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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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四十四話 おつかいの内容

「裏山、ですか?」


「ええ。この学校の敷地にある山でして、そこにある昔使っていた学習室があるのですが、昔の学校の資料が置いてありまして。それを取りに行ってほしいのです」


 そう言ったのは学園長だ。いつもと寸分たがわない格好で、俺だけ受けている特別座学の授業中にそう言った。


 この学園の敷地は本当に広大で、それこそ山や丘があるのは俺でも知っていた。けれど実際にそこまで行くのは結構な距離だ。できれば丁重にお断りたい。

 ……まあ、それが許されないことは流石にわかるが。


「俺じゃなきゃ駄目ですか?」


「できればお願いします。私は少し忙しくて、事務員も今は全員が出払っていまして。タイミングが悪かったですね。なので蒼君にお願いしたいのですが」


「……わかりましたよ」


 拒否権がないってことは学園長が一番わかっているだろうに。性格が悪めだな、この人。


「ありがとうございます。正確な場所と資料に関しては円羅先生を通して伝えるので、できれば今週中にお願いします」


「はーい。あ、単位くれたっていいですよ?」


「あはは。まあ学園長室の茶菓子が豪華になったりするかもですね」


「わー、うれしー」


 そんな軽口を交わしながら机の中央においてある茶菓子のせんべいを頬張る。普通に美味しい。


 にしたって、別に俺じゃなくとも教員の誰かではだめなのだろうか。別にテスト一週間前とかじゃないからそんなに忙しくないと思うが。まあ先生の職務内容なんて俺は知らないし、色々とあるのかもしれない。


「……ちなみに俺は醤油せんべいが好きです。ゴマはちょっと苦手」


「おやおや」


 仕方なく、貰っておくとしよう。そう思いながら再びせんべいを手に取ったのだった。





 授業も終わり、そのままどこか心ここにあらずで放課後へとなった。今日は部活があるので更衣室に行かなくてはいけない。


「雷ー、今日って第一グラウンドだよね?」


「ああ。蒼、俺ちょっと遅れるかもだわ」


「なにかあった? 大丈夫?」


「掃除当番」


「なーるほど。まあ伝えておくね」


 同じ陸上部である雷と会話を交わし、体操着と水分を持ってそのまま教室から出ようとすると桜とすれ違った。


「桜も今日は部活?」


「いや、今日は休みだ。部活、頑張れよ」


「頑張ってきます!」


 第一グラウンドは校舎のすぐ近くで余裕で間に合うだろうが、俺は一年なので部活が始まる前に準備しなければならない。体育会系において学年はめちゃくちゃ重要な要素だ。

 ──階段を二段飛ばしで走っていると、ふと先生とすれ違った。


「こんにちは」


「ああ。……咲崎」


「は、はい?」


 なにかしてしまっただろうか、という疑問がまず一番に過った。品行良性とはいかないまでも俺の普段の行動は不良でもなんでもないはずだが、先生にこうして呼び止められる理由が思い浮かばない。一体なんだ?


「学園長から預かり物がある。部活が終わったら、教員室に取りに来い」


「……あ! わかりました」


 言っていた裏山の件だろうとすぐに合点が行く。学園長、意外と仕事が早いな。

 部活が終わるのは六時で六時半には完全下校となって生徒は校舎に原則として立ち入り禁止だ。少し早めに着替えて、そのまま職員室に向かおう。


 そう思って、部活動へと向かった。





 他のクラスの同じ陸上部のメンバーと話しながら更衣室で着替えを終えて、そのまま寮に直帰ではなく教員室へと向かった。


「ちょっと遅いかも」


 あと二十分程度で下校だ。そんなに話すことがあるとは思わないが、それでもギリギリに帰ったらご飯を作ってくれている桜に悪い。


「一年五組咲崎です。円羅先生はいらっしゃりますか?」


「──あら? 五組の生徒?」


「わっ」


 後ろから急に声をかけられ、ドキッとした。なんというか、気配が読めなかった。

 そこには俺よりも頭一つは高いであろうとてもスタイルのいい先生──八百比先生がそこにいた。本当に、身長が高い。


「ああ、咲崎君ねぇ。凪先生を読んでるの?」


「──そうだ。だから八百比先生はどうぞ席へお戻りに」


「……これは私が邪魔者ね。ふふっ、それじゃあね、咲崎君」


「は、はぁ……」


 八百比先生には数学を俺も教わっているが、なんというかか底が見えなくて、少し苦手だ。今の会話だって、どこかへらへらとしていたし。おもちゃを見つけた子供みたいな顔だった。

