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人妖!  作者: 家中由真
期末編
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四十一話 裏表がありそう

 林間学校も無事終わり、そこから数週間後。五月の中旬のある日である。


「……うーん」


「どうしたの? 蒼」


「え? いや、……その」


「……あー。なるほど。──さっき返された中間、悪かったのね」


「う」


 図星だった。嫌すぎるほどに的確に突かれた。


 ──一学期中間テスト。五月の中旬に行われたそれは、実技教科はなかったものの、それでも妖怪の世界での歴史やら古典やらを一から覚えたため、かなり成績は悪かった。


「いや、『初代御三家の当主の名前を答えろ』とかわかるか!」


「その子孫がこのクラスには二人もいるんだけどねー」


 そう言われれば反論はしにくいが、それでも難易度が高かった。というか一から覚えるのはそこまで要領が良くない俺にとっては厳しいものだ。


「はぁ、麗ー、勉強教えてよ。期末でこの二の舞いは嫌だな」


「勉強会? いいね、図書館でする?」


「図書館、か」


 この学校の図書館は本当に広い。学校案内で入りこそはしなかったが、それでも見た目から校舎ほどの大きさはあったのではなかろうか。本当に文字通り館であった。


 俺の委員会は図書委員会であるが、一年生が本格的に働き出すのは二学期からで学生は主に本棚の整理や貸出の受付をしたりする。

 ──ああ、そうだ。委員会で始めて会ったとき、一人の教員がいた。


「──司書の矢天(やあま)先生だね?」


「そうそう!」


 モノクルをつけた、温和そうな雰囲気をまとった人物だ。特筆すべき点があるとすれば、その頭にある角であろうか。人為的だか自然的だかは定かではないが、先生の右側には白い角があり、そして──その左側には、角が()()()と思わしき痕があるのだ。


「何かあったんだろうけど、それを聞く勇気は俺にはない……そういうのって麗はわかるんだよね?」


「わかるけど……本人が話していないようなことをわざわざ暴露するようなことをボクはしないよ。そういう一線はわきまえてるさ」


「しっかり者だなぁ」


 俺みたいなやつが麗の『読心術』を持ったら一も二もなく「なんでこんなこと思ったの?」とか相手に直接聞いて縁が切れていると思う。まあそんなのなくても切れるどころか結ばれなかった縁は大量にあるのだが。


「それについてボクはなんて返答すればいいのか迷うね。……ま、いいや。それでいつする? 勉強会」


「明日やろうは馬鹿野郎……ってことで、今日からよろしくお願いしますね、麗先生」


「わかったよ蒼クン」


 そうして、珍しく俺を呼び捨てにせずに軽いノリに乗ってくれた麗による勉強会の幕が開くのだが、この時の俺はまだ知らなかった。──頭内麗という人間が、努力というものに対して妥協を許さない、体育会系の根性を宿していることを。





「──そこ、間違ってる」


「え!?」


「Xの値、こっちに代入してみて。……ほら、違う」


「本当だぁ……」


 校舎から少し離れた図書館。改めて説明すると図書館は三つの建物に分かれており、本館と別館が二つとなっている。

 そして本館は四階建ての地下が五階まで。別館にはそれぞれ三階建てで地下が二階まである。蔵書数は数千万冊であるのだが、その大部分は地下室にあり、そこは原則として教員からの許可書がない限りは立入禁止と鳴っている。けれど地上部分でもそもそもフロアの面積が桁違いであり、それこそ東京ドーム何十とか何百個分とかいうレベルだ。


 そんな図書館の一階には受付やら自習スペースが置かれている。俺は今、その自習スペースのところに麗と一緒に教科書を広げていた。


「──にしたって、なんでこんなに図書館が広いんだろ」


「集中」


「う。わかってるけど……少し疑問に思ったの! そのせいで集中できませぬ!」


「……はぁ。ボクが知る限り、でいいならさ」


「おお……!」


 麗は本当に博識で問えば教えてくれる。言葉の節々というか大部分に罵倒が含まれていることのみに目を瞑ればいい奴なのだ。時折その罵倒が度合いを超えたりするけど、こっちは聞いている立場なのでノーコメント。


