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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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四十八話 一蓮托生はちょっと嫌

 ──炎が、目の前を掠めた。ぼおっと大きな音を立てて、炎は燃えている。


「っ、あ!?」


「おい蒼、大丈夫か!? 俺の炎だってそこまで火力が高いわけじゃない! 式神で囮をだす、だから少し離れるぞ!」


「……ぁ、わか、った」


 バクバクバクと心臓が嫌ってほどに高く鳴る。鳴り響いて、うまく周囲の音が拾えないほどだ。


 ──死んでいた。


 あと少しでも炎が、向の判断が遅ければ、あの『怪異』は俺を飲み込んでいた。死が目前だったと、そう体が、本能が、告げている。


「っ、ふ」


 ──俺という人間は、自分でも言うのは何だが、生存に長けていると、そう思う。


 それは今までの経験と、自分の持つ才能の用なものからそう察した。……だからこそだろう。きっと、この中の誰よりもあの一瞬で俺は『死』を強く感じていた。動けなかった。死ぬと、そうわかっていたから。


「……抗えば死ぬわけでもなかった、か。常識が抜けてないな」


 本能的に俺の体はアレを避けようとしていたが、それでも理性的な部分で『怪異』の存在と『妖怪』の存在がきちんとわかっていないのだろう。この短時間で俺が『術』を発動できていないのだって、生死をわけるこの今際の際で咄嗟にでてこなかったのだ。


 人間として、この十五年間を生きてきた。今年で俺も十六だ。その決して短いとは言えない年月を、妖怪にも『術』にも触れないで生きてきていた。だから頭から抜けているのだ。

 ……適応なんて、まだ全然できていない。


「……大丈夫。ん、大丈夫だ」


「ならよかった。桜、頼んだ!」


「わかった」


 桜が先ほどと同じように式神を召喚? 招集? してさっきとは違い三体の小さな紙が現れた。式神はそれぞれアレに近づいて、ギリギリのところで方向転換、そしてそのまま別々の方向へと逃げていった。見事に翻弄している。活躍だけでいえば式神がMVPだ。


 そのできた隙に『怪異』の目を掻い潜って神社の境内へと行こうとするが、『怪異』も入られれば追えないとわかっているようでスピード上げて追いかけてくる。

 正面の『怪異』は再び分裂して式神を追いかけているが、それでも俺達の方に綺麗さっぱり消えたわけではない。


「液体を掴めるかはわからないけど──っ!」


 懐から先日学園長にもらったばかりの札を取り出して『拘束術』を発動させる。鎖が札から現れて『怪異』の姿を捕らえるが、縛ると同時に形を変えて逃れようとする。


「蒼、『封印術』は使えないか!? 応用だったよな」


「俺の『術』はそこまでできない! ごめん!」


 特訓やら林間学校やら模擬戦やらで『拘束術』と『結界術』に関してはそこそこ安定して使えるように鳴ってきた。けどもそこからその二つを合わせた応用である『封印術』に関しては全然できていない。触りを少し学園長に聞いて見せてもらっただけだ。


 ──封ずる、ということは抑え込むということですからね。拘束した相手を結界の空間に封じる。そのイメージを固めることができたら実践に移りましょうか。


 そう学園長は言っていた。だから俺はまだ試したこともないし、そもそも『拘束術』が『怪異』相手に使えるのかもわからない。今のところアレに『術』でのダメージは通っていないようにも見える。


