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05 修羅場(俺限定)

 三森結花はすぐに俺たちの存在に気付いていないようで、こちらを見ずに玄関を出てくる。

 俺はどうすればいいのかわからず、その場で視線を泳がすだけだった。


「あれ? 若葉? と、橘」


 道路に出て漸く俺たちの存在気がついたのか、結花はきょとんした顔をして立ち止まる。


「あ、いや……」


 俺はそう言って、その後の言葉が出なかった。

 俺は何故かすごい後ろめたい気持ちになる。若葉と連絡先を交換していただけなのに、いや、結花より先に若葉と連絡先を交換したからそういう気持ちになっているのかもしれない。それと妹とはいえ他の女の子と仲良くしている場面を結花に見られたからというのもある。

 結花からしたらどうでもいいのかもしれないが、俺は結花のことが好きだから他の女の子と仲良くしている場面など見られて誤解なんてされた日には色々と終わってしまう。


「えっ」


 なに思ったのか若葉は俺の上着の裾を掴んで、俺の方へと身体を寄せてきたのだ。女の子にいきなり密着されて俺は思わず高揚する。が、すぐ冷静さを取り戻して、彼女から距離を置こうとするも裾をがっしり掴まれており、動くことが出来なかった。俺は結花に誤解されると思い、若葉に文句を言おうと口を開こうとした瞬間――


「あっ、お姉ちゃん。今ね、先輩と連絡先交換してたんだ」


 ばっと俺から離れ、若葉は姉の結花の方へと駆け出して行った。

 正直、俺は文句を言おうとした口を開けたまま、呆然と若葉の後ろ姿を見つめるしかなかった。


「え……あ、そうなんだ」


「うん、ついでにお姉ちゃんも、交換したら? 先輩の番号知らないでしょ?」


 結花はどこか戸惑いつつもそう答えるも、若葉は何事も無かったかのように自然な笑顔で姉にそう提案した。


「え?」


 思わず俺はそう呟いてしまった。まさか、こんな簡単に結花と連絡先を交換出来る方向へと進むとは思わなかったからだ。いや、確かに若葉に近づいたのは結花との距離を縮める為でもあったが、連絡先を交換するという目的も若葉の伝から手に入れようと考えてはいたけれど、こんないとも容易く事が運ぶとは俺も思わなかったからだ。だから、つまり——展開についていけてない。


「あ、えっと……私はいいけど」


 そう言って結花は俺の方を伺う。あ、その上目遣いヤバい。


「って言ってますけど、先輩、いいですよね?」


 くるっとこちらを振り向き、若葉はそう尋ねてくる。

 俺は当然いいに決まってる。むしろ、それが目的だったのだから。


「お、俺もいいよ。全然」


 そう答えると、若葉は「良かったね、お姉ちゃん」と言って結花の腕を引っ張って、こちらへと近づいてくる。


「あ……じゃあ、その、私の番号から」


 結花は俺の前まで来て、俺と視線が合うとすぐ視線を落としてポケットからスマホを取り出しそう言った。

 俺も頷きながらスマホを取り出し、絶対に間違えないように電話帳に結花の番号を打ち込んだ。

 連絡先を交換した後、若葉の時と同じように電話したり、メッセージを送ったりして、きちんと連絡を取れるか確認を取った。


「じゃあ、オッケーですね。お姉ちゃん、途中まで学校行こ?」


 そう若葉は姉の腕を引っぱり、通学路を進み出す。

 俺も後をついていくべきなのだろうが、俺は自分のスマホの連絡帳に三森結花の名前が乗っていることに現実なのか夢なのではないかと自問自答することに夢中でそれどころでは無かった。

 もうこの場で思いっきり叫んで喜びたいという気持ちだったけれど、それだとご近所から基地外扱いされてウチの評判が下がってまた姉貴に嫌われてしまうのでそれはなんとか抑えた。


