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1円玉エレジー

作者: 山谷麻也
掲載日:2026/03/29

挿絵(By みてみん)


 その1 妖怪も退散


 ブラックユーモアをひとつ。

 四国にUターンし、交友関係に大きな変化が生じた。住所録を見ると瞭然だった。人間より妖怪が増えていた。このところ、野生動物たちにも知り合いができた。


 ちょっと変わった妖怪がいる。彼は近くの村で貸金業を営む。

 過疎化で商売が苦しくなり、街に支店を出した。主に夜間、酔客を相手に一万、二万の金を貸す。善良妖怪であり、低金利で喜ばれていた。


 ところで、彼には悩みがあった。

 都会の客は五〇〇円、一〇〇円、五〇円、一〇円、五円、果ては一円の硬貨で借金を返すのである。実に細かい。数えるのが面倒だった。


 彼は前日の売り上げを金融機関に預けるのが日課だ。とんでもないことに気付いた。手数料を取られ、持ち出しになっていたのである。

 都会は世知辛(せちがら)い。失意の彼は創業の地に引き上げて行く——これがオチである。


 その2 他人事では


 これは実話である。

 以前、このドキュメンタリーは個人情報に配慮し、小説風に書いた(『妖怪回生館』特別編3 闇金 発行Amazon)。あくまで他人事であり、ユーモア小説のつもりだった。


 ところが、我が家でも、笑うに笑えないことが起きていた。

 はり灸マッサージの保険診療をしているため、その場合の自己負担は高くても五六一円。いきおい、金庫は小銭で占領される。妻は金種ごとに一〇〇枚ずつまとめ、銀行をハシゴして入金していたというのだ。


「一〇〇枚オーバーすると何百円も取られる。バカバカしい」

 妻は妖怪と同じようなことを言う。

 筆者は目が悪く、クルマは運転できない。内助の功あっての保険診療なのである。


 その3 ツケは庶民に


 ちなみに一円玉を仮にゆうちょ銀行へ一〇一個持ち込むと五五〇円、一〇〇〇〇個持ち込むと、一一五〇〇円の手数料を取られる。金貸し妖怪の痛みが分かる。


 金融機関で硬貨取扱手数料が導入され始めたことを受け、ゆうちょ銀行の場合、二〇二二年一月から他行に(なら)ったものだ。硬貨の取り扱いにはコストがかかるというのが理由である。超低金利政策で収益環境が悪化したことを差し引いても、庶民は一方的にツケを回された感じだ。


 最近、多少、金利が上がってきたとはいえ、恩恵を実感できる利率には程遠い。

 こんな状況だから、金融機関に預けるよりも、タンスに預金したり、つい儲け話に乗ってしまう。押し込み強盗や投資詐欺のニュースを聞かない日はない。これらの犯罪被害者は超低金利政策の犠牲者でもある。 


 その4 お宝は無尽蔵


 タンスに硬貨を貯め込む人は少ないだろう。では、行き場をなくした硬貨はどんな運命をたどっているのだろうか。


 筆者の治療院に置いてある盲導犬の募金箱を見て、募金を申し出てくださった方がいた。

「ただし、一円玉ですよ」

 といかにも申し訳なさそう。


 本部の募金口座は振込手数料、硬貨取扱手数料がかからないので、ありがたくお受けした。篤志(とくし)そのもの、ずしりと重かった。


 連鎖反応が起きた。

「知り合いも募金したいと言ってます」

 やはり一円硬貨とのことだ。

 この分だと、日本の家庭には無尽蔵のお宝が眠っていることになる。


 その5 懐かしの得意先回り


 これらの硬貨はたまたま日の目を見たから良かったものの、多くは厄介者扱いされ、長い休眠期間を経て廃棄処分されかねない。こんなことは手数料の導入を検討した時点で分かっていたはずだ。


 昔の銀行員といえば、バイクに乗り、得意先を回って売り上げを集金していたイメージがあった。小銭を大事にし、地域の屋台骨になってきた。

「キャッシュレス決済の時代に、なんともアナログな発想」

 という哄笑(こうしょう)が聞こえる。百歩譲って、デジタルな社会はもろい。何よりも、熱い血の通ってない社会が生きづらくないのだろうか。

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