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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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六十二話 デート

『──それでは、第■回、前期終業式を行います』


 そう、先生の声が響いた。

 講堂だ、音が響くのは当然と言えば当然だろう。今登壇してマイクにて声を響かせているのは教頭先生だった。接点がないためか名前は知らない。確か、数学の先生だったような気もする。


 こういった式はいちいち立たされたり座らせたりするのがあまり好きじゃない。続けていると立ち眩みを起こしてしまうし。そういったものはさっさと廃止すべきだなぁ、なんて思っている。


『続きまして、学園長先生のお話です』


 この学校には校長はいない。聞いたら、学園長が兼任しているんだとか。あの人……妖怪はかなり激務なのは、ここ数ヶ月の間にもなんとなく察せることができた。


 難しい話……と、いうよりかは眠くなるような話を学園長先生が初めてきて段々とまぶたが下がっていく。というか、周りに少し視線を移すとすでに何十人単位でダウンしてるのが見かけられた。


「寝てもいいけど……んー、今夜は寝かせないぜ?」


「別に今は夜じゃないでしょ」


 けれど麗が冗談交じりにからかってくれて少しだけ睡魔が引いた。あと三分はまぶたを開けていられるだろう。


 そのまま学園長先生の話を右耳から左耳に脳を通さずに聞いていったら、──学園長と目があった気がする。きちんと話を聞けと、叱咤されたような気分だ。ちょっといつもより目付きが鋭いし。

 はいはい、と言わんばかりに肩をすくめたら学園長先生は再び講堂全体に視線を移動させた。代わりにそれに気付いていたであろう円羅先生からの目線が痛いが、まあ、うん、無視で。


「けど、これで一年の三分の一が終わりだと思うとなんというか……切なさ? を感じるね」


「まあ感傷に浸ってもいいんじゃない? 君に取っちゃ、長すぎる四ヶ月だっただろうし」


 初めての事だらけで、そういった未体験のことが多いと人は時間を長く感じる。ようは大人は経験が多いから短く感じて、子供は長く感じる、あの感覚と同じだ。


 妖怪についてを知ったのは実際には一年ほど前になるが、それでもこうして実際に初めて目にしたのは四ヶ月程度しか前でない。けど体感としては四年間は過ごしたような気分だ。一ヶ月が一年くらい。いろんな新しいことも文化? も覚えることになったし。


「昔っから適応能力高いね、とは言われてるんだけどね」


「……まあ生存に特化して入るんだろうけども」


 それでもまだ麗は言いたいことがあったのか、少しばかり複雑そうな表情を見せてそのままため息を付いた。


 さて、こうして無事に終業式が終わったら終わったでこの後は教室で通知表が返される。見たくないし、見せたくない……このあいだの期末の成績は先生が公開した平均点と照らし合わせて麗の協力もあってか中の上……いや、中の中……あたりだった。


「頑張ってたし、結果も伴ったし、そこそこ自分に自信を持ってもいいんじゃない?」


「自信を持ったらつけあがるタイプなんだよ、俺は」


「あっそ」


 軽口を交わしている間にも学園長の話はどんどん進んでいき、やがて「よい夏休みを」の一言で締めくくられた。そのまま進行役の教頭先生が「起立、礼、着席」を言い渡して今度は表彰式へと移っていく。





「──いやぁ、これでしばらく……えーと、四十日間? 学校に来なくていいってのはいいねー。実感が沸かないや」


 なんて通知表をくるりと丸めて肩を叩きながらもうすでに五人ほどしかいない自教室でそうぼやく。他のクラスメイトはそれぞれもうすでに帰省の為に駅に向かった者や、部活動の打ち合わせがるということで他の場所に移動したりしている。


 もう今この瞬間から夏休み、何したっていい。けどこうして何してもいいって言われると何していいかも悩みどころだ。


「……」


 そうして教室でだらだらと外を眺めていたら(陸上部は集まりはなくてメールで夏休みの動きの連絡が来た)、どこか暗い表情でスマホを眺めている帰宅準備をしていたであろう桜と目があった。


「……? 桜、どうかした」


「え、ぁ、いや……なんでもない。っと、わりぃ、俺もうちょっといかなきゃ」


「そう……じゃあ、夏休み明け、またね」


「……ああ」


 桜は今回帰省するらしく、すでに荷物の準備を昨日の夜に終えていた。真面目なやつだ。だから寮の部屋にパッとスーツケースを取りに行ったらそのまま新幹線で京都まで移動するらしい。


 ちなみに、向は明日、瀬奈も明日に帰省するとか。


 俺の場合は実家が同じ都内だからそこまで急いで帰省しなくたっていいだろうなと思っている。催促の連絡とかも別に来てないし。そもそも俺が帰省するためには学園長にきちんと話を通さないといけないから、少し面倒くさい。


