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その異世界で、勇者はごみクズと呼ばれる。  作者: 馨あひる
第1部 神坂翼、巻き込まれて異世界へ?編
7/27

第7章 神坂翼、身バレする。

 オッサンへ疑問符とともに投げた視線だったが、それは瞬時に天井を向けさせられた。

 

「ぐえぇぇぇ」


 つぶれたカエルのような声を上げる俺。

 それもそのはず。だって、屈強な体格のオッサンにプロレス技をかけられているのだから!


「オイ、坊主。ちょっとツラ貸せ」


 そしてボソリと呟かれたのは、全身に悪寒が走るその言葉。


 オッサンが見事なのど輪を決めたまま、俺をずりずりとどこかへ引きずって行く。

そんな俺達を、ギルドに居た連中は、それぞれの感情をその目に表していた。


 恐怖。奇異。そして憎悪。


 さまざまな負の視線を浴びながら、俺は苦しさと意味の分からなさで頭をいっぱいにしていた。




「ツバサ・コーサカ。それがお前の名前だな?」


 オッサンに連行されたのは、ギルドの奥。

 テーブルが一つと、それに対面するようにソファーが置かれており、俺は今オッサンと向かい合っている状態だ。

 そしてオッサンの手には、さっき発行されたばかりの俺のギルドクレストがある。

 オッサンは、カードと俺を何度も見比べていた。


「・・・はい。神坂 翼。それが俺の名前です」

「その名前の並びと意味のない言葉といい、やはりそうなのか・・・」


 カードを睨んだまま、黙ってしまうオッサン。だが、その発言に俺は顔を歪めた。


 俺は物心ついたときから、この名前で周囲から注目を集めまくっていた。

 点呼で名前を呼ばれれば、その音に周りはザワッ。

 漢字を見れば見たで「アイドルみたい!」だの「芸能人みたい!」だのと言われてきた。


 まぁ、歳を重ねていく毎に――特に中学に上がってからは――「まさに漫画やラノベの登場人物名!」なこの名前のおかげで、妙な奴等が集まってきたりもした。

 おかげで、そいつらが発症していた、いわゆる“厨二病”ってヤツに俺も感染するわけだが――それはまぁ、別件だ。


 とは言っても、俺は普通の人間。平々凡々な家庭に生まれて育ってきた。

親族・両親に非凡な人もおらず、顔もいたって普通。オツムは残念な感じだが、運動神経だけは持って生まれたようで、運動会や部活の試合日だけはスターになれた。


 でも、それだけ。


 名前を聞いた人は俺を見ようと振り返るが、その顔を見てガッカリする。

 運動神経の良さで俺を知った人物も、普段の俺を見れば瞬時に興味をなくす。


 そんな程度の人間なのだ、俺という人間は。


 とはいっても、この名前に意味がないわけじゃない。両親が俺のために一生懸命になって考えたものだ。


 ・・・そりゃ、もうちょっと名字との相性や、それによる余波を考えてくれよ、と嘆いたことは多々ある。


 でも、こんな見ず知らずのオッサンにバカにされる名前ではない。というか、なにも知らないくせにそんな言い方をしないでほしい。


 気づけば、俺はオッサンを睨んでいた。

 それに気づいたのは、カードから顔を上げたオッサンと視線が合った瞬間、人をも殺せそうな覇気ある睨みを返されたからだ。


 ひぃぃぃぃっ、父さん、母さん、ごめんムリ! こんな百戦錬磨の鬼みたいな人に喧嘩なんかうれねぇよ!!


 ヘタすりゃ死ぬ! そんなことを思ってソファーの端に小さくなっていると、オッサンは溜息を吐いた。そしてカードをテーブルに置いた。


「俺の名前は、イエロ・ウノ・コルミリョ。“勇者の噂”は聞いていたが、まさか本当に実在するとはな・・・」


 さっきの溜息は、どうやら呆れというヤツらしい。

 生まれたての子犬同然にビクビクしている俺を見て、鋭かった目が、なんだか可哀相なものを見る目に変わったからだ。うう、俺ってほんとう、意気地なし!


