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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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六十一話 夏休みの予定

「──終わったああああああ!!」


 思いっきりそのまま手を伸ばして体を跳ねさせる。そこまでジャンプ力は高くないので十センチ飛んだかも怪しいが、そこは触れないでおいた。


 期末試験、最終日。最終科目、終了。


 つまりは、この期末テストが終わったことを意味していた。解放である。学生の本分は勉強であるからテストが終わろうが勉強を続けるべきだろう、という正論は一旦聞かなかったことにさせて。


「お疲れ様。この後どっか遊びにでも行く?」


「いいね! 葛ー、この後暇?」


「んあ? ああ、特に予定はないな」


「じゃあ三人でカラオケにでも行こーよ! この間あそこでクーポン貰ったんだけど期限があと一週間なんだ」


 本格的に試験勉強を始める前……つまりは二、三週間前の出来事だ。学校に近いカラオケに誘われたので愛さんと竜、桜と一緒に行ってそこでクーポンがついてきた。なんでもドリンクバーが一回だけ無料になるんだとか。


「で、だから三人でいかないかな−って。このクーポン、五人まで適応可能だからさ」


「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ。ね、葛」


「ああ。昼飯もそこでサクッと食べちまうか」


 原則として放課後であれば外出届を事務の人に提出すれば外に出ることは可能だ。その外出届だって行く場所、帰る時間などと基本的なことと印鑑があれば簡単に受理されるのでそこまで身構えなくたっていい。


「じゃあ俺は外出届取ってくるから先に玄関にいるね」


「わかったよ、準備終わったらすぐに向かう」


 肝心の外出届は一階の教員室前に置いてあるのでそこでちゃちゃっと俺自身の分は済ませてしまおう。

 そのままカバンに荷物を詰めて教室から出ていく。階段を降りる前にロッカーにしまっていたスマホを取り出すことも忘れない。


 期末最終日で試験が終わったこともあるからか、どこか学校の空気が緩んでいる。もうあとは成るように成るのを待つしか無いからか。


「──咲崎」


 不意にそう自分の名を呼ばれて後ろを振り向く。そこには円羅先生がいた。いつも先生が使っているパソコンをその手に持って。


「えっと、なんでしょう」


「いや、経過報告だ。何か異常はないか?」


「……ああ! はい、特に変わりは。今のところなにかある前兆みたいなのもありません」


「ならよかった。ついでに今日じゃなくてもいいが保健室に寄ってけよ」


「わかりました」


 保健室の先生には色々とお世話になっている。心臓の辺りにできた消えることのない痕を薄くしようと薬を処方してもらったり。


 いや、学校の先生なのに薬の処方って? と疑問に持ったがキチンと資格を取っているらしい。なんでも実は妖怪だけど人間の医者の資格も持ってるし、大体の医療系の資格も所持しているんだとか。かなりすごい人だった。

 普段はあまりそんな実感が沸かないほどに大人しい人なんだけどな。……妖怪か。


「まあ今日はちょっと行けないから……試験休み挟んで、今度の登校日に行こう、そうしよう」


 と、心に決めてひとまずは教員室の前へと向かったのだった。





 もろもろの手続きを終えて学校から出て、そのまま徒歩十五分程度の場所にカラオケはあった。今日は平日であるからか混んでなく、待つことなく部屋に通された。学割が効くからここは結構人気だったりする。

 そのまま指定された部屋に入っていって曲をどんどん入れていく。


 そういえば、この間も向と桜と瀬奈とカラオケ行ったな……竜も雷もいたか。まあ嫌いじゃないらいいんだけども。


「──そういえば、具体的な日付を決めてなかったね。夏休み、どうする?」


「あー、どうしよっか」


 夏休みにそれぞれの実家に突撃する、そう言って計画を立てたのだが具体的な日付まではまだ決めてなかった。試験があって色々と慌ただしかったし。

 それぞれの家の場所が縦に並んでいるので連続で行ったほうが交通費的にも安くなるんじゃないだろうか。


「……ついでに、さ。蒼、京都行かない?」


「え、京都?」


「そう。──京都といえば妖の総本山。行っておいて損はないと思うよ」


 後半のことは囁くように、葛が聞こえないように耳元で言われた。……確かに、それもまたいいかもしれない。

 今までお年玉を使ってこなかったし、父さんはこういう旅行に関してはお金を出してくれる性格だ。


「葛も……それでいい?」


「……急に京都が加わって少し驚いてるが……いいぜ。俺の親戚のホテルも京都にあるからな」


「そうなの!?」


 衝撃の新事実だった。葛の近しい人はそういう旅館だとかホテルとかそういう業種の人が多いのだろうか?


