五十六話 戦いの火蓋
「こんの、大馬鹿者──ッ!」
バチンと、大きなな音が響いた。同時に、衝撃が頬を走る。
叩かれた。ビンタされた。……なんで?
「痛いんだけど……」
「叩いた手だって痛いんだよ!」
「その理屈、前々から思ってたんだけど、どう考えたって叩いた側が悪いよな。勝手に責任転嫁しないでほしい」
「そーかよ!! でもお前は誰がどう言おうと大馬鹿だ!」
「なんでぇ……?」
愛を伝えたその後、寮の部屋へと戻ったらすでに三人がいた。
瀬奈はキッチンにて料理を作っているが、話しかけたらどこか引かれた。かなり軽蔑された。なんで。
「……蒼」
「ん? なに、桜?」
「……俺は、お前を友人だと思っている」
「俺もだよ」
「そうか。そして、俺はお前を好ましい奴だと思ってる……が、それは恋愛的じゃない。友情的なあれだ」
「……振られた?」
三人に向けた告白のようなものだ。それをこう返答されたら、振られたということなんだろう。人生初告白はどうやら一人はダメだったようだ。
「──もう一度言う! 友情と恋愛を履き違えるな!」
「えぇ……愛って一つじゃないの?」
「種類があるだろ!! ……お前、今まで誰かのこと好きになったことないな?」
……どうだろうか。家族、は好きだがここでいう「好き」ではないだろう。恋愛的に誰かを愛す、というのならば今までで一度もない。本当に、誰かと付き合ったりなんて縁がなかったから。
──いや、縁ならあった。でも、拒絶したのは俺だ。けど、この話は今は関係ないだろう。
「……ないね」
「なら勘違いだ。……というか、種類も何もわかってないからどっちかって言うと勘違いというよりかは普通に間違いだな」
「……間違い」
「それは友情に入れておくべきだ。それを、お前は恋愛だって間違えたんだな」
「……そう、なるのか? でも、これが恋愛の可能性だって」
「──じゃあ、今この場で俺達に愛してるって言えるか?」
──そう言われ、言葉に詰まった。
そんな俺の反応を見て向は一度ため息を付き、さらに畳み掛けるように言葉を重ねた。
「ハグは? キスは? それ以上は? ……それが、結論だ」
「……わかんない」
「できる。そう断言しないなら、俺はそれを恋愛だと認めない。……否定はしない。俺も、お前が好きだ。友達として、好ましいやつだと、そう思ってるさ」
「……そういうものなの?」
「そういうもんだ」
──そう優しく諭されるように言われ、ひとまずこの話題はなかったことになった。
*
『──そりゃあ、だって蒼ってそういう感情の機微とかは赤ちゃんじゃん。なーんも知らないじゃん』
「えぇ……そうかぁ?」
部屋のベランダ。夜風が吹き少し寒いその場所に、寮の共同風呂から上がったばかりの俺は体を冷やすためにいた。洗濯竿があったりするがあんまりつかってない。乾燥機って便利な発明。
携帯からは妹の声が聞こえてくる。……呆れている声だ。
『自分の兄が告った相手が男ってのがショッキングなんだよ。健全な中学生が聞いていい内容じゃない……まあ蒼ってば前々から頭おかしな奴だなとは思ってたけどさ』
「頭お菓子なやつだな? 俺は甘くないよ?」
『そういうくだらない冗談、やめて』
「ごめんなさい」
こうして何となく俺は死ぬときだって妹に頭が上がらないだろうなと、漠然とそう思う。
耳の痛い正論だ。塞ぎたいけど、朱の声を聞き漏らすくらいなら心に傷を負ったほうがマシだ。
『ほんとーに蒼って気持ち悪い……それにしても、高校で上手くやれてるの? 寮生活だなんて、一番向いてないって思うけど』
「なんとかって感じかな」
──朱には俺が妖怪の学校に通っているという事実を打ち明けられていない。本当ならば一も二もなく説明して泣きつきたかったが、あんまり情報を広めるなと事前に言われていた。でも妹に秘密を作るなんて……
『蒼?』
「あ、なんでもない、考え事」
『……そろそろ夜も遅いし、私明日ちょっと朝早いから切るね』
「何かあるの?」
『明日は土曜日だよ。学校は休みだから、友達と遊びに行くんだ』
「男じゃないよね!?」
『キモ……クラスメイトの女の子!』
そうちょっと怒り気味に言われてそのまま通話を切られてしまう。
いや、男か女か、それは大事だろう! もし朱になにかあったら俺はそいつに死なけばならないことがあるんだから。……殺意が漏れ出た。
「そっか、明日は土曜……麗、暇かな」
できれば試験勉強……と、いうよりかは『怪異』やら『術』の特訓をしたい気持ちがある。今回の一件で俺はあまり『術』が身についていないということがしっかりとわかったから、そこら辺の強化? していきたい。
「でも麗も予定あるだろうからなぁ……」
どうしたもんだろうか。そう携帯をプラプラと手でいじりながら考えていると、ベランダの引き戸がスライドされた。ひょこ、っとでてきたのは角。と、顔だ。
桜だった。
「蒼、明日暇か?」
「どうしたの? 特に予定はないけどさ……」
「そうか。──じゃあ、明日ちょっと出かけねぇか?」
……まあ、試験勉強も大事だけど青春を楽しむのも大事だよね!!
