第8章 神坂翼、最初のクエストを受ける。
「まぁ、巫女様がいらっしゃる以上、お前にやることはないな。というより、居てもらっちゃ困るってのが本音だ」
コルミリョさんは、俺を見たままそう告げた。
・・・あれ? これ、騎士野郎と同じ展開でない・・・?
フラッシュバックする昨日の出来事。「やめて! 私を捨てないで!!」と内心叫び、ヒッシとソファーの背を掴む俺。モウヤダ、マドカラステラレルトカ、ゼッタイヤダ・・・!
「――とはいえ、今はギルドの人数が足りてねぇからな。例え臨時とは言え、居ないよりはマシだ」
コルミリョさんが言うに、今現在ギルドに在籍する冒険者より、国に仕える騎士や兵士になる人間の方が多いらしい。
俺からすれば「冒険! なんて素晴らしいひびきっ!!」となるが、この世界の人間はそうじゃないようだ。
言うに、国に対する意識が強い。愛国精神があるからこそ、根無し草の冒険者ではなく国に属そうとする。
・・・まぁ、正しい判断だなぁと話しを聞いて思ってしまった。自由業より公務員のがいいもんな。うん。
「それに、お前さんは元々冒険者志望でここに来たんだろ? さらに城から叩き出されたってことは、居場所もねぇんだろ?」
ぐうの音も出ないとはこのことか。黙る俺に、コルミリョさんはニヤニヤと顔に悪い笑みを広げていく。
「ここなら泊まりだけならタダで、部屋もあるしな」
「ぜひ私目をギルドのメンバーにお迎えください!」
――こうして、俺のギルドでの生活が始まった。
なーんて、脳内でナレーションを流していた時だ。この部屋の扉をノックする音が響いた。
コルミリョさんが「おう」と返事をした途端、開かれた扉の先には、先ほどの巨乳ナースがいた。
「マスター。来客です」
「ああ、すぐ行く」
・・・マスター?
ソファーから立ち上がるコルミリョさんを茫然と見上げていると、ふと思い出したようにコルミリョさんが振り返った。
「ああ、まだ言ってなかったな。俺がレイノ王国、首都・ソルのギルドマスターだ。俺の下でキビキビ働けよ、臨時くん」
最後にニヤリと笑い、巨乳ナースの肩に手を置くと、部屋を出て行ったコルミリョさん。
・・・え、ええっ、ギ、ギルドマスターですとぉお?!
ムンクの叫びみたいな顔で固まる俺。そんな俺を引き気味の表情で見ながら、巨乳ナースが口を開いた。
「ツバサ・コーサカさん。ギルドの新しいメンバーとして、歓迎したします」
顔も声も完全に「お前と関わりたくない」と告げているが、一応これがマニュアル対応なのか、巨乳ナースは言葉を続けた。
「部屋の鍵はこちらになります。場所は、この部屋を出て右手の廊下を渡った先にある、隣りの塔です。入り口にフロアマップがありますので、ご確認ください」
・・・要は自分でやれってことね。了解です。
「あと、私の名前はシルエラ・トレス・マノ。一度部屋で身支度を整えた後、受付にお越しください。お待ちしています」
すっと頭を下げると、シルエラさんは去ってしまった。
身支度、と言っても着の身着のままな俺は部屋の位置を確認するなり、受付へ向かった。
入ってきた時と違い、ギルド内に居る人はシルエラさんのみ。みんなクエストにでも向かったのだろうか?
「ツバサ・コーサカさん。お待ちしていました」
俺を見つけるなり、名前を呼ぶシルエラさん。
「あの、わざわざフルネームで呼ばなくても。翼でいいですよ?」
俺も(心の中だけだけど)名前で呼ばさせてもらってるし。そう思って言ってみたが、
「いいえ。私は全くもって問題ありませんから」
・・・かたくなーに拒絶された・・・。
軽くへこむ俺をスルーし、シルエラさんは腕を上げた。その先にはたくさんの紙が貼られた掲示物がある。
「あちらにあるのが、現在冒険者を募っているクエストです。すべてランク分けがなされており、現在のランクより、一つ上までのみ受けることが可能です」
おお、なんか本当にゲームっぽい! そう思って掲示物に近寄ろうとした俺に、シルエラさんから待ったがかかった。
「ギルドクレストはお持ちですか?」
言われて、シャツの胸ポケットに入れていたソレを取り出す。
「今、ツバサ・コーサカさんのギルドクレストは“赤”。ランクは赤から始まり、橙、黄、緑、青、藍、そして紫の7つに分かれています」
・・・七色の橋の色やないですか、ソレ・・・。
ここに来てとんだギャグ。・・・まぁ、覚えやすいからいいとするか。
「王都の周囲は治安が比較的安定していますが、多数の魔物も出没します」
シルエラさんが言うに、その魔物の色もギルドランクと同じらしい。
つまり、一番弱いのが赤。一番強いのが紫。
体表がまんまその色をしているから、見ればスグ分かるとのこと。
「あと、国、そしてギルドが認定した犯罪者も居ます。見つけ次第、拿捕もしくは殺害をギルドではお願いしています」
「さ・・・っ?!」
絶句したのは言うまでもない。殺害。それすなわち殺人だ。そんなこと、例え相手がどんな人間であろうとしていいわけがない。
「顔が割れている者は、あちらのボードで確認ができます。とは言っても、ツバサ・コーサカさんは赤ランク。例えお会いしても、逃げるのが得策でしょうね」
ごもっともです。というか、殺人って・・・。
法治国家・日本で生まれ育った俺としては、ほぼ絶対にやりたくない案件だ。ビーダッシュ、ビーダッシュ!
「本題に入ります。先ほど、ギルドマスター・イエロからあなたに荷物を預かりました」
「荷物?」
「ええ。餞別、と言えばいいですかね。簡単な装備品です」
渡されたのは、ナイフ。そして皮製のベストと、同じ皮でできたブーツだった。
・・・良かった、木の棒とか渡されなくて。
「では、ツバサ・コーサカさんに最初のクエストを依頼します」
きったコレ! と胸を高鳴らせる俺に、シルエラさんは一枚の紙と、大きな荷物を差し出した。
説明ばかりの回でした。
ようやっと、冒険者としての一歩を踏み出した翼っち。
さてさて、どんなクエストをお願いされたのでしょうねぇ。