「んじゃ、前半にしちゃおう。料理コンテストまでは東京に戻らなきゃいけないし……そうだね、京都に行くのはいい感じの料理探しも兼ねてね。チケットはどのくらい埋まってるかな〜?」


 夏休みの前半のチケットはもうすでに埋まりきっているのではないだろうか、そう思って俺もスマホで検索をかけたら──意外だった。


「がら空きだぁ」


「自分の足で走ったほうが早いって連中もいるからな。どっちかっていうと空飛ぶやつのせいで上空が混んでるだろ」


「えぇ……」


 なんというか、ファンタジーだ。

 確か空を飛ぶのには免許がいるんだとか。何時間まで飛行可能か、距離は、スピードはと。様々な条件を求められ、認められたら空を飛んで移動するのが許される。きちんと空にも道路のような白光があるらしいし。

 どちらかというと近未来的だ。妖怪的よりも。


「行けるとこまで行ってみたいな。……海外とか?」


「それ、蒼は行けるの?」


「……無理かも」


 改めて考えてみたらこの交換学生だって日本国内での話であって海外では『人間』って存在が駄目だとか、そういうルールがある可能性も否定できない。そこら辺は今度ちゃんと学園長に聞いたほうがいいな。


「……よし、次は蒼だぞ」

「あ、終わった? わかった」


 二本しかないマイク内一本は麗が、もう一つは葛が持っているので歌う番になったらそれぞれ交代している。


「よーし、蒼、いきまーす」



 点数は八十二点だった。そして次の番の麗が立ち上がって最近話題になっているドルソンを歌い始めた。麗は歌が上手い、かなり。


「そういえば、葛の実家って旅館なんでしょ? どんな料理とかある?」


「うちは海鮮系の料理が多いな。近くに漁港もあるし。ただ色々と他にも料理はあるぞ」


 そう言って葛はスマホで旅館を検索して見せてくれた。写真に映る料理はどれもこれも美味しそうだ。

 その旅館を自分のスマホでも検索してみるとそこそこの歴史があるらしく、けどもとても綺麗な場所だ。


「母さんに言って部屋は確保してもらった……って言いたいんだが流石に繁忙期で、悪いが俺の部屋だ。だから旅館の客室のあるとこからちょっと離れたとこだな。でも温泉とかは入っていいぞ」


「温泉あるの!?」


「あるある。色々と効能があるからな、健康になる」


「スゲー!」


 最後に俺が温泉に行ったのは小学校の頃の家族旅行かもしれない。朱が入学して……母さんが福引で景品として旅行券を獲得したんだ。中学校に入ってからはあまりそういった家族全員が揃う機会がなかったので旅行は行っていないが。


 ……誘ってみても、いいのかもしれない。久々に、家族皆で。


「────。それで京都の方のホテルって?」


「ああ。えーと、名前が……」


 葛の親戚が経営しているというそのホテルもかなり評判が良く、料理がとても美味しいんだとか。京都は行ったことがないので普通に楽しみだ。


 こんなに夏休みの予定が埋まるのだなんて、一体いつぶりだろう。

 クラスみんなで行くプール、林間学校でのグループで行く遊園地、こうして三人で行く北海道・東北・東京・京都の旅。

 長期休みが楽しみだなんて、本当に、一体いつぶりに思ったのだろう。……嬉しい。


「京都かー。観光名所ばっかりだよね。神社仏閣とかさ」


「確かにそうだな。……和装でもしてみるか?」


「えっ、できるの?」


「きちんと手配すればな。麗もそれでいいか?」


『わかったぁあああああああなただけー! 私にはー、あなただけー!』


 ラブソングを歌いながらだったのか若干の音割れをしつつも麗は了承の意を伝える。この歌、最後が確か彼氏を刺し殺すみたいな内容だった気がする。物騒だったけど、テンポの良いサビがバズったのだ。


「……コンテストが中旬で、プールが後半。ついでに遊園地がコンテストの一昨日だな。帰省ってどのくらいするか?」


「うーん、この忙しさだと俺はそもそも東京に実家があるから一旦コンテストは学校にいるとしてもパッと限界まで家にいちゃうよ。葛こそ、大丈夫?」


「かなり悩みどころだ。どうせ家にいたって手伝えって言われるだけだからな……東京で最初に俺の家来るだろ? そこまでは寮で……コンテストとこのプールのとこまででいいかなって。プールがあったらその後はもう寮で過ごすわ」


 夏休みであっても寮は空いているらしく、ちゃんとそれも書類を書けば滞在していいらしい。部活動は夏休みでもあるところはあるらしく、一定数は残るからだろう。


 陸上部も夏の練習はあるが……どちらかというと三泊四日の合宿が一番だ。林間学校の施設で行うらしい。

 毎年ある程度の生徒が残るらしいので食堂もきちんと開いていて、なんなら朝早くから開いている。購買だって空いているので困ることはないだろう。


「補習とか追試もあるからねー」


「麗。お、点数かなりいいね」


「とーぜん」


 さらっと九十点台を獲得している。

 そしてさらっと怖いことを言っている。


「ほ、補習だなんて……怖いこと言わないでよ」


「きちんと勉強して今回きちんと結果を出せば引っかからないはずだよー」


「そのきちんとができればこうして成績での優劣も生まれない!」


 麗はどこか人に期待しすぎている節がある。かなりの努力型であるコイツは全人類が同じことをできると本気で信じているのだろうか。……努力だって才能!


「……まあ蒼は今回かなり勉強してたし、大丈夫じゃないか?」


「葛……!」


「まあそこら辺はあと一週間もしないでわかるから、さ。その時の君の心に聞くとしよう」


「洒落ですらない!」


 マジで聞けるじゃん、麗は!




期末編だとか言っておきながらも一瞬で終わった期末テスト。普通に怪異編だとか、夏休み・前日譚とかのほうが良かったかもしれないなと思っています。

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