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五日目 その1

海上国防軍第1護衛艦隊、イージス艦"いぶき"CIC

「今回の任務は臨検活動を開始する海上保安庁巡視船の支援及び援護である。不審な船舶、航空機が近付かないように、対水上、対空、対潜警戒を厳となせ。以上」

厳かにかつ一切の感情を見せずに指示を言った艦長は、静かにマイクを置いた。

それでもその心中は穏やかではないだろう。この琉球国騒動を利用して中国政府は、沖縄方面での影響力拡大を狙うだろう。そうなれば膨大な軍事予算で更新された中国人民解放軍海軍艦艇が沖縄近海に出没する可能性が高い。最大でも四十ミリ機関砲という武装しかない巡視船が真正面からやりあうのは無理な話だ。一方的にやられて即終了だろう。そうならないためにも、海上国防軍艦艇が全力でこれを阻止しなくてはならない。沖縄県に対する経済封鎖は、時間稼ぎである。国防軍の態勢が整い次第、奪還作戦は開始される。それまでは現場が戦わなくてはならないのだ。

「対水上レーダーが対象を捕捉しました。海保の巡視船が近づきます。んっ、さらに対空レーダーに感、数1、距離398000メートル、高度4500」

レーダー員の言葉にCICに緊張が走る。

「何処の所属だ?」

「IFFレスポンス応答無し、友軍機ではなさそうです。恐らくは中国海軍の哨戒機でしょうが。たった今、新田原に退避中の204SQ(第204飛行隊)がスクランブルしました。航空国防軍防空司令部は本艦に目標への誘導を要請しています」

「了解、やってやれ」

艦長が指示を出すと、静かに頷いた一曹がマイクに呼び掛ける。

「こちらビーチ・マウンテン。レーサー1へ。聞こえているのか?」

『こちらレーサー1、十分に聞こえている。指示を求む』

「そのまま高度5000を維持し、方位270(ふたななまる)に飛行せよ。そうすれば目標を捕捉できるはずだ」

『ラジャー』

2機のF-15J改戦闘機は、誘導を受けながら哨戒機に接近する。戦争が勃発しているわけではないから、奇襲をかける必要はない。正面から堂々と警告すればいい。だが、高度4500を維持している哨戒機は索敵レーダーの電波を探知したのだろうが、退避する様子はない。

『ビーチ・マウンテンへ、レーダーで捕捉した。指示を請う』

「了解した。レーサー1へ、緊急国際周波数にて警告を開始せよ」

『ラジャー』

直近のレーダーサイトは、奄美に展開中の移動警戒隊が臨時運用している移動式レーダーで、固定配置のものよりも、幾分性能が劣る。おそらくは沖縄本島近海までは見渡せない。その事を見越してイージス艦が配置されたのだろう。

それから10分がたった。

「F-15による2度の警告を無視、さらには警告射撃も無視。いつもなら尖閣は中国の領土であり、我々は適正な海洋監視任務を執行しているにすぎない、とか言ってくるだろうに、奴さんは何がしたいんだ?」

憲法改正後に国防軍では全軍共通の交戦規約(ROE)を公式に設定した。この事は国内外に向けて報道されている。だから知りませんでしたでは済まされない。

「まだ撃墜許可は下りないのか?ROEの条件は満たしているはずだ」

「まだです。上も揉めているようで結論は出ていないようです。こっちの判断でスタンダード撃ちますか?」

「敵対行動も確認できていない。準備だけだ。兵装安全解除、戦闘部署発動、対空戦闘用意」

用意していた鍵を、コンソールのある部分に差し込む。これで搭載兵器が全て発射待機状態へと変更された。

「アイ・サー、戦闘部署発動、対空戦闘用意」

艦長の言葉に、砲雷長が応答する。

「了解。スタンダード、照準をロックします。」

ミサイル担当の砲雷士官が、コンソールを操作する。搭載されている全ての火器は、尖閣領空上を飛ぶ侵犯機に向けられ、搭載されているかもしれない対艦ミサイルへの警戒も強まる。

この状況でCICの空気がピリピリし始める。その空気を感じ取ったのか、目標に動きがあった。

「目標、針路を変更。日本領空より退去していきます」

レーダー員は、レーダー画面を凝視しながら報告した。数分前に訪れていた日中戦争の危機は去った。CICには安堵の空気が広がる。

「海保巡視船より入電。貨物船は問題なし、本船はこれより貨物船を監視しつつ東シナ海を北上する。だそうです」

「了解、本艦は現任務を継続する。以上」

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