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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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五十九話 詐欺だと思って消しちゃった

「──嫌いってわけじゃ、ないんだよ。ただ、あまり許嫁ってのが良いとは思えないんだよ。そもそも俺は次男なんだけど……兄貴にいないでなんで俺にって感想も持っちまうな」


 マジであるのか、許嫁制度。

 でも、なんで桜なんだ? 桜は次男で、前に次期当主はお兄さんって言っていた。そういう許嫁とかって長男とか次期当主につくものだと思うのは、それは俺の勝手な思い込みなのだろうか。


「だから俺には恋愛はねぇな。……でも、だからか、聞くのは好きだ」


 そう言って笑った桜の顔は、美形が台無しになってしまうほどに哀愁に満ちていた。


 ──言葉をかけるか、憚られた。なんて言えば良いのかわからないし、言って何になるというのだ。


「……ま、おれにいないのはまず無いから高校卒業あたりで打診はされると思ってるな。縁談なら来たことはあるし」


 あっけらかんと、そう言ったのは向だった。──簡単に言うけども、それでもそう言えるのはきっと向だけだ。同じ立場で、同じ境遇の向だからこそ。


「……悪い」


「悪くはないだろ。謝ることもない。……で、話を戻すんだが、他に恋愛事情はないのか?」


「ほんとーに桜は恋バナが好きなんだな……でもおれもそこまで色々と知ってるわけじゃないからさ」


 なんか、今の桜はまるで子供だ。いつもの大人っぽい雰囲気が抜けて本当に恋バナが聞きたいんだなーってわかる。飢えてるんだろうか、そういう話に。


「実家じゃ一種類しか聞けないもんでな」


「一種類?」


「あー、なるほど」


 桜の話に少し疑問を持つが桜の表情から深追いはしないほうが良いだろう。なんとなく向は察したっぽいが。


「──話は良いが、そろそろ夜ご飯にしないか? もう七時だし、オレも腹が減ってるんだが」


「あ」


 そう零したのは向だ。──今週の夜ご飯当番、向だし。

 そうして向はすぐにキッチンへと向かって「どんがらごっしゃーん!」と調理場からしていいか疑問を持つ音を響かせてどんどん食卓へと料理を運んでいる。


 ──十五分後。

 なんとかといった具合に向が料理を並べきる。そうして、──


「──いただきまーす!」


 向の作るご飯は基本的に洋食だ。聞いたら実家で和食しか出ないから反動だとか。桜は逆に和食しか作んなかったりするが。

 今日のメニューはパスタだった。三種類もある。


「こうして毎日料理作ってると料理スキルが向上するよね」


 毎日よるで交代制と言ってもそれでも中学の頃とは比較ができないほどに作っている。だからか今の俺の本棚にはレシピ本が三冊ぐらいある。高校生になって必要になるスキルに料理が必要になるとは思わなかったが。


 それに洗濯とか掃除とかのスキルも上がった。だからゴールデンウィークに帰ったときに朱と父さんに料理作ったら驚か喜ばれたっけ。


「こういうスキルは将来的に一人暮らししたときとかに役立ちそうだよね。あとは無人島生活とか」


「共感したかったのに急に無人島とか言われてどう反応すれば良いのかおれにはもうわかんないよ」


 あれ、共感されると思ったのに、無人島生活。妖怪だし、あるかなーって。

 ……まあ俺も巻き込まれなし崩しに無人島に行ったが。


「あ、向、麦茶取ってくれねぇか?」


「このカルボナーラ美味いな。よ、料理上手!」


「そんなに言われると照れるな〜。次はもっと濃厚にするぜ!」


「次はオレもパスタ作ってみようかな」


「向、麦茶……」


「ごめん。どうぞ!」


「ありがとうな」


 俺も今度はパスタとかそういう洋食をチャレンジしてみようかな。どっちかっていうと俺のレシピは和食だから。朱が和食派の影響だろうか。

 そう思いながら不器用にパスタをフォークで巻いていく。巻けきれずにスプーンを使ってみたいけど余計に悪化するのでナシだ。


「いやぁ、最初は料理なんて面倒くさいって思ってたけど、それでも日常的にやってれば慣れるね」


 学校側の意図は何だと学園長に聞いたことがある。なんで料理を作らせるのかと。労働基準法的な話になるかもしれないけど、食堂を開けておくというのもアリなはずだ。


 ──自立を促しているんです。

 ──簡単に言えば、ですけどね。

 ──何事もできて損はないでしょう?