「こ、こるみりょさんとお呼びすればよろしいのでしょうか?」

「あ? 好きに呼べ」


 思わず敬語になった俺を一瞥した後、またもカードに視線を戻すコルミリョさん。


 ・・・ていうか、すっげー言いづらいし覚えにくい名前だな。さすが外人。っていうか異世界人。


「お前、いつこの国に来た」


 唐突に言葉を放ったコルミリョさん。


「えっと、昨日、だと思います」

「はぁ? 思いますだと?」


 ギンッ、とガンを飛ばされ、内心「ひぃぃぃぃぃっ!!」と叫ぶ俺。


「じ、実はですね、昨日この国のお城に着いたのですが、そのままそこの騎士?の方に投げ出されまして・・・。気づけば水路にいて、そのまま夜を明かしたので、た、多分としか俺には言い様が・・・」


 事実をしゃべったのに、コルミリョさんからの言葉はない。証拠にと、自然乾燥でパリパリになった俺のシャツやらなんやらを見せたが完全スルー。

 顎に手をやり、ソファーの背もたれに体を預け、なにやら思案し始めた。


「この国に“勇者”が来たなんて通達、俺は聞いてねぇ」


 それは俺に向けられた言葉なのか、はたまた独り言なのか。

分からないけれど、とにかく返事をしなければと「はぁ」と返した。


「巫女様が来たのは知ってる。街中大騒ぎだったからな。だが、巫女と勇者が同時に現れるなんて、前代未聞だ」

「・・・巫女と勇者?」


 巫女って、つまり小鳥遊さんのことだよな。

 んで、勇者ってのは・・・俺のこと?


「・・・あの、コルミリョさん」

「なんだ」

「なんで、俺が勇者だって断言されているのですか?」


 俺を勇者と言ったのは、あの暗闇の中で聞こえた声だけ。

 そして、巨乳ナースといい、ギルドのメンバーといい、コルミリョさんといい。

 なぜ、みんな俺を“勇者”だと知っているのだろう?

 さらに、あの敵意。騎士野郎もそうだったが、一体なんなんだ?

 普通、“勇者”ってのは歓迎されるもんじゃないのか?


 ・・・ってゆうか、俺って本当に勇者なんですか? それのが疑問なんだけど・・・。


「断言もなにも、ここに書いてあるだろうが」


 そう言ってコルミリョさんは、ズバァン! とテーブルを叩いた。強烈な音に、俺の体が飛び上がったのは言うまでもない。


「ど、どちらにでしょうか・・・?」

「・・・お前、まさか言葉が分からねぇのか?」


 コルミリョさんは本気で不思議がっていた。

 というのも、さっき俺が世界地図を見ていた時にレイノ王国の場所を当てたから、てっきり読めるものと思っていたらしい。


 ・・・いや、だってアレ、完全なるローマ字読みじゃないっすか。


「ここを見ろ」


 そう言って指を差したのは、ギルドクレスト。名前、生年月日の下に書かれた単語と、その後ろについている括弧だ。


「ギルドでは、問診と血液検査でその人物のステータスを割り出す。魔法属性の適性はもちろん、相性も全部分かる」


 ・・・病院ギルドにそんな意味があったとは。マジぱねぇ。変なところって思ってすんませんでした。


「お前さんは知らんだろうから言っておくが、血液ってのは重要な素材(マター)でな。魔力の媒介として用いられている。つまり、その成分が分かれば、その人間のほとんどが分かるってことなんだよ」


 だから俺は身バレしたのか・・・。


 コルミリョさんの話しに感心しきっていたが、それと勇者バレがどう関係あるんだ?


「割り出されたステータスから、一番最適なジョブがギルドクレストに表示される。本来なら、初心者中の初心者であるお前は、“見習い冒険者”かそこらのジョブしか表示されないはずだ。だが、ここには“勇者”とハッキリ書いてある」


 トントンと叩かれた欄。俺も思わず覗き込んだ。


「この国の言葉で勇者を指す言葉“エロエ”。それがルーキー冒険者のジョブってことは、つまりそういうことだ」

「・・・エロエ」


 ・・・脳内で“エロ絵”と変換されてしまったのは、俺の頭が残念な仕上がり故です。はい。


「とは言っても、この括弧はなんなんだ? 初めて見るぞこんなジョブ。まぁ、勇者ならなんでもありか」


 長い溜息を吐いたコルミリョさんに、俺はその括弧の中の単語を見た。

 さっきは気づかなかったが、よく見るとこれ、学校で習った単語な気がする。

 えっと、意味は確か・・・。


「“勇者(臨時雇い(・・・・))”なんて、そもそもジョブとして通用すんのかよ」


 そう、まさにコルミリョさんの言う通り!

 この単語はtemporary. 一時的な、とか仮の、とかそういう意味を持つ英単語だ。あと、パートタイマーを指す言葉でもある。


 ・・・って、ちょっと待て。勇者(臨時雇い)って、どういうことだよ!!

と、いう理由から“病院ギルド”にしたのです(ババーン!)


勇者の称号に関しては、「仮」にしようと思っていましたが、「臨時雇い」のが珍しいかなぁと思い採用。

さて、臨時雇いの勇者・翼っちはどうなるのでしょうか?

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