表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嘘つきゲーム

作者: 太郎

 私は嘘で構成されている。


 全て偽物。私の物なんてない。

 だって私は死んだの、1年前に。



 一年前に駅前で起きた交通事故で二人の少女がひかれた。それは、犯人が薬物を使用していたことによりその事件は大々的に知らされた。

 片方がトラックにひかれて即死だった。ぐちゃぐちゃに潰れて、顔が分からなかったが遺品の生徒手帳から分かった。

 彼女が<あいこ>って事が。


 生き残ったのは無傷の少女は死んだあいこの姉の<ゆいこ>であった。

 双子だった彼女達は親も間違える程、瓜二つで仲も良かった。

 そんな悲劇のヒロインゆいこのことを一時期マスコミが追いかけていたが、一年経った今は落ち着いた。



 でもこれも嘘。



 妹、あいこは死んでないのである。死んだのは姉のゆいこで私、あいこは生きていた。

 たまたま私の生徒手帳が姉の方で転がっていたのを見て、警察や関係者は妹が死んだと決めつけた。姉が死んだのに。

 でも、私はその虚言を訂正しなかった。


 お母さんは出来が良くてしっかりしていたお姉ちゃんのことの方が好きだったから、妹が生き残ったと知った時に落ち込むと思った。

 言葉には出しはしないけど、姉が生き残れば良かったというオーラを出すであろう。それを見たくなかった。

 それになによりも姉になることで、私にもそれなりの利点があった。

 私は姉の彼氏がずっと好きだったのだ。私が姉になれば、代わりになれば、彼とずっと側にいられる。そんなことを考えてしまう、私は最低な妹だった。


 でも仕方がないのよ。私がこんな風に考えるのも。

 私の方が先に好きになったのに、真面目なあの女は私の思いを知った上で告白した。ずっと好きだったの。なんて、甘い言葉を言って。彼を奪った。

 だからお姉ちゃんが死んだ時、嬉しかった。やっと、彼の隣が空いた。ずっとずっと、邪魔だったあいつが消えてくれて良かった。

 自分は死んだということになったとしても、彼が私のことを見てくれるならそれだけで良かった。


 彼の思いはずっと私には向かなかったけど、お姉ちゃんの皮を被った姿の私なら彼もきっと好きになってくれる。

 そう、信じてた。




 嘘で塗り固められた笑顔の私の遺影の前で、彼は泣いた。ぽろぽろ涙を流してあいこ、あいこと私の名前を呼ぶ。

 私が死んだことを悲しんでくれている。嬉しいようで悔しかった。これが本当に姉が死んだのだと知ってしまったらどう泣くのだろう。

 そう、一人考えて悲しくなった。


 彼を慰めながら、私がいるから。私が貴方を支えるから。と、言いながらもそのまま倒れてしまいそうだった。


 嘘。 嘘。 嘘。


 悲しそうに笑う彼を抱き締めて、嘘の口づけをかわした。何の味もしない。無味無臭。淡白な、アッサリとした、私への気持ちのないもの。


 嘘。 嘘。 嘘。


 お姉ちゃんへの思いが満ちた口づけは私には悲しいだけで、苦しいよ。言いたいよ。と心が泣き叫ぶ。

 でも、言えるはずない。私はこうなることを分かってて姉を演じているんだから。

 いや、でも私は心のどこかで私のことを妹だと分かってくれて、それでいて私のことを愛してくれたらと、期待してた。


 嘘。 嘘。 嘘。


 もう一年経ったけど、お姉ちゃん、どう?上手くやれてるかな?貴女の真似っこ出来ている?

 そしてまた、お姉ちゃんを愛す彼を騙して今日も嘘をついてるのよ。嘘みたいにクソ真面目な貴女を真似ているの。

 嘘しか出さない口は汚いかしら。でも彼はそれを見ないのよね。

 彼はずっと私が纏うお姉ちゃんしか見えてないから。



 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。



 さあて。今日も嘘を吐く。どろどろ汚く甘ったるい嘘を吐いて吐いて、中毒になりそう。あの人を騙すためだから、頑張るけど。

 お姉ちゃんになりきるの。今日も明日も明後日も。彼のために、彼に愛されるために、私はお姉ちゃんであり続ける。



 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。 嘘。








 嘘。 嘘。 嘘。


 僕は今日も嘘を吐く。

 愛するゆいこを亡くしたのに気づかないフリで、ゆいこの顔した彼女にキスをした。


 嘘。 嘘。 嘘。


 僕を見る彼女の目はゆいこと似ているけれど、違うってことはすぐに気づいた。ゆいこは僕のことなんてもう愛してなかった。なのに、彼女の目は僕への愛に満ち溢れた瞳を見せた。

 そんな簡単なミス、いくら双子でも分かるけど、それに気づかない彼女を僕は騙す。


 嘘。 嘘。 嘘。


 愛してるって言葉はゆいこに捧げるもの。今も変わらず彼女のことを愛しているんだ。だけど最近は彼女に言ってるような気がする。

 僕はゆいこを愛している。ゆいこと同じ顔の彼女が、ゆいことは違って僕を愛してくれるから僕は勘違いしているだけなんだ。

 絶対、そうだ。僕はゆいこを愛しているから……ああ、でも葬式の日に流した涙はゆいこの為じゃなくて、僕を愛してくれる方が生き残ったことに嬉しくて出た涙だったんだ。

 ありがとう。僕に愛想を尽かしてしまったゆいこが死んでくれて。ありがとう。僕を盲目的に好きでいてくれるあいこが生き残ってくれて。ってね。

 天涯孤独なあいこは僕しか救えない。僕だけが本当の彼女を知っている。そう考えるだけで、嬉しいんだ。

 ありがとう。だから、あいこのために騙されるね。


 今日も明日も明後日も。



 嘘で塗り固められた彼女と騙されたフリをしながら

互いに傷つかないように、痛みを忘れれるように。


 今日も嘘。 嘘。 嘘。 嘘。


 

 ああ、これはゲームなんだね。


 嘘をつき続ける果てしないゲーム。


 僕は負けないよ?彼女も負けようとしないよね?



 ならこれは一生続く。




 『 嘘つきゲーム 』




ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