*
──きさらぎショッピングモール。
妖境学園があるのは東京の端のほうだが、そこから大体電車で十分程度でいけるショッピングモールだ。そこにはたくさんの店が入っていて、娯楽施設も一通りある。妖境学園生徒が選ぶ遊び場としてはかなり人気らしい。
……ここで、一つ不思議な話をしよう。俺は入学するときに神社を通ったが、そこはマジの山奥だった。本当に。
けど、こうして裏界に来たらびっくり、それなりの都心部なのだ、ここらへんは。馬鹿みたいに広大な学校の敷地だが、それが東京のちょっと都心あたりにある。固定資産税どうなってんだ、とか色々思ったが、俺個人の結論は──まあ、不思議ぱわーでどうこうなったんだろう、という結論だ。
「整合性が取れてない……設定があやふやすぎるだろ……!」
「蒼? どうした?」
「ううん! なんでもない!」
電車から出て駅から一分。そんなすぐ近くにショッピングモールはあった。
「わぁ……!」
施設としては天井がガラス張りのようになっていて太陽の光が少し眩しい。空調はキチンと整備されているのか暑くも寒くもなく、といった具合だ。そこに大量のお店が並んでいるのは圧巻の光景である。
ゲームセンターや服屋、映画館まで。大体なんでもある。
「それで瀬奈、どこ行くんだ?」
「それがあんま考えてこなかったんだよ。オレとしては昨日あんな散々な目にあったからその憂さ晴らし的に来ようって思ったからよ」
「じゃあさ、じゃあさゲーセン行こうぜ! これ、最新のゲームだろ? 俺ずっと行きたかったんだよなー!」
「なんか向、今日テンション高いね……」
提案者が瀬奈、というのはちょっと意外かもしれない。こういうのって、だいたい向が言い出すことが多いし、性格上そうだろうから。
──あの事件、瀬奈だって無傷じゃなかったらしく、右足を捻挫してたり色々なところに擦り傷ができてしまったらしい。先生たちが言うには『怪異』と遭遇だなんて「天災」のようなものでしかないらしく、根本的な解決というのは望めない。
「そういや、おつかいはどうなったんだ?」
「ああ、なんでも他の先生が引き継いでくれたんだって。『怪異』がでた、ってかなりまずかったのか生徒はしばらく近づくのも禁止。なんか政府かなんかにちゃんと資料を作って提出しなきゃいけないらしい」
学園長が半分ぐらいうわ言として言っていた。げっそりした顔でぶつぶつとそう呟かれたから罪悪感が募ったが、まあ天災なら仕方ないだろう。俺、別に悪くないし。
というわけで、俺もさっさと切り替えて今日という日を全力で楽しもう! そうしよう!
「よーし、じゃあ俺は太鼓の音ゲーを……あれ?」
ふと、見知った後ろ姿を見た気がした。
声をかけるか悩む。相手は声をかけられて嬉しいのか……ええい、ままよ!
「──雷、竜!」
見知った後ろ姿──黒髪ロングの長身に白髪に角の生えた長身。俺よりも十センチは高い後ろ姿の二人はくるりとこちらを向く。
「お、蒼じゃん! お前らも遊びに来てたの〜?」
「……なんでそんなにボロボロなの?」
──どうやら二人は映画を見に来てたらしく、二十分前くらいまではシアターにいたらしい。今話題の作品らしく、幽霊系の作品らしい。
……少し幽霊と聞いて体を硬くしてしまった。いかんいかん。
「お! 雷に竜じゃん! 二人も一緒にゲームやろうぜ! このゲーム、八人までだからさ!」
そう言って向が指さしたのは国民的に人気なカーゲームだった。ゲーム機でもできるけど、こうしてゲームセンターに足を運んだら実際にハンドルやらアクセルやらがついているので百円をついつい払ってしまう。
利用客が学生が多いのか、こうして大人数で一気にローカルプレイができて嬉しい。
「……俺、こういうゲーム逆走するんだよな」
「大丈夫だよ桜。何かあったら釣ってくれるから!」
「ツル……?」
そういうシステムなので。
とりあえず自分のアイコンを選択しようと一覧を見てみる。色々いるが……なんかネタ枠も混じってるな。とりあえず、適当にこのキャベツでいいだろう。
「いや、なんで野菜……?」
「この間あったじゃん、ほら、『収穫せよ! ベジターカー!』 ってやつ」
「そんなのでたの……!?」
向の補足説明に軽く衝撃を受けつつもそのキャラで確定させる。……後で調べてみるか、ベジターカー。
「よーし、じゃあ難易度マックスのコースでいいよな!」
「う、……不安になってきた。僕もこういうゲームはあんまりやってこなかったから……」
「大丈夫だって竜! なんとかなるもんだ!」
「心配になってきた……!」
ふむ。初心者が二人もいるならいい。このまま俺が一位になっていつも父さんに負けている屈辱を勝手に晴らさせてもらおう……!
「よーし、レディ──ゴー!」
向のそんな掛け声と同時に、戦いの火蓋は切られたのだった。
*
「わー、一位だ!」
「苦手とか言ってたじゃんか……なんで一位!? オレ五位なんだけど!」
「雷、最後の最後でアイテム全部喰らってたもんね……」
結果として竜がまさかのラッキーアイテムを全部引き、コースが外れたと思ったらショートカットと豪運を発動させてぶっちぎり一位。ちなみに俺は二位だった。
「にしても……まーじで逆走したな、桜」
「これ以上俺の傷を抉るなよ、向」
「まぁそう言う向だって最後の最後でオレのアイテム喰らったけどな」
「うぐ!」
一位:竜
二位:蒼
三位:瀬奈
四位:向
五位:雷
六位:桜
こうして並べると漢字一文字ばっか……口調がちょっとわかりにくいかもしれません!個性をつけたい!




