二日目
「沖縄の独立宣言を確認しました。日本政府としましては、到底その様なことを容認することはできない。断固としてこれを叩きます」
首相官邸の一階にある記者会見室で、首相により臨時の記者会見が開かれていた。
「即座に経済制裁を発動、沖縄に接近するすべての航空機、船舶は邀撃、強制着陸及び臨検、拿捕の対象とするように関係する各機関に命令を伝えました。沖縄近海に展開した巡視船艇は既に活動を開始しています。ただ、今の状況を鑑みて航空機、船舶の接近は少ないと考えられる。よって周辺海域の警戒程度に留めています」
ここで言葉を止め、口に水を含んだ。ゆっくりとそれを飲み下す。冷や汗がかなり流れている。
「日米二カ国の緊急会談で、米国は日本の方針を全面的に支持する。米大統領がそう明言しました。それに独立した沖縄を承認し、外交関係を樹立しようとする勢力は、日本国として絶対に許さない。即座の断固とした対抗措置を行います」
沖縄の独立宣言を確認した翌日であった。臨時の記者会見の前日、つまり沖縄の独立が宣言された時、首相官邸は上に下にの大騒ぎであった。そんな中でも、ゆっくりしている部署があった。それが内閣情報調査室、通称"内調"と呼ばれる組織だ。彼らはこの事態にあって、各方面からの情報を精査していた。国家安全保障会議事務局を通し、非公式の五大臣会議が召集されていることを知らされた。そこで使用される機密だらけの資料の編集である。その資料をまとめて、職員達は会議室まで運んでいく。
「我々は冷静に対応せねばなりません。しかし、如何なる譲歩も行う必要はありません」
総理から意見を求められた内閣情報調査室室長は、言葉を選びながら、そう言った。五大臣会議、沖縄独立宣言騒ぎの状況説明の場である。
「なるほど、室長は少なくとも、今の状況は継続させるのだな?」
総理は満足そうに応えた。沖縄の独立宣言から三時間、まだ何処の国も反応していない。日本政府の対応待ちなのだ。日本政府が強硬姿勢を見せれば、大抵の国が沖縄との関係は結ぶまい。
「それに公安警察、国防軍、在日米軍は既に全ての人員、装備の疎開に成功しています。警察庁では知事の逮捕を、国防軍統合幕僚本部では、武力による奪還計画を鋭意検討中だそうです」
内調の室長は、ここでの会話が外に漏れないことを、充分に理解している。だから憲法上問題となりかねない発言も行える。
「我々には、幸いにも時間はたっぷりある。あの阿呆の首を真綿でじっくりと絞めていこう」