2.名ばかりの魔獣"毛玉"誕生!
やっと、書き上げました。文ばっかりで飽きてしまうかもしれません。また、どんどん中身が延びてしまったので、薄い内容になっていることが心配です。引き続き、誤字や文章表現の誤り、感想、アドバイスなどよろしくお願いします。
「魔獣生成!」
……。
(魔獣生成!!)
……。
「むぁじゅうぅすぇいぃすぇいぃ!!!」
……。
「くぁいぃぶぅつぅづぅくぅるぃ!!!!」
……。
えー、俺が何をしようとしているのかというと能力発動である。
何がだめなのか、全く能力は発動しない。
俺が発動させるだけの素質を持っていないのか、もしくは"生成の舞"みたいなのを踊らないと、発動しないのか。
とにかく、俺は残念な気分になっていた。
変な場所に転移したという、困惑の雨空に、晴れ間が覗いたのはさっきのこと。
俺の心の空には、またもや雲が集まってきた。
ただ一つの、見た感じ上位能力である魔獣生成が使えないというのは結構なショックなのだ。
とにかく、ここは落ち着いて、もう一回ステータス、と念じる。
さきほどの能力を見間違えた、あるいは消滅してしまったなんてことがあるかもしれない。
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《名前》テルム マツカワ
《称号》"失望ヲ与エシ者"
性別:男
種族:人
職業:人
(能力)
超能力:魔獣生成
高能力:鑑定、格納操作
通常能力:柔毛
―――――――――――――――――――――
よく見て、先ほどの記憶と照らし合わせても、何も変わったことはなかったが、拍動が一瞬激しくなった気がした。
――≪【通常能力 状態通知】を獲得しました。自分の現在の状態を、自動的に通知します。≫――
んっ?
――≪【高能力 鑑定】のレベルが上がり、自分の名前、称号、性別、能力以外に、自分の状態を取得できるようになりました。≫――
んんっ?
あ、つまり、新しい能力を得て、既存能力のレベル=性能が上がった、ってことか。
ほんとなんだろう、この無駄なゲーム仕様。
この世界の創造者は、どこかのクリエイターなのかもしれない。
本気でそんなことを考え、目に入ってきそうな汗をぬぐった。
試しに、もう一回ステータスを開いてみる。
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《名前》テルム マツカワ
《称号》"失望ヲ与エシ者"
性別:男
種族:人
職業:人
(能力)
超能力:魔獣生成
高能力:鑑定Ⅱ [NEW]、格納操作
通常能力:柔毛、状態通知 [NEW]
(状態)
体力:3000
魔素貯蔵(1)現在:912/1000
魔素吸引(1)効率:0.08/1秒
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ほうほう。
魔素の存在があるらしい。
あと気にとまったのは、この世界でも"秒"という単位が存在するということだ。
使用者のなじんだ単位に換算される、とかあるのだろうか。
ご丁寧に、新しい能力が分かりやすくなっている。
俺は、再び地面に座った。
とにかく、新能力やレベルアップは嬉しいことなのだが、その使用ができないことにはあまり喜べない。
しかし、状態通知として、これまでの能力の効果と追加効果が分かるというのは嬉しいことである。
えっと……さっきの状態通知は、
『ここまでの能力が、自分のおおまかな情報、追加されたのが、状態の取得』
的な感じだったと思う。
これでしか、能力の効果がわからないので、この情報は記憶にメモしておこう。
レベルでは、あまり効果は変わらないようだ。
こんなに容易く、レベルが上がったのだし仕方のないことかもしれない。
ステータスを2回開いたことで、新たな効果が追加されたとすれば、能力の熟練度で新効果が追加されるということだろう。
ふむふむ。
我ながら、いい考察だ。
どのようなときでも、情報の整理とは重要なものである。
さて、ステータスを見たことで分かったが、最大魔素量や、吸引力というものがあるらしい。
1秒に0.08魔素くらい回復ということは……魔素量0から約12000秒で全回復ということか。
つまり?
ぜろがいーち、にーい、ごーぉ……あれ?
