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その異世界で、勇者はごみクズと呼ばれる。  作者: 馨あひる
第1部 神坂翼、巻き込まれて異世界へ?編
4/27

第4章 神坂翼、投げ捨てられる。

 全身ずぶ濡れの、まさに濡れ鼠の俺は、必死に岸にしがみ付き、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返していた。

 ――し、死ぬかと思った!

 本日二度目の生命の危機を乗り越えた自分を褒め称えるべきなのか、そんな不運としか言いようがないことに巻き込まれている現状を呪えばいいのか分からんが、とにかく言わせてほしい。

 ・・・あの騎士野郎、今度会ったら絶対殴るっ。




 部屋で小鳥遊さんと別れる直前、お互いの自己紹介をしたその後だった。


「あの、神坂くんもこの城にいさせていただけますよね?」


 あの“幸運の天使”が、俺の名前(名字だろって突っ込みは聞かないでおく)を呼んだ・・・!

 歓喜に打ち震える俺、ではなく、小鳥遊さんの目は女性騎士に向けられている。彼女は一瞬返答に困ったようだが、すぐに「はい。巫女様の仰る通りに」と返した。

 それを聞いた小鳥遊さんが、胸に手を宛てる。そしておもむろに俺へと視線を向けた。


「神坂くん、ではまた、あとでお会いしましょう。まだまだお話ししたいことがありますし」


 締めに見せられた、はにかむような笑顔。それを見て、俺は顔も心も溶けるのではないかと思った。

 だが、片思いの女子相手に、そんな情けない姿は見せられない! と気合で顔面を固定する。心は見えないのでいいとした。そう判断した。誰がって俺が。


「ああ。そうだね」


 その言葉を最後に、女性騎士に連れられて小鳥遊さんは部屋を出た。きっとまた、あの“国王会議”なる場所に向かうのだろう。

 そんな風に考えていた俺の前に、ぬっと影を落としたのは、あの騎士。

 俺に槍を向け、あまつさえ殺そうとした相手だ。


「きみは巫女様の客分。本来ならばこのような場所には立ち入ることも居座ることもできない下賤の身だが、仕方あるまい」


 ・・・第一声が敵意そのものでしたよ。

 いや、歓迎されていないのは分かっている。

 さっきまでいたあの部屋で、見るからに重鎮といった風格を出すひげもじゃあの人や、金ピカの衣装を着た人など、皆々様が怪訝そうに俺を見ていたのは知っている。

けれどその目は、小鳥遊さんを見るときだけ「おお、神よ!」と言わんばかりに敬虔つーの? とにかく期待の眼差しを向けていたのだから。頭良くない俺でも、自分が招かれざる客ってのは分かった。

 ・・・だからって、この態度はねぇだろ。

 思わず騎士を睨むように見てしまう。そして、改めてこの騎士を見て、その威圧感に圧倒された。

 まず、身長が高い。俺の身長は170センチきっかり。それでもヤツの肩にも満たない。まさに“大人と子ども”って感じの差だ。

 しかも、ヤツは鎧を付けているが、その下の体はマッチョ確定! と断言できるほど。

さすがは騎士、と言いたいところだが、俺にとっては恐怖しか感じさせないね。

 一応、槍は持っていないみたいだったが、体術どうこう、俺みたいなただの男子高校生なんざ簡単に殺れるだろう。そんな余裕も漂っているから尚のこと恐ろしい。

 高身長の騎士を前に内心ガクブルしている俺を見て、軽く鼻で笑うと「ついて来い」と言葉を投げた。そして俺に背中を向ける。それは「お前なんかに背を見せてもなんら怖くない」と言っていると同じだ。

 ただその時、俺の頭にあの声が流れた。


 ・・・そなたこそ、この国を、そして世界を救う勇者・・・


 それは、あの“国王会議”のどでかい石のテーブルにぶつかる前に聞いたもので。女とも男とも取れない、けれど感情を一切感じさせない、まるで機械のように淡々とした声だった。


「・・・レイノ王国を救う、勇者?」


 あの時言われた言葉が、俺の頭で響く。なんでこんなときに? と思わないでもなかったが、流れてきたのだから仕方がない。

 思わず顔を俯かせ考える俺が現実に戻ってきたのは、呼吸を奪われたからだ。正確には、あの騎士が、俺の制服の胸倉を掴み、片腕で宙へと浮かばせたから。

 ひ、ひぃぃぃぃぃ! やっぱコイツ怖えよ、恐ろしいよ!!

 内心叫び、あわあわバタバタと両手足を振る俺に、騎士は空いているもう一方の手でその兜の目の部分だろう個所を持ち上げた。どうやら可動式になっているらしく、その下には案の定――怒りを滾らせる濃いブラウンの瞳が俺を貫くように見ていた。


「貴様、なぜ“勇者”を知っている?」


 疑問形だが、明らかにこれは尋ねていない。

 有無を言わさぬ強さで気道を絞め、俺に返答なんか一切求めていないからだ。

 そして、騎士は息が出来ず酸欠と恐怖で頭をクラクラさせる俺に、強い一言を放った。


「この国に、“勇者”はいない」


 ――は? え・・・?