 円羅先生はそれにため息をついていて、ガサリと音を立てた封筒を手に持っている。


「コレだ。心当たりは、あるな?」


「あ、はい。学園長からちょっと裏山の使わなくなった倉庫? にものを取りに行くように言われていて」


「裏山? ……そうか」


 円羅先生は一瞬だけどこか悩むような仕草をして、そのまま俺に封筒を渡す。普通のサイズで重みと音から鍵らしきものが入っていると予測できる。


「ん、……あとは、地図か」


 中を除いてみると紙が折りたたまれており、よく見るとこの学校の地図だった。おつかいの内容も書いてあり、これだけで十分だろう。


「あ」


「? どうかしたか?」


「いえ、なんでも」


 紙をズラすとそこには札が数枚入っていて、そこに付箋が貼ってあった。


『護身用に』


 そう一文だけ綺麗に書かれている。


 ……学校の敷地の中だというのに札を使うような場面があるということだろうか。少し怖くなってきたぞ。


「それじゃあ、ありがとうございました。さようなら」


「ああ、ちゃんと時間内に帰れよ」


「はーい」


 先生に礼をして封筒をカバンに入れながら歩いていく。明日の放課後あたりに行ってしまいたいが……一人で行くのも少し怖いな。予定が合えば誰か誘いたい。


 誰か、と思いスマホをポッケから取り出してメッセージアプリを起動する。一番上に名前のアイコンがあったのでそれをタップしてトーク画面に文字を打ち込んでいく。


『明日の放課後空いてる? 時間があればちょっと付き合ってほしいんだけど』


『ごめん、好きな人はいないけどちょっと蒼は嫌かな』


「ちゃうわ!」


 一分以内に返信が来てその一言だったので思わず声を出してツッコんでしまう。少し運動部の集団から離れているからか誰にも見られなかったがあまり外で大声を出すのは感心されないだろう。


『冗談冗談。でも明日は委員会があるから無理。なんかあった?』


『おつかいを頼まれてさ。無理言ってごめんね』


 連絡相手は麗だ。たしか麗は広報委員会に所属していたはず。俺の所属している図書委員会はまだそこまで仕事はないが他の委員会はそうではないのだろう。


「んー、あとは葛か……いや、確か明日部活があるって言ってたな。じゃあ、」


 誰にするか、そう悩んでふと思い出した。

 ──なんであの三人を除外してたんだろう。


「……林間学校で敵対してそっから、かな。あんなの『授業』内だけだってのに」


 三人。──桜、向、瀬奈。


 無意識であったのか、それともどこか苦手意識でも抱いていたのか、一番身近である三人を俺はなぜか除外してしまっていた。


「帰ったら、聞こう」


 ──思えば、あの三人は友達なのだろうか。


 いや、同じ部屋で過ごしている時間で言えばこの学校の誰よりも長くはある。……けれど、それは友人だとか、親友だとかのジャンルなのだろうか。


「……いや、友達だろ。流石にそれは」


 そう、思いたい。そこまで捻くれていないと、そう思いたい。


「はぁ、……まあ、普通に聞くかぁ」


 ──軽いのか、重いのか、俺自身にさえもわからない足取りで俺は寮へと帰っていった。





「裏山?」


 そう言ったのは向だ。


 ──寮に帰って夕食。桜が作ったマグロの刺身を中心としたご飯を食べながら、俺は三人にそう相談した。


「うん。学園長先生のおつかいで、裏山にある倉庫に資料を取りに行ってほしいんだって。それでちょっと誰かに付いてきてほしくて」


 一人で行くのが嫌なのと、資料が数冊あるのだがどれくらいの重さであるかわからない保険が主な理由だ。というかこれ以外に理由はない。


「手伝ってくれたら嬉しいなー、なんて」


「わかった、明日の放課後だな」


「え、いいの?」


「? 蒼が言ったんだろ、手伝ってほしいって」


「そ、うだけど」


 ……なんというか、入学して一ヶ月ちょっと経ったが桜にはお世話になりっぱなしな気がする。というか、もしかしなくとも桜は俺に甘い気もする。いや、手伝ってもらう立場だ。その甘さに存分に甘えよう。


「俺も明日は暇だなー。な、瀬奈も行こーぜ!」


「……っん。わかった」


 向が隣に座っている瀬奈に話しかけると食べていたかぼちゃの煮つけを瀬奈は飲み込んで賛同してくれた。


「ありがとう!」


 協力者の確保成功。これはもう、三人には感謝の気持ちを伝えるために豪華な朝食を用意しなければならないな……!


「にしたって裏山かー。今じゃもう使ってないんだろ?」


「らしいよ。四十年くらい前は使ってたけど今じゃ廃墟同然だろうね」


 資料には写真がプリントされているが木造の倉庫らしくて、少し苔が生えている。これが十年前の写真らしいので今はもっと老化してるだろう。


 ……学園長はこの倉庫を使ってたときからいる風に語っていたが、あの人、見た目は二十代後半かいっても三十代に見えるんだが、実年齢はいくつなんだろうか。


「ま、そこはどうでもいっか。ちょっと山道っぽいらしくて、最低限の舗装はされるけど山を登る階段はあんまり信用しない方がいいらしい」


「建て替えようぜ……」


「本当に使わないから手が回ってないんじゃないかな。四十年も放置されてる場所だしね」


 そこに置いていた資料と聞くが、いったい何に使うのだろうか。なんでも今までの記録簿的な資料らしいが。というかそういう資料は図書館に置いておけば良かったのではとも思ってしまう。あんなに広いんだし。


「並々ならない事情があるようにも思えないんだよなぁ。まあ、おつかいをすればいいんだけど」


 そういった理由だとか裏だとかは別に俺が考えることでもないように思う。俺がしなきゃいけないことは「明日裏山へと言ってそこの倉庫にある指定された資料を持って帰る」ことだ。これ以上でもこれ以下でもないから別に色々と勘ぐらなくたっていいだろう。


「と、いうわけで迷惑をかけるかもですが、どうか明日は何卒よろしくお願いいたします!」


「んなにかしこまらなくたっていいだろ〜」


 そうして俺は再び食事を再開させようとマグロの刺身を口の中へと入れたのだった。

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