「さて、と。そろそろ俺も……」


 今日は一時には学校に生徒は残ってはいけない。今はもう十二時十九分。教室から出て適当に時間潰して部屋に戻っていい頃合いだろう。


 そのまま支度を済ませているカバンを持って教室から出ようとした。──そうしたら、見覚えのある紫色が目に留まった。


「──愛さん」


「ん? ああ、蒼君だ。まだ残ってたんだー」


「まあね。そういう愛さんこそ、まだ?」


「さっきまで部活の集まりがあってさー。わたしバスケ部なんだ」


「じゃあ向と一緒だね」


 向もバスケ部に所属していてその身のこなしからか部内の一年生の中でリーダーを務めているんだとか。本人の性格も相まって、そうだろうなぁという話だ。

 この学校には基本的に運動部は男女どっちもある。施設が莫大でそのどっちもが同時に同じだけのスペースを確保するのも可能だし。


「……蒼君も今帰り?」


「そうだね。そろそろ戻る予定かな」


「そっか。じゃあさ──わたしとデートしよっか」





 ──デートをしよう。


 そんなことを同じく高校生で、クラスメイトで、友人で、可愛い女の子から言われてしまえばそれを断れる男など心に決めた相手がいるヤツぐらいだろう。

 そうして心に決めた相手のいない俺は見事に愛さんとデートをしている。


「……って言っても購買なんだけどね」


「まあ、外に出るのもそこまで手順を踏まなくてもいいとはいえ、申請書を書かないといけないからね。だったら学内で済ませちゃおう! ってことだけど……嫌だった?」


「いや、全然。俺的にはちょっと買っておきたかったものもあるからいいかなーって」


 買っておきたかったもの、生活用品。歯磨き粉がそろそろ切れかけなので買っておきたかった。

 愛さんはそんな俺がカゴに入れているものをちらっと覗いて少し笑った。


「あははっ。女の子とのデートで買うのが歯磨き粉! あは! あはは! まあ、そうゆーのもありなのかもね!」


「笑いすぎだろ……ってか、行き先が購買って決めたのだって愛さんじゃんか!」


「そーだね! そのとーりだ! いやぁ、デートで購買は普通にナシだね」


 笑いすぎて涙でも出たのか愛さんはその形の整った怪我の一つ、ささくれの一つない手で目尻を擦る。

 ……そこまで面白くは、ないだろう。ない、よな?


「まぁいいや。わたしもお昼ご飯買っちゃおー。そうだねぇ、この牛丼とかどうでしょう!」


「……いいんじゃない?」


「てきとーだなぁ。これはデートだよ? 今一番に蒼君が考えることはわ・た・し! わたしが最優先事項となるべきだ!」


「じゃあなんて言えばいいのさ……牛丼じゃなくてこっちの唐揚げ定食にしろ?」


「……前言撤回で!」


「速い!」


 前言を発言してからほんの十秒も経っていないで撤回された。スピードが速い、これが現代社会というやつか。

 そう考えながら目の前にあるおかかのおにぎりをカゴに入れた。


「いやぁ、有意義な時間だぁ」


「すっごいお世辞をどうもありがとう」


「そんなそんな、お世辞なんかそんな」


 そもそもこれがデートに当てはまるかどうかはどちらかというと当てはまらないだろうに。こんな、購買でだなんて。

 そのままそこそこ重くなったカゴを、痛んできたので左手から右手に持ち替えていたら、愛さんがおもむろに立ち止まった。


「……そーいえば、蒼君って気になってる女の子でもいるの?」


「…………は?」


 一瞬、何を言われたか理解ができなかった。

 別に日本語が理解できなかったとかじゃない。ただ、言葉の意味が、理解できなかったのが。急に脳に爆弾を埋め込まれて、爆発した気分。全部、真っ白になった。


「…………え、っと。気になってるっていうのは、つまり、その、好意を持ってる相手……ってこと、だよね?」


「まあ、そうだよね、普通に。……あ、勘違させたらごめんね!? わたしは別に蒼君のこと好きでもなんでもないからさ!」


「そうはっきり言われたら言われたで傷つくよ! 彼女いない歴イコール年齢をデートに誘っておいて、思わせぶりか! 小悪魔か!」


「わー、あはは。いや、でも勘違いしてくれてたんだー。てっきり、蒼君ってそういう恋愛方面はほんとーに興味がないって思っちゃってたや」


「……そりゃ、俺だって立派に男子高校生やってるから」


 興味がない、というわけではない。ただひたすらにそういった縁に恵まれなかっただけだ。だから俺はもし誰かに告白されて、その人物を俺も好ましく思えたら普通に付き合うし、その逆の然りだ。俺は三大欲求が別に欠けてはいないし。


 ──ただ、その俺が誰かを好ましく思う、という部分が長年の壁であるのも事実だ。


「わたし自身、青春には色恋沙汰が必須だと思って生きてきたもんだからさー。昔っから少女漫画とか好きだったし、今でも恋愛小説は好きだからねー。で、そのノリ的なあれでデートしてみないかなんて言っちゃったの」


「……そういう裏事情、暴露されると地味に辛いね」


「そう? ──嘘つきだね」


 ──その言葉だけは、全く違う重みがあった。穏やかな目線じゃない、貫く、剣のような目線だ。

 実際に心臓を貫かれた経験を持ってしまった俺からしたら、こうして心を貫かれたような気分になるのはそこまでいいものではない。


「っと、もう一周したか。よーし、レジに向かっちゃおー。会計は別ね」


「買ったものも違うからね……」


 俺はデートは男が奢るべきか論争に関しては一向にデートについて関わりがなかったのでどちらの意見にも組みしていなかったが、確かにこうして花の高校生活を歩むんだったら考えておいたほうがいいのかもしれない。


「……まあ、デートとか、恋愛とか、そーゆうのは冗談だけど、蒼君とは友達として仲良くできたらいいなって、わたしはそう思ってるよ?」


「なんか、振られるときの常套句みたい。……ってことは、これは最初っからデートじゃないってこと?」


「あははっ。そりゃそうかもなー!」


 ──こうして、人生で初めての異性の友人との買い物は幕を下ろした。場所は学校の購買で、買い物っていう表現さえもあっているか怪しいけれど。

 そのまま俺と愛さんは互いの寮の分岐路まで一緒に軽く駄弁りながら歩く。また今度と、そう別れの挨拶を交わして、部屋に戻るまで一人になった。



 ──そうして、始まった。高校生活、初めての夏休みが。




これにて三章、期末編終わりです。期末編だとか言っておいて期末要素は一%ほど。次章の「夏休み編」は四月二日から更新の予定です。毎日投稿は……できま………………す…………ん。

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