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人妖!  作者: 家中由真
期末編
53/72

四十五話 当然の疑問

 朝はちょっと豪華にパンケーキを焼いてみた。昔、朱が食べたと言って作ったことがあり、なんとなく作り方を覚えていた。いるかいらないかで微妙なラインにあるメープルシロップも買っておいてよかった。ちなみに三人には好評でした。


 そして来る放課後。荷物があっても、ということで教室に荷物は置いてそのまま三人で裏山へと向かう。その裏山にも歩いて二、三十分はかかりそうで本当にこの学校の敷地が広大であることを実感させられる。本当に広い。


「えーと、裏山の……そう、あの山!」


「そこまで高くねぇな。……もしかして、あの小屋みたいなのが?」


「そう! 目的地の倉庫!」


 桜の言った通り、山といっても標高は全然なく、一時間もしないで頂上に登れるような山だ。

 山道にかかっている鎖を預かっている数本の鍵の一つで開ける。南京錠で、ほんの少しだけ経年劣化していた。


「おお、ちょっと雰囲気あるな……!」


「なんつーか、あれだな、前に見たホラー映画の導入みたいだ」


「瀬奈はホラー系見るのか?」


「姉貴が見てるのに付き合わされた」


「ああ……」


 姉という単語を聞いた向から同情的な声が漏れる。そういえば向は女兄弟の中で一人の男だった。色々と昔から苦労してたのだろう。俺だって妹の一人しか兄妹はいないが、それでも苦労はしてきた。


「懐中電灯とかなくて大丈夫かな」


 今はまだそれなりに明るいが、それでも五時ぐらいになればかなり暗いだろう。あいにくとそういった明かりの類は持ってきていない。


「最悪スマホのライトでってとこだな。それにそこまで離れてないんだろ? パーッといって終わらせようぜ」


 そう言いながら向は自身のスマホを見せてくれる。

 まあ、早く終わらせることに越したことはないだろう。さっさと倉庫へ向かって終わりにした方が良い。


「──っていうか、なんで学園長先生は蒼に頼んだんだ?」


「え?」


「いやだって、俺達ってまだ一年だし、学園長先生なんて入学式の時にしか会ってないだろ? それに、蒼って『術』の実技の時に学園長先生に教わりに行ってるって……なんかあるのか?」


 ──当然の疑問だ。むしろ、なぜそういった見方をされると俺は考えてこなかった? 俺はどこまでいっても一介の生徒で、そんな何もない奴が学園長との繋がりがあるという事実のほうがおかしいのだ。


 ……なんて言おう。珍しく、頭が真っ白になった。頭が真っ白になったと言うべきか、それとも意表を突かれたと言うべきか。兎にも角にも、次の言葉が全くもって思い浮かばなかったのだ。

 俺の間違いは「言い訳を用意していなかったこと」だ。こんなの、ちょっと考えれば誰だって疑問に持つのにそれを掻い潜る為の()を俺は用意していなかった。怠慢であるし、頭が回ってない証拠だ。


「ぁ、」


 すぐに言わなければ。言って、納得させなければ。ならなんて言えば良い? 俺と学園長の間にあって違和感のない関係性。親戚……は、だめだ。気づかれるだろうし、ここで誤魔化せても長期的に見ればこれは成り立たなくなる可能性が高い。じゃあ他に何だ? こんなの、依怙贔屓だとかに思われかねない。納得させる為の根拠のある理由。他にどんな関係性がいい? 前にあったことがある? あの学園長の性格からしてその程度じゃ特別扱いなんてしないだろう。なら他に、なんて言えばいい──?


「お、れは……」


「──あんまり、そういう事情に踏み込むなよ、向」


「……瀬奈」


「どんな事情だとか理由だとかあるかはオレにだってわからんが、言いたくないことの一つや二つ、誰にだってある。今回はただ学園長にお使いを頼まれた、それだけでいいだろ。詮索は、良くないぞ」


「……いや、そうだな。悪い、変に聞いたりして。無神経だった」


「ぁ、全然! いやむしろなんで学園長も俺に頼むんだよー、って感じだからさ!」


 少し声が裏返ってしまったかもしれない、なんて変なことを自覚してしまう。


 ──意外だった。

 まさか、とまでは言わないが瀬奈が俺のことを庇うだなんて少し意外だ。そうは思わなかったし、考えなかったから。だって、瀬奈は、──


「……ありがとう、瀬奈」


「……」


 その感謝に対する返答はなかったけども、ほんの少しだけその表情が変わった気がする。少しでも感謝の気持ちが伝わったなら、それでいいだろう。


 そうしていると後ろから桜が気まずそうに俺を見ていた。


「悪いな、俺がこういう時は出たほうが良いはずだったのに……」


「いやいや、なんで桜が謝るの! こんなの俺が悪いって! ありがとね、桜」


「ん、……ごめん」


 面倒見の良さもここまでくるよ過保護に思える。いや、とてもありがたいが。

 けれど、少しだけ微妙な空気になってしまった。元はと言えば俺が誘っているからこういう場は俺が盛り上げなければいけないだろう。


「何か話の種……」


 生憎と俺は俺のコミュニケーション能力が高い方であるとは思っていない。むしろ人の触れてほしくない場所に容赦なく触れるので嫌われるタイプだ。だからこういう場を盛り上げる方法なんて知らなかった。


