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人妖!  作者: 家中由真
期末編
50/72

四十二話 毎朝の


 ──人と妖を分ける要素とはなんだろうか。


 これについて私は明確な答えを出せていない。妖怪と人の違いをあえて求めるほうが野暮であるのかもしれないし、生命に対する侮辱の可能性もあるだろう。


 けれど、それでやめられぬ変わり者が私だ。


 私のもった疑問は簡単なものである。──人間とは、妖怪の一種ではないのだろうか。そういった疑問である。

 これを口にした時、私は殺されかけた。それは当然である。今でも妖怪と人とを分かつ溝は深く、悍ましく、近寄りがたい。だからこそ私の持ってしまったとも言える疑問は口にすることも、考えることさえも罪である。


「今から千年前、人間と妖怪は対立し──史上最悪の争いと言われる『人妖大戦』を巻き起こした。そして、それは一人の陰陽師の登場により幕を降ろし、妖怪は『裏界』という世界の”裏側”へと姿を消した。」


 これは今受け継がれている歴史だ。

 かつて妖怪と人間は血で血を洗う争いを引き起こした。そしてそれはとある一人の人間によって終息された……これはあまりにも有名な話である。


 けれども私は知っている。この裏界を生み出されたその手段を。けれどもそれについて述べる気はない。それこそ気が向いたら再び筆を取ろう。


 話を戻さねばならない。


 人間という生命は、いわば妖怪の一種ではないかという話である。そう、あるとするならば人間という生命だって妖怪の様々な種族から分岐しているだけに過ぎないのかも、と。

 この話を結論づけるためには妖怪と人間がどちらかが先に生まれたかを証明する必要があるだろう。けれどもこれは難しい。そもそも妖怪の概念が定義づけられておらず、現状では『術』を支える存在が妖怪とされるがそれでは不十分であろう。


 だからこそ、人間という存在は『術』を使うことがなくなった妖怪ではないかとも、そう思う。その証拠になりえるかはあやふやであるが人間も『術』が使えることはかつての人妖戦争にて証明されている。そも、陰陽師という職業は『術』を専門とする人間であったのだ。


 そして、私にはどうしても確かめなければならないことがあったのだ。──人間の『固有術』とは、一体、何であるのか。


 一人の陰陽師に私は訪ねた。人間という『種族』だけの、『術』を求めて。その陰陽師はとても嫌そうな顔をしながら、言ったのだ。


「そんなものがあるとすれば、そりゃあ、






「……」


 言葉が出なかった。だって、その結論はあまりにも荒唐無稽すぎるだろう。それに、既存の……既存……


『──『固有術』と『術』なら基本的に『固有術』の方が強いんだ』


 潜在的に身についている力。だからこそ、後から身につけた力よりも扱いやすく、限界を引き出せる。

 けど、そうわかっても、あまりにも夢物語だ。現実的ではないし、だったとしても俺にはきっとできない。


「……はぁ」


 ──学園長がなんで俺にこの本を読むように仕向けたのか、わからない。


「俺にやれって話じゃないよね……?」


 だとしらた問答無用で却下である。 こんなの、やろうと思うこと自体が馬鹿の発想だ。学園長は頭がおかしいのか?


「馬鹿と天才は紙一重って言葉もあるにはあるけどさぁ……」


 天才が確かにいるように馬鹿というのも本当にいるのだ。学園長が馬鹿の部類であることに俺は賭けよう。全額ベッドだ。


「……現実逃避。寝よう」


 本をベッドのサイドに置いてそのまま目を瞑る。こんなの、やれって言われてできるようなことでもないしなかったことにして忘れてしまおう。


 ──そのまま頭で何も考えないようにしながら目を閉じて眠りについた。





 ピピピと電子音が響く。それが嫌でその原因の四角い形の機械を止めようとするが、目を瞑ったままではどこにあるかまではわからない。昨日まではそこに置いていたと思うのに、ない。


「……」


 こうして結局目を開けて探さなければならないのだから、目覚ましという機械の本懐は果たされたであろう。本当に、開発者は悪魔的頭脳を持っているな。


 くだらないことを考えながら目覚ましを両手で握りってぼーっとする。この時間が毎朝俺には必ず必要だ。この後何をするのか、今日はどんな予定があるのか。そういったことも一切考えずにただぼーっとするだけの時間。


 それが終わったら軽く体を伸ばして二段ベッドのカーテンを開く。充電器に指しているスマホを右手に持ちながらハシゴを降りていってあと二段という所を少し飛んで着地する。もう初日みたいな失敗はしない。あんな失態、そうそう繰り返してたまるものか。


「──ん、おはよう、蒼」


「……あー、桜。おはよう。毎朝早いね。まだ五時だよ?」


「早起きは三文の徳ってな」


「百円のためってわけか」


「そういう毎日貯金みたいなのもしてみていいかもしれねぇな」


 毎日百円、続ければそれなりの値段になりそうだ。俺もそういったものをしてみたいが、俺は日記で書いたページよりも持っている冊子のほうが多いタイプなのでやめておこう。五百円程度で使う未来が見えた。

 これが……『未来視』……!?


