四日目
「現在、沖縄の独立派の名乗る琉球国との外交関係を樹立しようとする馬鹿はいません。しかし、中国の動きが読めないのです」
内閣情報調査室は、働かない外務省に代わって対外情報収集及び精査、報告を行っていた。さらには総理の発案した安全保障政策の実現に向けて、各方面への根回し、折衝等、忙しかった。
多分、あと二つはは内閣危機管理監の仕事だと思うが、何故か内閣情報調査室が担当していた。しかし、この事態(政府部内呼称"O事案")が発生してから、そのような仕事は外務省に押し付けて、警察庁、国防軍統合幕僚本部と協議を続けていた。
「中国方面に対して、諜報員を送り込み内情を確認中です。詳細が判明し次第、報告します」
そう言うと、1拍おいて言葉を続けた。
「それに国防軍の知り合いから聞いた話ですが、国防軍は、沖縄奪還作戦に第1空挺団、西歩連(西部方面歩兵連隊)、CRR(中央即応連隊)、51歩連(第51歩兵連隊)を基幹とする特設師団を編成、上陸第一波とするようです。後詰めとして第7師団の11歩連(第11歩兵連隊)、第2師団の3歩連(第3歩兵連隊)、対馬警備隊の抽出が決定しています。さらには九州駐屯の12歩連(第12普通科連隊)、42歩連(第42歩兵連隊)も動員が可能です。場合によっては習志野で待機させている特殊作戦群、江田島の特別警備隊にも出番があるかと思われます。以上です」
敵勢力に占拠された島嶼を奪還するならば、軽装の歩兵部隊の方が有利である。むしろ、戦車などの重装備は沖縄の島嶼のような地形では大きさが災いして、使いにくいのだ。それに適切な航空支援があれば、歩兵中心の部隊でも数日の戦闘で奪還できるだろう。第一波の西歩連は島嶼防衛の為に創設された部隊であるし、中央即応連隊は緊急展開を中心とした部隊で、既に九州に展開済みだ。51歩連は那覇駐屯地に駐屯していた地元の部隊である。それなりに地理も把握している。後詰めに89式装甲戦闘車を装備した11歩連、広大な北海道での猛訓練でしごかれた歩兵達で構成される3歩連、ゲリラ掃討に対する訓練を受けた対馬警備隊が引き抜かれるのも、頷ける。11歩連に至っては、独自に対戦車戦闘を展開できるし、3歩連の兵士達は精強だ。
「そこで問題がありまして、相談したいそうなんです。内容は私の口から伝えておきますが、解答は国防軍統合幕僚本部までお願いします」
「相談とはなんだね?」
「部隊展開能力の不足です。現在、海上国防軍は、おおすみ型輸送艦3隻を保有していますが、先にあげた部隊の輸送には足りないことがわかっています。無論、これはさらに各護衛隊群旗艦のひゅうが、いずもの各型を輸送艦として転用した上での、結果であります。しかし、ヘリコプターによる航空支援の必要もあり、ひゅうが、いずもの各型を転用するのは、現実的ではありません。よって民間船舶の適当なものを政府の権限でもって接収、輸送艦として使用したいとのことです」
「輸送艦たりえれば、何でもいいんだね?」
「恐らくは、それで十分でしょう。何かあてでもあるんですか?」
「三菱重工業の造船部門の知り合いが、建造中の三十万トン級タンカーの発注主が潰れたとかで、どうしようかとぼやいていた。至急これを買い上げて輸送艦として改造、使用する。昔の小説にタンカーを空母に改造した例があったから、今回も大丈夫だろう」
事実は小説より奇なりとは言うが、なんの問題もなく、このタンカー輸送艦は無事竣工し、奪還作戦の折海上国防軍輸送艦隊主力として陸上国防軍兵士を大量に運搬した。