ってほど俺の脳は、腐敗していないので安心してほしい。
つまりそれが何分になるのか、少し分からなくなったのはこの暑さと、アルコールのような匂いのせいだろう、うん。
俺の、道端にゴロゴロと転がっているような平凡な脳でも分かるようなことだ。
現在の俺の魔素量が減っているのは、ステータスを確認したことによるものだろう。
あと9割ほどしか残っていない。
今後は、無駄な使用を控えるようにしよう。
死因が、『ステータスの確認による魔素の欠如』となるのは、笑い話にもならない。
全回復までに、3時間超かかるのは結構きつい。
はやいところ、魔素貯蔵レベルをあげておいたほうがよさそうだ。
とりあえず俺は、能力もうまく使えなかったことだし、何かしら行動を起こそうと立ち上がった。
その際に、俺の足に絡まってきた紫ぜんまいを抜いてみた。
とりあえず、形状を確認する。
「情報の収集も、怠らないのが君のいいところだ。」
と昔小学校の大久保――だったか小久保か――先生に言われた気がする。
今思うと、怠らないの"だけ"が、と言わなかったのが先生としての優しさだったのだろう。
褒めてもらったのが嬉しすぎて、家に帰って大好物のチロリチョコを貪り、鼻血で倒れた記憶は鮮明である。
紫ぜんまい――いつしか俺が勝手にそう呼んでいた――の根のほうから順に観察していく。
淡い紫色の、地上に出ている部分と比べ、根は色が濃くなっていることを、俺は頭上に紫ぜんまいをかかげてよく見てみる。
湿った土が顔にこぼれるが、俺は観察に夢中である。
多岐に分かれた根は、短いが、いやに太く、一番太いところは俺の親指くらいはある。
膝ほどの背丈で、こんな根だとは驚いたが、いやに簡単に抜けたのは水溜まりに生えていたのと、根の短さが原因だろう。
と、何かが俺の口の中に垂れた。
普通なら、何かが口に入れば吐き出すのだが、なぜかいやな気がしない。
よく見ると、根の先端から垂れる紫の液体が、俺の口に飛び込んできたものの正体らしい。
紫一色の植物であったが、体液まで紫なのは驚きだたった。
出てきた液を飲んでみると、心なしか力が湧いてくるようだった。
まさか!
俺は心に浮かんだ推測を実証すべく念じた。
(ステータス!)
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《名前》テルム マツカワ
《称号》"失望ヲ与エシ者"
性別:男
種族:人
職業:人
(能力)
超能力:魔獣生成
高能力:鑑定Ⅱ、格納操作
通常能力:柔毛、状態通知
(状態)
体力:3000
魔素貯蔵(1)現在:1000/1000
魔素吸引(1)効率:0.08/1秒
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やはり、紫ぜんまいには魔素の回復効果があるらしい。
しかも、すごい効果だ!
――≪魔素貯蔵レベルが上がり、最大容量が1500になりました。≫――
おっ!
最大容量も上がったので俺はその分を埋めるべく、魔素回復ポーションを飲んだ。
ぐんぐんと力が湧く。
俺は能力の試用を再開してみることにした。
ふぅ。
【通常能力 格納操作】はうまく使えるようになってきた。
格納操作も、魔獣生成と同様に使えないかと心配したが、これは、鑑定と同じように使うことができた。
格納操作を使うたびに、魔素は回復させたが、体力は回復しないようだ。
ここまで疲れたのは、紫ぜんまいを抜きまくったからである。
先ほどの紫ぜんまいが軽く抜けたのは、水溜まりに生えていたのが大きな理由だったらしい。
なかなか抜けずに苦労したが、俺のもくろんだ通り、現在の俺の魔素貯蔵レベルは4まで上がっている。
吸引レベルも2になり、格納した紫ぜんまいの数は20にまでなった。
単細胞生物よりはるかに優れているはずの俺である。
しかし、紫ぜんまいを抜きながらしたことといえば、この後何をするかということだけである。
魔素の量が大幅に増えたので、残る能力である柔毛と、もう一度魔獣生成を試して見ようと思う。
紫ぜんまいには、望みをも回復させる効果があるのかもしれない。
暗雲が立ち込めていた俺の心では、雲の隙間から光の筋が差し込んできている。
魔素量の増加によって、能力発動の可能性がはるかに高くなったのではないかと思ったのだ。
「行け!魔獣生成!お前に決めた!」
俺がまだ小さいころ、よく聞いたようなセリフを格好良く――俺から見て――言い、神経を集中させながら念じようとする。
(魔獣s……)「クルルルルッ!!!」
え?
「クルルッッ!」
ちょ、ちょっと待て!