「うーん、ここで麗のキツめのツッコミが欲しい思った俺は末期なのかもしれない……」


「──? 蒼も蒼で早いな。習慣か?」


「そんな所だね。というか、これぐらいしか続いてるものがないから辞めるわけにはいかないって感じかな」


 毎朝のランニング。学校の周りといっても敷地をぐるりと一周するのはフルマラソンあるかもしれないのでさすがに寮の周りをぐるぐる走っている。平日は十キロ目安で休日は二十いってるかいってないかぐらいだ。


 この学校の陸上部はそれなりに厳しく自主と言われているがほぼ強制的に朝も走れと言われている。顧問の圧が強かった。同じ部活の雷と一緒に走れたらよかったかもだがあいつは旧校舎棟で生活するためランニングコースで会ったことはない。


「いってらっしゃい……ただ、今日の朝食は蒼だからな」


「あれ!? ……卵かけご飯って美味しいよね」


「否定はしないが……俺は朝は味噌汁も飲みたいはだぞ」


「昨日の残り……昨日はシチューだったか。わかったよ、早めに切り上げる」


「頼んだぞ」


「はーい」


 そう言いながら顔を洗うために洗面所に行く。歯磨きは別にこだわりはないがランニングでそこそこ時間を使うので朝食前に済ませてしまう。ついでに戻ったらシャワーも浴びたいので制服の準備もしてしまおう。


「洗濯当番は……今日は瀬奈か」


 洗濯機は一階の共同スペースに十個ぐらいあり、そこに出す形だ。部屋で一箇所に四人分を集めてそれを日の当番が出すと決めている。乾燥機がついているのでベランダの物干しを使う機会は少なめだ。


「改めて、便利だよなぁ」


 色々な設備がなるべく新品の状態で揃っている。これも、学園長の「教育理念」というやつが齎してくれた恩恵であろうか。


 そう考えていると昨日読んだ本のことを思い出された。

 別に本を否定するわけではない。けれども渡した学園長の意図を俺は叶えたくない。というよりかは、叶えることがまず無理だという話。


「そういうのはお伽噺だとか、童話の中だけでいいんだよ」


 奇跡が起こるのはフィクションでいい、と俺は思っている。けどその奇跡を起こす力をこうして妖怪に関わっていくにつれてどんどん知ってしまったのだから引き返すことはまず無理だろう。


「……難しいことを考えるのは柄じゃないんだよなぁ。さっさと行くか」


 寝間着を脱いで学校指定のジャージに着替える。部活着は教室のロッカーに入れっぱなしだ。一応、一週間に一回洗っているので汚くも臭くもない、はず。


「んじゃ桜、行ってきます。鍵閉めといてー」


「わかった。いってらっしゃい」


 桜から見送りされて、寮の自室から出ていく。一つしかないエレベーターは時折先輩と遭遇するので避ける。ので、階段だ。


 カンカンと音を立てながら降りていって一階につく。一回でいいからこういった階段を手すりを滑っておりてみたいと思ってしまうのは俺の精神年齢が幼い証拠だろうか。それとも男児たるもの、という気持ちだろうか。


 ──そんなくだらないことを考えながら寮から出たのだった。





「というわけで、朝ごはんを作ります」


「……そうだな。頑張れよー!」


 生卵とパックご飯を両手に持った俺を見ながら少しとまどった返答をしてくれたのは向だった。


 ランニングから戻ってシャワーを浴びた俺が一番に気づいたのは”炊飯器のボタンを押すのを忘れていた”、だ。というわけで備蓄用に買っていたパックご飯の出番である。


「今から俺は頑張って味噌汁を作ります。あと副菜として冷奴。俺がポン酢派なので三人にもポン酢で食ってもらいます」


「……そうだな。わかった!」


 まるでテイクツーのような返答をもらいながら食卓に一個ずつ置いていく。一応冷奴はきちんと切っている。


「ん、はよ。今日の朝飯は……豆腐?」


「おはよう、瀬奈! 今日はいい豆腐日和だね!」


「どうしよう桜、蒼の頭がおかしくなっちゃった……」


「元からあんなんじゃなかったか?」


 何も言うな向、桜。俺の今の気分はちょっとランニング帰りで高いんだ。


 とりあえず冷凍パックをお茶碗に移してその隣に一人ずつ卵を置いていく。そしてすぐに味噌汁を作るために具材は豆腐とわかめだけだ。

 家事当番は一週間同じで俺はしばらく朝ごはん担当である。昨日はもうちょっと時間があったんだが、今日はちょっとだけランニングが遅れてしまった。だからこうして追われる朝になっちゃったのだ。


「明日はきちんと仕込んでから行くので……!」


「まあランニングってのも俺は凄いと思うぜ? 俺なんてそういうのはやる気起きないし……な、瀬奈!」


「んでオレに振った」


 向がカバーをしてくれるが一層瀬奈の表情が暗くなった気もする。俺はそれに苦笑しながらキッチンへと味噌汁作りと水筒に作っておいた麦茶を入れるために向かった。


 向と瀬奈の二人はどちらかというと朝に弱いのか、いつもは七時ぐらいに起きる。朝ごはん担当の時はキチンと起きているのだから流石だ。


 朝の行動は結構別れていて、俺はランニングで、桜は自主勉強か昼のお弁当づくり、向はテストの日は早起きして詰め込んでいて、瀬奈は朝が苦手でぎりぎりまでベッドに籠もっている。遅刻ギリギリの時は桜に引きずり出されて向に朝食を突っ込まれるまでがセットだ。


 ──こうして毎朝のルーティーンができるほどには寮の生活に慣れてきたということだろうか。


「ん、味噌汁、どうぞっ!」


 おまちどうさんといった具合に食卓に四人分をお盆で運ぶ。

 テレビの方を見れば朝のニュースが現在時刻を伝えてくれるが、ギリギリ後片付けが間に合いそうな時間を指していた。


「と、いうわけで、ごめんなさい、アンドいただきます!」


「「「いただきます」」」


 手を揃えた音、箸を持つ音、食べる音。こうやって一気に色んな音が聞こえるのも実家ではあまりなかったことだ。二人きりだとそこまで音が多くないので。


 ──そんな時間が嫌いではない。


 そんなことを思いながら、俺は右手をお椀へと運んでいったのだった。

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