日の分しか取っていなかったですが、確かに何日分かまとめると効率がよくなりますね!!」
「確かに……。気づいていませんでした。そうですね、今日は食糧を集めましょう。」
そんないい考えでも無い気がするのだが、2人に感心され少し嬉しくて、その照れ隠しに毛玉をもしゃもしゃと撫でてみた。
「クルックルル?」
俺の顔を見上げたつもりなのだろう。
しかし、背も腹もわからないような奴なのでただ回転しているようにしか見えない。
やはりこいつは憎めぬ。。
俺は考えをまとめて口にする。
「分担をしようか。……グランと、俺&エナでどうだろう。俺は正直力にはなれないが、女の子を守るくらいならできると思う。エナに、食糧採集のやり方は習うつもりだ。グランは一人でもどうにかなるだろう。」
「それで、いいと思いますよ。俺の扱いがぞんざいなのは気のせいにしておきましょう。」
グランはわざとらしく不機嫌に言ってから、笑った。
話し合いの結果、俺達が果実や山菜、魚の採集。
グランがいつもどおり、魔獣を狩ることになった。
夜になったら、この拠点に集合する。
夜が、具体的にいつを指すのかを問うと、
「2回目にお腹が減ったらですよ!」
エナが、さも当然の如くそう言ったのだが集合時間がそんなことでいいのだろうか?
俺はそう思って、グランを見る。
え、エナの発言に首を縦にふっているんですが?
君達ぃ……!
案外この兄弟はそういうことにはルーズらしい。
今度そういうことにも気を配るよう、言っておかなければなるまい。
俺はすっかり保護者気分でそんなことを考えた。
計画は立てた。
さあレッツゴー。
すぐに実行に移すのもまた、年長者の経験の結晶である。
俺達は身支度をし、意気揚々とそれぞれの仕事場へと向かった。
兄弟の旅の理由がわかりましたね。
次話の後編では、ついに毛玉の名前が決まります!