 その言葉を放つと同時に、騎士はブンッと俺の体を投げた。ドンと床に尻餅をつき、ゲホゴホと噎せる俺。苦しかった。うわ、若干涙まで浮かんできた。


「無駄口を叩かずついて来い」


 これ以上アクションを起こすと、本当に殺されかねない。だから俺は、黙って騎士野郎の後をついて行った。

 通されたのは、十畳ほどの広さのある部屋。

 家具はベッドとクローゼットらしきものと椅子とテーブル。

 明らかに、さっきの部屋よりこじんまりとしたものだった。


「ここに居ろ」


 それだけを言うと、騎士野郎はバタンと大きな音を立てて扉を閉めた。

 ・・・どこまでも敵意にまみれてまんがな。

 そんなことを思いつつ、ふと部屋にある窓に目を向けた。

 太陽は、地平線に沈んでいる。けれどまだぼんやりとその余韻を残していて、空はオレンジ色と濃い紫色のコントラストで染まっていた。

 夜、なのだろうか。そんなことを考えつつ、特にやることもないのでベッドに横になった。

 大きさにしてクイーンサイズ。ふかふかのマットに背中を預けると、今までの出来事がじんわりと、疲労として自分の体に広がってきた。

 ・・・それにしても、ここは異世界ってやつなのか?

 小鳥遊さんから聞いた神殿というワード。そして巫女という存在。見るからに欧米系の外国人なのに通じる日本語などなど、どう考えても日本ではない。

 ・・・ヤベ、うずうずしてきた。

 リアル中学二年生でこじらせた病。所謂“厨二病”。

 そう、男にはロマンと書いて夢がある。

 それは、なにかでっかいことを成し遂げる大いなる存在となること!

 だからもし、あの声の通り俺が“勇者”なのならば、興奮するなという方が無理だ。

もともと俺はゲーマー気質で、ファンタジーや冒険というものに憧れが強い。確かに驚いたが、少しだけ嬉しさというものも芽生えてはいる。

 ただ、あの騎士野郎の声も思い出された。


「・・・なら、あの声はなんだったんだ?」


 その疑問に答えてくれる存在はいない。そして俺は、気が付けばとろとろと眠りについていた。




 そんな俺が目を覚ましたのは、不審な物音を聞いたからだ。

 思わずガバリと体を起こそうとして、その両手足がなにかに拘束されていることに気づいた。


 「な、なんだこれ・・・!」


 いつの間にか部屋の中は真っ暗で、窓から指す月明かりでしか判別ができない。

 そして、俺は見てしまった。俺の両手、足を掴んでいる者達を。


「今頃目覚めたか」


 その声には聞き覚えがあった。というか、このムカつくくらいの敵意はアイツしかいない。

 騎士野郎だ!


「なんだよ、なんだってこんなことしてんだよ!」


 非難の声は、フンという笑い声に消された。


「言っただろう、この国に“お前”という存在はいらないのだ」


 頭を金槌で打たれたような衝撃だった。


「・・・でも、お、俺は小鳥遊さんのっ」


――客分? 知人? それとも、なに?


言葉の続きが出てこない。それは、俺と彼女の決定的な差を表しているからだ。

彼女は、この国のお偉いさん達が大歓迎する“巫女様”。

俺はただ、それと同じような形でこの国に、この異世界に来てしまっただけなのかもしれない。真相は不明だが。

それに気が付いた途端、全身から力が抜けた。

・・・そうだ、俺は、一体なにを勘違いしていたんだろう。

小鳥遊さんと俺の違い。そんなものは、ずっと前から分かっていたことだったのに・・・。

唇を噛む俺を、抵抗しないと判断したらしい。騎士野郎はこの暗闇の中でなにか合図をした。

そして、それと同時に宙に浮く俺の体。


「え、え?! ちょ、なんだよ!」


 どこかに運ばれて行こうとする俺の体。身をよじって逃れようにも、胴体しか動かない今の状態では、芋虫以下の抵抗力しかない。


「巫女様はこのレイノ王国の宝だが、お前は違う。慈悲深い巫女様に感謝するんだな」


 「どういう意味だ」と問う前に、冷たい風が俺の体を撫でた。振り返ると、そこにはぱっくりと口を開いた夜空。ならぬ、開け放たれた窓。


「え、ちょ、嘘だろオイ、ちょ――うわぁぁあああああっ!!!」


 投げ出された俺の体は、しばらく夜空と同じ高さを漂ってから、急激に落下をはじめ、どぼんっ! と大きな水飛沫を上げさせた。

読みやすい文章をめざし、とりあえず改行を入れてみました。

これで多少は読みやすくなった、かな?

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