 もう俺と姉妹ふたりの距離が開いた頃だったころだろうか。いきなり若葉が結花になにかを言ってこちらへと戻ってきたのだ。

 俺と数メートルくらいの距離まで来ると、


「先輩、これで良かったんですよね」


 そう微笑を浮かべて言ってきた。

 心なしか若葉の眼は冷たく感じる。


「え……」


 なぜか心臓の鼓動が早くなっているのが判る。すべて見透かされているのような気がしてならなかった。でも、俺は誤摩化したったのか、そう驚いてなにも言わない。


「……違うんですか、じゃあ、なんでさっきあたしを振り払おうとしたんですか……」


 若葉の表情は微笑から無表情へと変わっていく。

 俺は彼女がなにを言っているのか理解できなかった。いや、なんとなく心の奥底ではそうなのではないかという憶測はあった。しかし、俺はそれが本当に合っているのか判らず、それにそれが合っていてもどうすればいいのか判らず、俺はあえて判らないフリをすることにした。


「えっと……なにが……」


「…………」


 俺は視線を反らしながらそうとぼけた。とぼけたってのはおかしい。俺は確信なんてなかったし、そもそも彼女の行動が理解出来ていない。だから、普通の反応なのだ。

 前よりもずっと全然息苦しい沈黙が流れる。俺は逃げ出したい気持ちだったが、足は動かなかった。


「……ぷっ」


 いきなりそう若葉は吹き出した。

 正直俺は眼を疑った。


「先輩、気持ち悪いくらいにビビリすぎですって」


 若葉はそうお腹に両手を抑え、そうおかしそうに言った。


「は……? え……?」


 俺は先程まで恐ろしいオーラを漂わせていた若葉がいきなり笑い出してそう戸惑うしかなかった。


「せーんぱい、いくらなんでもアレはないですよー」


 若葉は馴れ馴れしい口調で言い、俺に近づいてくる。


「ちょ、ちょっと待て。意味わかんないんだけど、つか、さっきまで怒ってなかった?」


 俺は混乱した頭を整理しようとしながら、とりあえず若葉の今の感情を確認する。


「怒ってましたよ? ずっと」


 そう笑顔で若葉は答える。ずっと? ずっとってなに?

 俺がわけがわからないという顔をしていると、


「だって、そうじゃないですかー。久しぶりに朝以外で会って、夕方で先輩から話しかけてくれて、名前まで呼んでくれたと思ったら、結局、お姉ちゃん目的なんですもん」


 若葉は判ってるのか、それとも天然でやっているのか、あざとく頬を膨らませてそう不満そうに言った。


「あ……いや」


 俺は返す言葉がない。なんだよ。最初から全部バレバレだったのかよ。

 てか、若葉の奴俺が結花のこと好きって知ってるのか? その事が顔に出ていたのか、


「なんですか、その顔。あんな露骨に朝からお姉ちゃん待ってたら、普通わかりますよ。あたしがお姉ちゃんより後に出たら先輩居ないし」


 俺は思わず顔を背ける。顔がすごい熱くなっているのがわかる。好きな人の妹にこうもあっさり、しかも単純でアホみたいなミスでバレていることに恥ずかしくなった。


「えー…………あれでバレないと思っていたんですか。てか、お姉ちゃんに気付いて欲しくやってるのかと思っていましたけど」


 若葉はどん引きした顔で俺を見つめる。やっぱり、俺の行動はちょっとヤバかったのか。


「じゃあ、これであたしの役目は終わりですね。お姉ちゃんの連絡先をゲット出来たわけだし、後は先輩が頑張ってお姉ちゃんにラブコールすればいいんですからね。で、振られておしまい」


「おいっ。振られてってなんだよ」


「あはは、冗談です。先輩、応援してますよ。頑張ってあたしのお義兄ちゃんになってくださいねー。じゃあ、あたしはこれで」


 俺がそうツッコムと若葉は笑いながらそう言って、既に先へ進んでいた姉の元へ走って行く。


「…………お義兄ちゃんって」


 俺はほっとしたような、後ろめたいような気持ちになる。

 結花の元へを走っている若葉の後ろ姿を見ながら、俺はこれからどうするべきかと考え始めた。



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