なんか毛玉が……。
いきなりのことに、クールなはずの俺もさすがに尻もちをついてしまった。
れ、冷静に分析してみよう。
幸い、ソイツは俺の前で規則的に飛び跳ねていて、攻撃してくる気配はない。
地面に座り直し、落ち着こうと深呼吸をする。
魔獣だ。
それが俺の判断である。
落ち着くにつれて、これしか考えられないと確信する。
まず、この魔獣は、魔獣生成、と俺が念じようとした瞬間に出現した。
霧のようなものが生じ、そこから出てきたのだ。
心で念じなくとも、発動の意思があれば発動するようだ。
次に、この魔獣が生まれた瞬間、力がガクッと抜けた気がした。
それは、俺が魔獣生成を発動させたことで、体内の大部分の魔素を失ったということだと思われる。
それを確認するには、ステータスを開く必要がある。
がしかし、必死に念じているのだが、先ほどから開く気配が全くない。
魔素が足りないのだろう。
しかし、紫ぜんまいの抜く余力は全くない。
紫ぜんまい抜きで体力をそがれた俺は、魔素もそがれて全く動けずに、実は先ほどから横たわっていた。
俺の格納でしまった紫ぜんまいも、魔素を使わないと取り出せないようだ。
そりゃあ、そうだ。
ステータス確認ごときで、魔素を奪われる世界である。
取り出すのに、魔素が必要無いわけなかった。
これは大きな誤算だ。
そして大きな不安が生まれる。
この世界にも、昼夜があるようで、先ほどから周りが暗くなってきている。
闇に包まれはじめる壺型の木や紫ぜんまいは、不気味なオーラを醸し出していた。
魔素が回復するまで待たなければいけないのだろうか。
今、魔獣に襲われれば、ひとたまりもなく俺は魔獣たちの夕飯に化す。
それは、例え俺が万全の状態であっても、変わらぬことではあったが……。
しかし、万全のときと比べると、今は望みさえもない状況である。
これは……ダメかもしれない。
俺がそう思ったときだった。
「クルルルル?」
魔獣A(仮)が俺の頬に体をこすりつけてきた。
はぁ……。
いきなりの癒しに俺は顔がどうしても緩んでしまう。
不意打ちはズルいぜっ。(いきなり自分を美化
しかし、心なしか、体や心の疲れが若干とれた気がする。
そんなことはないか……。
そう思いつつも、ダメ元で、俺は、紫ぜんまいの取り出しを念じた。
――≪以前に格納したものの取り出しを念じたため、【高能力 格納操作】のレベルがあがり、収納に加え、取り出しも可能となりました。≫――
げ……。
収納したら取り出せるものかとおもっていたが、レベルが上がらなければ取り出せないところだったのか。
危ない危ない。
慎重な行動を心がけるようにしないとな。
それにしても、本当に魔獣Aの癒しで魔素が回復したようだ。
俺は、目の前に突如できた霧から紫ぜんまいが一株出てくるのを見て、驚きつつも格納という能力の有用性に気付いた。
根の汁を吸いながら、今度はステータスを確認してみる。
横たわりながら、毛玉を抱えて植物の根をしゃぶっている俺の姿は、お世辞にも格好良いとは言えないだろうが、生き延びるためには仕方がない。
あれ?……。
ステータスを見ていた俺は、紫ぜんまいを食すのを止めた。
俺のような脳でも、記憶力はそれなりにあるはずなのだが、その記憶の中にあった、ある能力がステータスの中から消えていた。
まだ使っていないこともあり、少し残念だったが、それよりも各項目に能力使用履歴の欄があることに気が付く。
それなりに魔素も回復したので、俺は食べかけの紫ぜんまいを収納した。
それと同時に、"格納操作"の使用履歴の項目が一瞬存在感を増した気がした。
存在感という、あいまいな言葉を使うのは、この"ステータス"が浮かぶのが俺の頭の中での出来事だからだ。
きっと存在感が増したのは、使用が増えたからであろう。
とにかく、一番気になるポイントである魔獣生成の使用履歴を開いてみる。
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超能力 魔獣生成――使用履歴
ファオス歴340年34/7 1回/【通常能力 柔毛】と、周囲の植物を消費し、柔毛粘性生物(仮)を生成→詳細
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あ、こいつ……。
俺の"柔毛"を食いやがったな。
どうやらこの能力、能力を核として魔獣を生成できるようだ。
今回は、粘性生物が生まれたのか。
周囲の植物は、体のもととなったってことだろうか?
それとも、作る際の生け贄的な……?
しかし、恨めないなこいつ。
なによりも、このふわふわの毛が、俺のこいつに対する反抗心を奪う……。
ファオス歴とかよくわからないな。
ところで"詳細"ってなんだろう?
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超能力 魔獣生成――使用履歴――詳細
まだ命名を完了させていません。種族名と個体名の名づけを行いましょう。
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詳細というか備考?的な感じっぽい。
この説明を読むと、どうやら、この毛玉君に名前を付けることができるらしい。
新しい動物を仕入れると、真っ先に勝手に名づけを行っていた俺には、命名できるということは、とても嬉しいことだった。
「クルルルルル……。」
魔獣A(仮)が力なさげに鳴いた。
それで、能力確認に夢中になっているうちに、当たりがすっかり暗くなったことに気づいた。
紫ぜんまいが淡い紫の光を放っているため、あまり感じなかったのだ。
周囲の暗さに気づくと同時に、俺は、今まで全く感じなかった空腹をいきなり感じた。
先ほどと比べて、魔獣A(仮)の鳴き声が力なく聞こえたのもお腹がすいたせいだろう。
たくさんあるもので、調子に乗って紫ぜんまいを採取したことを今頃後悔した。
優先すべきは食料の確保だった。
自分を冷静だと思っていたが、いささかうかれていたのかもしれない。
俺は反省しつつ、食料の確保をどうするか悩んでいた。
魔獣A(仮)の名づけはまだしていないが、俺が初めて生成した魔獣ということもあるし、名づけはじっくりと考えて行いたいものだ。
このとき、俺は全く気付いていなかった。
ここでの、食料の自給がどれほど難しいことか、を。
あれ?こんなに文字数を使ってこれだけ?という進展内容でした。すみません。次回はこの世界の人間が登場します!(本当は今回出るはずだった)