第3章 “幸運の天使”こと、小鳥遊翔子
「ほんとうに、ごめんなさい!」
そういって俺に深く、深く頭を下げているのは、ハーフで美少女で頭脳明晰などなどで有名な小鳥遊翔子さん。
一体なにがどうなってるのかって? そんなの俺が聞きたいっての!!
・・・と、怒っても仕方がないので、今に至るまでの話しをしようと思う。
あの鎧を付け、俺に槍を向けてきたのは、この国の騎士だそうだ。そして、彼がなぜ俺に敵意、否。殺意を向けていたかというと、あの広々とした部屋で、まさにあの瞬間に“国王会議”なるものが開かれていたからである。
というのも、俺があの固い石のテーブルに激突する約2時間ほど前に、この国のとある神殿の前に、空から落ちてきたらしい。
誰がって? もちろん小鳥遊さんだよ。
それを見たこの国の民は驚き、その喧噪が街中を警備していた兵士の耳に入り、彼女は連れられて行った。この国の城に。
なんでも、この国にはある言い伝えがあるらしい。
それは「国の憂いを神が嘆きとき、その憂いを晴らすため、異界より巫女が現れるだろう」と――。
どっこのゲームだそりゃ、と思った。だが、どうやらそれは本当らしい。
わけが分からないながらも、小鳥遊さんは兵士に従うしかなく、城の中へとやってきた。そして「おお、巫女様よ!」と自分を迎えてくるこの国の王、そして王子達に困りながらも、事情を説明した。だが、まさか「私、日本という国の女子高生なんです!」と言って通用するわけがない。というか、むしろそれは好感をもたれた。
・・・いやいや、エロゲー的な感じとかでなくよ? 確かに“女子高生”という生き物は貴重な存在であり、且つ彼女のような容姿端麗の誰もが思わず二度見してしまうような美少女は極々少数。天然記念物といっても過言ではない。
話しが逸れたが、つまり、彼女が説明したことは、この国の王達にとっては「私、巫女様です!」と宣言しているようなもの。
しかも降り立った先が神殿だったものだから尚更だ。巫女と神殿。なんというベストマッチング。
そして、そんな小鳥遊さんこと巫女様からもっと話しを聞くべく、“国王会議”と称して、この国の中でも極限られた特権階級の人間のみで集まっていたその場に、俺が降ってきた。
もちろん、そんなやんごとなき身分の方々にとって、俺はイレギュラーな存在。警戒して当たり前。だからその場にいた兵士が俺に槍を向けてきたのだが、それを身を挺して守ってくれたのが小鳥遊さんだった。
まさかの巫女様の行動にざわつく国王会議の場で、彼女は言った。聞いただけで耳が幸福でただれてしまいそうな美声で。
「彼と話しをさせてください」
この言葉に、俺はもちろん国王達も驚いた。
だが、本来ならば小鳥遊さんが一体どういう素性の人間なのかを説明するための場だったが、俺が居てはそうもいかない。というより、彼女の中の良心が許さなかったようだ。
美少女に強い意志を持つ瞳で見られ、国王は頷くしかなかった。そして俺は今、城の中にあるとある一室で、小鳥遊さんと対面して今までの経緯を聞いている、といわけだ。
「いや、なにも小鳥遊さんが悪いってわけじゃないし・・・」
だってそうだろう? 彼女が巫女だかなんだか知らないが、いきなり変なところで変な人間達に囲まれれば、誰だってビビる。そんな中、はっきりと自分の意思を持って言葉を述べることができた彼女は、やっぱり噂通りの才女だなぁと、俺は感心したね!
内心、うんうんと頷く俺だったが、その時小鳥遊さんが、こてんと首を傾げた。その拍子に、さらりと亜麻色の髪が流れる。
・・・た、ただ首を傾げられただけで、鼻血を噴くかと思った・・・。
可愛いって正義だな! とは常々思っていたが、まさかその可愛さに攻撃をされるとは。恐るべし。
「あの、どうして私の名前を?」
――すみませんすみません俺は一般市民で一般男子高校生です、後生ですから警察にしょっ引かないでください! ストーカーとかじゃないですからぁっ!!
