最高のお宝
『・・・・・・最強の高校には最高のお宝が存在する』
そんな噂が学校中を駆け廻ったのは、ほんの3日前の出来事だった。
最強の高校とは、多分自分の学校のことだろう。部活動しかり、勉強しかり、喧嘩しかり・・・・・・学校自体が県内最強と言われている。
そんな学校にこのような噂が流されたのだ。嫌でも自分の学校だと思うだろう。
さらに“最高のお宝”である。最高と言われてるからには、きっと物凄い何かではないだろうか。
そんな面白そうな話を団長は見過ごすわけもなく・・・・・・。
「はい、3日後に例のお宝探しにいきまーす。文句あるやつは殴るっ!」
団長の園田は両手を腰につけて、宣言するように言い放った。
あまりにも急な団長の発言に、部室にいた俺を含め団長以外の団員があっけにとられた。
「あれって・・・釣りなんじゃ」と俺。
「いや、本当のようだけど・・・まだ誰も見つけられないとか」と水無月。
「やーだーよー。部長が勝手にやれよー」と芦原。
「芦原。やりたくない理由はなんだ? まさか、面倒くさ・・・・・・」
「その通りっ!!――――――アダアアッ!!」
団長の発言に喋りを遮って答えた芦原は、頭にチョップをくらっていた。
あれ、団長から芦原まで机を挟んで3mあるのに・・・・・・いつのまにそこまで移動したんだろう。
「とりあえずいくのっ!! 3日で調べとくから、みんなは色々用意しておくんだよ」
まぁ・・・・・・ちょっと興味あったし、最高のお宝にお目見えしたい気持ちもある。
水無月は座っている椅子にもたれながら、頭の後ろで手を組んで俺と水無月の言動を窺っている。嫌でもないし、付き合うよってところか。
芦原はどうだろう。チラッと芦原を見ると、チョップをされた頭を押さえながらもニヤッと笑っている。口ではああ言ったが、芦原も興味事に首をつっこまないでいれない人だ。面倒くさいってのは・・・・・・本音だろうが、反面おもしろそうだと思っているのだろう。
俺と芦原と水無月はお互いの顔を見合って声を合わせる。
「「「アイアイサー」」」
☆☆☆
そして当日。俺は2、3日分の着替えを持って部室に到着した。お宝を見つけるにはきっとたいそうな時間がかかるだろうから、日をまたぐのも覚悟していた。
3日前は冷静に他人を見て分析してはいたものの、宝探しというのは男心をくすぐるものがある。冷静を装ってはいたが、内心は待ちきれない。待ちに待った3日間だった。
逸る気持ちを抑えられず、ガラッと勢いよく扉を開ける。
「遅いッッッ!ゲンコツ1発」
俺は受けを取る暇をあたえられないほどの速さで、団長に挨拶変わりと言わんばかりの1発をおみまいされた。いい角度でゲンコツが入ってきたので、結構な痛みが俺を襲った。思わず頭を抑えてうずくまる。
痛みがひいてきたところで顔を上げる。部室には芦原と水無月も既に到着していたようで、どうやら俺は最後のようだった。
・・・・・・どうも芦原がなぜ既にいるのか理解できない。
芦原は、遅刻ギリギリで到着するような奴だ。いつもなら俺より後に来るはずだが・・・・・・。団長からゲンコツを放たれるのも、いつも芦原の役だった。
「芦原早いな。なんか悪い物でも食ったか?」
「べ、別に? ただ、早く起きちゃっただけだしー。二度寝するの面倒だからはやく来ちゃっただけだしー」
・・・・・・普段の芦原なら「2度寝しちゃった。てへぺろっ」とかやらかすはずなのに・・・・・・。そうかそうか、最高のお宝とやらがそれほどまでに気になるか。
俺は笑いをこらえられずニヤニヤしてしまう。
「ななな、何がおかしいんだ? ワワワ、ワシは最強の武器になんか興味はないぞおおおおっ。なんとなーく、団長についていきたかっただけなんだかねっ」
俺のニヤニヤに気付いた芦原は頬を赤らめて、おどおどとしゃべる。意地をはっているところがまたかわいい。
芦原は一人称を“わたし”にしたら、もうちょっと女としての需要ができるんじゃないかと思う。パッと見凸凹のない・・・・・・包まずに言うとまな板のような体系だが、そこにも需要というものは存在する。好奇心が強く、とても明るい。どこへ行ってもムードメーカーで、誰にでもニコやかに話すのは芦原の長所だ。そんな芦原に思わずドキッと思わされたことが何度あったか・・・・・・。
「そんなんだからお前はデリカシーがないって言われるんだよ」と水無月がくすくす笑いながら声をかけてきた。
「うるせー・・・・・・ん?」水無月のほうを振り向くと思わず目を点にしてしまった・・・・・・。
――――――――――――――――迷彩服だとぉ!!