「えーと、んー、……」


「──あ、そうだ! 今週の週末さ、ちょっと家具屋に行かないか?」


 そう笑顔で明るく切り出したのは向だ。安心と安定と信頼と信用の向である。どこか向も空気を悪くさせてしまったのかと気まずそうに話題を切り出したが、それでもありがたい。


「家具屋? ……別に何も壊れてねぇと思うが」


「まあこっから四年は同じ部屋だろ? だったら行くだけでも行ってみようぜ! それに学校の近くのこの家具屋、電気屋も入ってるらしくて、見といたほうが良いって思うんだよなー」


「そういう……だったら俺は行ける。今週の日曜は特に予定も入れてねぇしな」


「俺も大丈夫!」


「日曜か……多分何も予定は入れてないな。行ける」


「よかったー! ふっふっふ、こうして四人で出かけるってのも始めてじゃないか?」


 キラキラと目を輝かせる向に、確かにそうかも、と思った。別に仲が悪いというわけではないが、いざ出かけるってなっても二人だったり、四人一緒にというのはなかった気もする。


 趣味的な観点でも結構バラバラだ。桜は読書家で、向はゲーム好き、瀬奈はお菓子作りをしてたりする。というか、全員インドア的な趣味だな、そりゃ外にみんなで出かけたことがないわけだ。


「──じゃあさ、買い物終わった後でもゲームセンターとかカラオケに行かない? 近くにあったと思うんだけど」


「あるある! 前に駿達があるって言ってたわ! 桜と瀬奈はそれで大丈夫か?」


「俺はいいけど……」


「……オレも大丈夫だ」


「いやー、中間テストが終わって一先ずは、って感じだ。期末もあるけどもう少しはのんびりしてていいだろ〜」


 今は五月の下旬。期末テストがあるのは七月の上旬だ。範囲が膨大なわけでもないし、二週間ぐらい前から勉強を始めれば平均点ぐらいなら取れるんじゃないだろうか。……当然、教科にもよるが。


「──っと、どうやらもう登りきったらしいな」


 先頭を歩いていた桜がふいに足を止める。そして桜が指を指した先には──所々に月日を感じる、はっきり言えばボロい小屋があった。





「んー。ん、よし、開いた」


 学園長から預かった鍵で小屋にかかっている鍵を外して扉を開く。そうすると中に積もっていた埃が持ったのか、若干視界が悪い。

 小屋は教室が二つ分といった大きさで、そこそこ整理がされているからか想定よりも綺麗だった。ただその想定よりも置いてある荷物が多かった。資料だけじゃなくて昔使ってたであろう机や椅子もあった。


「こういうの見るとちょっとワクワクするよね。なんか、昭和っぽい」


「言いたいことはわかる」


 なんとなくのニュアンスで情報を共有しながら目的の資料がないかを探す。


 まるで体育倉庫みたいだとも思った。壁には棚が置かれていてそこに段ボールやら箱やらが置かれている。四十年前って段ボールあったのかな。……こういうの言ったら麗に「蒼って凄いね。自分の無知を晒すことに抵抗がないんだ」なんて言われるだろうが。アイツは決して性格は良くない。優しくはあるが。


 段ボールにはキチンと何に使われたかが書いてあって、「第二十三回文化祭衣装:演劇部」やら「園芸部、ショベル」と書いてあったりする。けれどこの倉庫を見る限りここに立ち入った人はかなり少ないんじゃないだろうか。


「資料ってそもそもどのくらいの大きさなんだ? 色とか形とかわかる?」


「えーと、学園長先生からはノートが詰まってる段ボールって聞いてる。その段ボールには『記録簿』って書いてるって」


「なんつーか、最低限って感じだな」


「探させる気ねぇだろ……」


 まあ本当に情報が少ない気もする。そもそも段ボールと言ってもそれだけじゃないだろう。


「あ、向、そっちはもうオレが見た」


「りょーかい」


 ……本当に頼ってよかった。これでもし俺一人だったら普通に放課後だけじゃ探しきれなかった。というか二日がかりになりそうだ。


 最初に割り振り、今は自分が担当している方向の棚を見ながらそう思う。一つ一つの棚もそこそこの高さがあって背伸びしても一番上にはギリギリ手が届くというだけで何が書いてあるかまではわからない、だから取り出して見て戻すという作業工程を挟むことを余儀なくされる。これがまた積み重なると非常に面倒くさい。


「段ボールも蛍光塗料とか塗っとけばわかりやすいんじゃないの……?」


「光る段ボールもそれはそれで嫌だろ」


「そりゃそーだけどさ!」


 桜もまた段ボールを一つずつ見ていっている。

 学園長は何を思って俺一人に頼んだのだろうか。普通に事務員さん達が暇な時に手伝ってもアレばよかったのでは? とも思う。


「泣き言ばっかでもアレか……よっと」


 そう言いながら段ボールを棚から取り出して書いてある文字を確認する。昔使っていた茶道部の小道具だったらしい。捨てろよ。


 残念な気持ちになりながらその段ボールを戻して、その次の棚を見ようとすると──


「──あったぞ!」


 ──そういう向の声が倉庫に響いた。

誰が喋ってるの?ってなるぐらい喋り方が似ているので説明を。


蒼→若干「〜〜だね」や「〜〜の」と丸めの話し方

桜→「〜〜じゃねぇか」みたいに小さな「ぇ」を多用している

向→活発っぽい喋り方。「!」がつきがち。若者っぽい

瀬奈→一人称がこの四人の中で一人だけ「オレ」

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