さっきまでとは一転し、内心汗だくの俺。
そう、俺と小鳥遊さんは、現状把握を最優先事項にし、互いの自己紹介をしていない。
つまり、彼女にとっては、「制服から察するに自分の隣りの高校の生徒だけど、なんで私の名前を知っているの?」 となるはずである。
というか、誰だってそうだろう。俺だって不思議になるし、そう思う。
「え、えっと、それは・・・」
マサカ、イエナイ。「オレハ、キミノコトガ、シュキダカラーッ!!」ダナンテ。
ない頭をフル回転させ、必死にそれっぽい理由を探した。
「実は、その、小鳥遊さんって全国模試でも市内トップの成績持ちだろ? だから有名なんだよ、うちの学校じゃ」
・・・うん、実に無難な返しだと思う。
小鳥遊さんも、その言葉に納得したようだ。
というよりは「え、あの・・・え?」と頬を赤くして驚いている。
ああ、なんて可愛いんだろう。一生こうやって彼女の正面で彼女を見つめていたいくらいだ。
「そんな、模試の成績がお隣りの高校の方々に知られているだなんて・・・」
「いやいや、それに小鳥遊さん美人だし、うちの高校じゃあ有名ですよ! なんせ――」
“幸運の天使”。主に学校問わず男子生徒からは、彼女はそう呼ばれている。
というのも、彼女を見かけた人物は、その日の小テストの成績が満点だったり、小遣いが急激に上がったり、彼女ができたりと、なにかと幸福なことが訪れるからだ。
容姿と相まってついた呼び名が“幸運の天使”。まぁ、そう呼んでも問題ない、むしろ美の女神と言ってもいいくらいの美しさと可愛さを持つ美少女女子高生(ハーフという特殊ステータスもある)なんだから、当然と言えば当然だ(と、男子生徒の間では専らの評判だ)。
とはいえ、それは俺達が勝手に呼んでいるだけで、ご本人は知らないし、まさか自分の知らないところでそんな呼び名が付いていると知ったら不快に思うかもしれない。だから俺は慌てて口を噤んだ。
そして、タイミングが良いのかなんなのか、この部屋の扉をノックする音が聞こえた。俺の心の声を知らない小鳥遊さんからすれば、このノックの音に前もって気づいて口を噤んだかのように思えるだろう。フッ、カッコイイな、俺。(決め顔)
「巫女様、国王様がお呼びです」
現れたのは、鎧を着た二人の騎士っぽい人。
小鳥遊さんを呼んだのは、どうやら女性の騎士さんらしい。兜まで着用されているから、顔が分からず声で判断するしかない。
そして、その後ろに居たのも、兜を被った騎士。でも、その気配だけで俺は分かってしまった。さっき俺を殺る気満々だったヤツだと。
女性騎士に呼ばれ、席を立つ小鳥遊さん。それに、俺は慌てて声を上げた。
「神坂! 俺、神坂翼です!」
俺は小鳥遊さんのことをある程度知っているが、彼女にとって俺は名もなき民同然。これを機に親しくなろう! ではないけれど、せめて名前くらい伝えておかねばと思った。
そして、俺の声に小鳥遊さんが振り返る。さらりと流れる亜麻色の髪の向こうに、同じ色をした大きな瞳が見えて、それがまっすぐに俺を捉えていた。
「・・・私は、翔子。小鳥遊翔子です」
形の良い唇の両端が上がり、目尻が優しく下がる。その完璧な美少女スマイルに、俺はもう心臓の息の根が止まるのではないかと思った。
――美少女って、武器でもあるのね。うん、学ばせていただきましたよ。
ハーフで美少女で複数の国の言葉が話せるスペックの持ち主で、実家金持ち。
そんなテンプレ美少女JKに“巫女”という役職が付きました(笑)