「どうした? そんな顔をして。鳩が豆鉄砲でもくらったような顔だが」
「いやいや。 なんで迷彩服着てるんだよ」
「ん? お前こそ、なんで迷彩服着てないんだよ」
「普通着るものなの?」
「え?探検するんだろ??」
「探検?」
どうも話と服がかみあってない。
「最高の宝って学校にあるんじゃないの?」俺が訊ねてみる。
「学校ならすぐ見つかるはずだから、そうじゃないってことは山でも登るかと思ってたのだが・・・・・・。ふむ。どうなのだろう」
「いや、最強の高校に最強の武器があるとかなんとかだったよな。それなら、高校にあるはずだろ」
「甘いっ。その考えが甘いっ。ココイチのカレーより甘いよっ」
あれ全然甘くないはずだが・・・・・・。
ふと考えが頭をよぎった。もしかして、間違ってるのは俺のほうなのかもしれない。団長は、どこに行くかをまだ話してないからだ。
「団長どこいくんだ?」俺は首を団長のほうに向けて問う。
「言ってなかったか? 体育館裏だ」
「そこに最高の宝が?」
「可能性だがな。一番可能性が高いのがそこだ」
「・・・・・・迷彩服意味ねーー!近すぎんだろっ!!サバゲーの服持ってきた意味がないだろおおお」水無月が叫んだ。
いやいや。逆ギレされてもお宝さんも困るだろうよ・・・・・・。
「んー。じゃあ、もうそろそろ行くかー。暇だし」俺を殴った後から椅子に座っていた団長が立ちあがった。
「そんなのんびりでいいの??」俺が聞く。
「いいんじゃね?」開けようとした扉のドアノブに手をかけたところで、振り向いて団長は言い放つ。
「「「そんなんでいいの??」」」団員総出のツッコミだった。
☆☆☆
体育館裏についた。そこは先生生徒限らずの休憩場となっている。昼間は生徒達の食事場、放課後は先生達の雑談場、そして下校時間の間際は男の子が女の子に思いを告げる、または告げられる場所となっている。ただ今日は休日なので、誰も姿を現すことはないだろう。
「どこを探すの?」芦原が団長に訊ねた。
「ここ」団長はニコッと笑って、右手の人差し指で下を指す。左手にはいつの間にか人数分のスコップがもたれていた。
・・・・・・・・・・・・掘るんだね。
各自団長からスコップをもらって、あちらこちらを掘っていった。最高の宝は埋まっているものなのだろうか。
「本当にここに埋まってるの?」俺が団長に聞いてみる。
「知らん」
「「「知らん!!?」」」相変わらずの団員のかぶりだ。
「いや、可能性が高いってだけだし」まぁ・・・・・・確かにそう言ってたが。
「思ったんだが、宝が埋まってるものなの?」
「宝箱に入ってるかもしれないだろ? もしかしたら、ガッツリうもれてるかもしれないだろ!! いい加減にしろっ」
団長は頬をふくらませてぷんぷんっと怒っている。
「ま、まぁ・・・・・・そうだね」
「そうだよ! さぁ。ほったほった・・・・・・ん?」
言いかけた団長の言葉が止まった。もしかしてアタリをひいたのか?
詰まった言葉に反応した芦原と水無月も団長の穴を覗きに来た。
俺も作業を止めて、団長の穴を覗く。
「ひいた?」芦原は団長に声をかけた。
「うーん・・・・・・なんか思ってたのと違うなぁ・・・・・・」
団長は鉄性のバケツをかかえていた。どうやらそれがひきあてた物のようだ。
「それが伝説の武器か?」
「開けてみる」
団長は持っていたバールのようなもので、蓋をこじ開ける。すると――――、
・・・・・・
「「「「ただの・・・・・・タイムカプセルだね」」」」
バケツの中に入っていたのは、未来への手紙、記念品のような物が入っていた。
「御苦労様でございますよー。今年の一番はあなた達でしたねー」
突然、体育館の影から声がした。みんなが声のした方を見ると、その声は影からそっと出てきた。
背は低め、白色のTシャツに茶色の上着、紺色のロングスカート、長いパーマをかけた髪をフワッとさせた女性は・・・・・・先生??
「・・・・・・騙したか」団長が腕を組んでギッと先生を睨んだ。
「毎年の恒例行事でね。同窓会の1か月前に噂を流すのが定例なの。先輩のものを後輩が掘りあてる慣習って何かステキじゃない?最高のお宝ってのは過去から未来にあてた手紙ってわけ」
キャッキャッしながら先生はさらに続けた。
「でもでもっ。見つけられた人には報償を出してるんですよー」
「報償って何?」水無月が聞き返した。
「なんとなんとぉ。次のテストで赤点を取った場合のみ、点数が赤点すれすれ分だけ補充されます!」
え・・・・・・。
学校には同学年が200人在籍している。団長と水無月は30番台筆頭で言うまでもない。俺と芦原も平均くらいを毎回とっているが、赤点を取るほど点数をおとすことはない。
つまりだ・・・・・・。
「「「「それ意味ねーーーー!!」」」」
体育館裏に団全員の叫び声がこだました。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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