 そう言っていた。自立、というか学園長は本当に生徒思いなんだとそう思った。できないことがない方が良いのは事実論だろうし。

 まあ面倒くせぇ事してんじゃねぇよとはちょっとは思ったけども。


「そういえばさ、夏休みの真ん中らへんにのなんか料理コンテストみたいなのするらしいぞ」


「料理コンテスト?」


「そそ」


 そう言って向はスマホをテーブルの真ん中に置いた。メッセージアプリで学校からのメールだった。

『夏のお料理コンテスト☆』

 と件名に書かれている。


 ……あ、これ詐欺だと思って消しちゃったな、俺。


「料理部主催で家庭科の先生とか学園長も審査員で来るらしい。んで、優勝景品は学食半年無料券!」


「おおお!」


 高校生にとって学食の費用が半年も浮くのはかなりありがたい。それに副賞とかもちょっとお高めな文房具やら購買の無料券やらで豪華だ。


「これって一人でエントリーするの? 団体可?」


「ああ。最大で八人まで……ってことで、エントリーしないか?」


「オレはどっちもでいいが……なんの料理だ?」


「テーマは『夏』でそれに則ってればなんでも良し」


 お菓子でもデザートでも料理でもなんでも可。時間制限があり、きっちり六十分間。その間だったらどれだけ品数を作っても良いという規定だ。

 ただ、気になることがあるとするなら──


「──この、食材の現地調達可と選手妨害、賄賂禁止の記述はなんなの?」


「前例が合ったんだろ」


「合って溜まる内容じゃなくない!?」


 何だこの学校、物騒すぎないか。治安はどうなっているんだ。

 それでも今は禁止されているなら良い……いいのか? まあ、いいだろう。


「んじゃ、試験終わったら料理の練習でもする? 既存のレシピだけじゃ優勝はできないと思うし」


 既存のレシピで世界最高峰まで腕前を上げるという手段は流石に無理があるだろう。だったら少しは「学生が作ったなー」と言われる味でも想像力やアイデア的な面で点数を貰えれば良い。

 そういう突発的なアイデアを思いつけるような創作的な才能はオレには全くと言っていいほどにないが。


「でも優勝できたらいいね!」


「……そのためにはまず試験でいい点数取らないとな。補習に引っかからないために」


「なんでそんな事言うの!?」「考えないようにしてたのに……!」「桜ないわー、マジないわー」


「交互に文句を言うな!!」


 俺、向、瀬奈からのブーイングを桜はちょっと暴力的な「てい☆」で収まった。痛い。





「料理コンテスト?」


「そう! あるらしいよ!」


「……知らなかったの?」


「え、そんなコメント!?」


 翌朝。教室にて麗と話していたらそんなことを言われた。くそぅ、まるで俺が時代遅れみたいじゃないか。現役DKなのに。


「それで、どうする? 俺はあの三人と一緒に出るけどさ、麗も一緒に出る?」


「そのメンツでボクだけ入ってたら逆に浮くでしょ……っていうか、ボクはいいよ」


「──なんて言うのは麗の悪い癖だな。俺と一緒に出るぞ」


「ちょ、葛!?」


「なんだよ。気づいてただろ?」


「そうだけども!」


 ぐい、と葛に腕を回された麗は少し、いやかなーり嫌そうな顔をしている。

 ……料理が嫌いなわけではないよな?


「夏休みはボクだって忙しいの!」


「……嘘だよね?」


「……キモ」


「え!?」


 なんとなく嘘を付いているように見えて言っただけでなんでキモいって言われにゃあかんの!?

 そう麗がああ言ってこう言っているが、葛は涼しい顔で腕をほどかない。


「──嫌なのか?」


「い、や…………って、わけ………………じゃない、……けど、さ」


「じゃあ行くぞ」


「賛同はしてない! 嫌って言ってないだけじゃん!」


「世の中、イエスかノーしかないだろ」


「真ん中は!?」


 まあ昨今の世の中は白黒で物事を判別してグレーを嫌う性質にあるが。

 けども、麗は本気で嫌とは言わないのかどこからか取り出したかはわからない白色の小さめな旗を取り出している。マジでどっから取り出したんだよ、それ。


「……って、敵を増やした!?」


「だーから蒼はボクの味方をすべきだったんだよ。──ボクは負けるのって大っ嫌いなんだよね」


「──上等!」


「俺と麗が優勝したら学食でなんか奢ってやるよ」


「えー、学食権頂戴」


「図々しいな、お前」


 ──キーンコーンカーンコーン。


 いつものように始業を始める音が鳴り、そのまま各々席についていく。そうして数分も立たずにまたいつものように気だるげに円羅先生が入室してくる。


 ──今の俺は、どちらかというと円羅先生に好印象だ。出会ったときから何かと「見られてる」「見定められてる」と思っていたが、それが心配からくるものだとはあの『禁書庫』での出来事でわかった。


「今日は……全員いるな。それじゃあ朝礼を始める。起立、礼──」


 こうしてまた、今日も一日始まった。──言い換えるなら、期末テストまであと一日減っていった。

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