「なんか弱点属性とかないの……!? こういう悪属性は聖属性に弱いみたいなさ!」


「例えその通りであったとしても聖属性がここにねぇだろ。『怪異』って存在に弱点がある、なんて聞いたことがねぇな」


 『怪異』という存在は『魂』の集合体である。そして肉体を求めている。これぐらいしか俺が『怪異』について知っていることだ。……これだけじゃ、わからない。


「っ、ふ」


 ギリギリで『怪異』の腕のような液体を回避しながら、ごろりと地面を転がる。ほんのあと少しで境内に入れるというのに、そのあと少しまで届かない。


「さっきの飛ぶ『術』で一気にぶっ飛べる!?」


「制御が難しい! 最悪地面に衝突してお陀仏だ!」


「……いや、もしかしたら俺が制御取れるかも!」


「え?」


 ようはこの間の林間学校でもやった『拘束術』の応用だ。というか、応用であるのかも怪しい。


 ──鎖を出して、場所と場所を結ぶ。


「そうやれば飛んで神社に向かうまではできる。……着地できるかどうかは運任せだけど」


 鎖の制御はそこそこできるとはいえ、それでも安全安心と言い切ることはできない。怪我はするだろうし、無事じゃ済まない可能性だってある。


「……乗ってくれる?」


 一瞬だけ、沈黙が満ちた。『怪異』から距離を取って話していた場所で、全員の顔が少し暗くなる。……賭けにのるか考えているのだろうか。三人がなんて答えるのかわからなくて、怖い。信じてくれるのか。賭けに乗ってくれるのか。


 考えている時間は無制限ではない。すぐに決めなきゃ『怪異』はすぐに追ってくる。それをわかっているのか、桜は一度息を吐き、俺の方を見て言った。


「──。わかった。じゃあ、俺は蒼を信じるよ」


「まあさっきの一か八かの賭けにも乗ったからな〜。いいぜ空の旅、行こ行こ」


「ノリが軽くないか、向……オレも死にたくないが、飲まれるのは御免だ」


「あ、……ありがとう!」


「それは無事に逃げ込めたらってことで、さっさと行こうか。桜、タイミング合わせられる?」


 まずは空まで飛ぶこと。そしてその後に着地すること。最重要がそれをアレに追いつかれてはいけないこと。


「っと、まずは俺達をくっつけたほうが良いよね」


 札を取り出して今度は細い糸のようなもので全員の手首に巻き付ける。一蓮托生はちょっと嫌だが、それでも空で別れて一人だけ墜落死よりはマシなはずだ。


「運命の……って別に赤くないか」


「…………そういう言い方されると鎖にしようかな」


「いやっ、糸のほうが良いかも! 鎖はちょっと痛そう!」


「冗談だよ」


 『怪異』はもうすぐそばにいる。この場にはもういないほうが良いだろう。じゃないと呑まれる。だったら死んだほうがマシ、とまでは言いたくないが……実際、死んだほうがマシのようなシルエットを取っているのでなんとも言えない。


 桜と向はお互いに地面の方に手をかざしながら『術』の準備を整えている。


「それじゃあ、行くぞ。──三、二、」


「っ、もうこんなところまで!」


「瀬奈! いけるか!?」


「わか、って、る──ッ!」


 向が『術』を発動させようといったその瞬間に、木々をなぎ倒し、吸収しながら『怪異』が迫りくる。桜がすぐに瀬奈に頼むと、そのまま瀬奈は──


「──ぁ」


「──一、零ッ!」


 同時に、俺達の体は空高くへ打ち上げられた。


 なんとか空中で体のバランスを整えながら、神社の全貌を見渡す。前にふっ飛ばされた経験がここで生きるとは。

 前の経験を活かして上手い具合に風圧を逃がしながら、懐へと手を突っ込む。札を取り出し、どうしたもんか。


「……あの木」


 神社の境内にもいくつかの木々植えられており、そこそこの太さがある。男子高校生四人分の重量なら支えられるのではなかろうか。

 すぐにその方向に腕を伸ばして『術』を発動する準備をする。


「ふ、っ!」


 当たれ。届け。繋げ。

 イメージを固めることが大事だと、そう教えてもらった。だから、


「──ここで決める!」


 札が飛んでいって、それは鎖へと姿を変えて。ぐるぐるぐると、木を目がかけて飛んでいって──ぐるりと木に巻き付いた。


「ぐ、ぅ、あああ!」


 腕が痛い。手を放したい。痛い痛い痛い痛い……けど、ここが踏ん張りどころだろ!!


「っ!」


 勢いを殺しつつ地面に向かうけど、それでも危ない。だから手を放して、すぐにもう一つ鎖を別の木につける。それを繰り返し、繰り返し、繰り返し──


「──逆噴射的にっ、らあ!!」


 向が跳ねたのと同じ『術』を再び地面に打ち付ける。それは威力がかなり落ちていて──つまるところ、威力を殺してくれたのだ。





「…………………………生きてる?」


「っ、ああ」


 ぐい、と桜は角を避けながら髪をかき上げる。イケメンって、こういう仕草も絵になるからずるいよなぁ。

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