「前にもいったけど学園長は学習意欲のある生徒が学べない状況が本当に嫌らしくてね。だからこそ正しい知識を得られるようにこうして蔵書を増やしていったって話。学園長の趣味もありそうだけどね」


「へえ」


 俺の印象からして学園長というのは飄々としていて掴みどころがなく、どこか裏表がありそうな人物像なのだが、本気で生徒のことは大事に思っているらしい。黒幕が実はいいやつでした展開が似合いそうだ。あ、想像以上に似合う。『信じてたんですか? 馬鹿ですねぇ』とか言いそう。


「すっごい風評被害。あの人もまあ、……難儀な人だなって思うよ。蒼のことは本気で気にかけているよ」


「なんとなく、そういうのはわかるけど……それでも、本質が見えない、本性がわからないって所であんまし信用できないんだよね」


「──おや、表立って陰口ですか? 咲崎君」


「わあっ!?」


 麗と話していると、後ろからそんな声が聞こえた。背後に、一人、誰か立っている。

 ……気づけなかった。


「矢天先生!」


「はい。境妖学園図書館の管理人たる司書の矢天です」


 にこり。そう誰にでも好かれそうな笑顔で矢天先生は挨拶した。

 いつも通りにエプロンをしていて、手には数冊本を持っている。本のタイトルから見て、俺達の背後にある本棚に仕舞おうとしているのだろう。


「俺、やりますよ」


「いえいえ、大丈夫です。咲崎君は勉強に集中してくださいね。……まあ、あまりこういった場所で陰口は感心いたしませんが」


「陰口だなんて、やだなー、そんなんじゃないですよー」


「棒読みだよ、蒼」


 学園長が黒幕っぽいというのは陰口なのだろうか。わからん。まあ言われて嫌なことは悪口だし、こういった場所では慎むのが道理か。


「矢天先生はこの図書館の本の場所を把握してるんですか?」


 そう言ったのは麗だ。純粋な好奇心によるものであろうことはその声色から察された。その問いに対して矢天先生は何でもないように、


「ええ、もちろんです」


 と言った。

 改めて言おう。この図書館には数千万冊の本があり、そもそも施設自体が広大である。


「……そんなのってできるんですか?」


「当然ですよ。僕はここの図書館の管理人です。まあ掃除や整理の手が回らないときは式神に手伝ってもらったりもしますがね」


 そう言うと先生は手を二度叩く。すると小さな煙と同時に可愛らしい子鬼のぬいぐるみがどこからともなく現れた。


「この子達は式神で、ある程度の意識共有ができるんです。というか、でなければ普通に人手不足ですからね」


「はー」


 いや、それでも十分すごいんじゃないだろうか。学園長から色々と習っているが『使役術』の応用である式神はそう簡単に扱えるものではない。むしろ才能と、そしてそれらを制御するための並列処理を可能とする脳が必要だ。

 実はすごい人ってことなのか。まったくもってそうは見えないが。能ある鷹は爪を隠す的なあれだろうか。


「そうだ咲崎さん、学園長から頼まれていたことがありました」


「え?」


 そう言うと矢天先生は一冊の本を俺に手渡した。少し古いのか表紙は多少の傷があり、色も変色してる。タイトルは──


「『人と妖』?」


「ええ。なんでも人間について書かれた本だとか。少しめずらしいですよね」


「えっ!? そ、そうですね」


 目の前にその人間がいますよ、なんて口が裂けても言えない。

 麗からの冷た目の目線を避けつつも本を少しめくる。ページは劣化していなくて普通であり、文字もちゃんと見える。


「……これ、哲学書?」


「ジャンルといえばそうですね。僕は一度読んだだけですが、かつての人妖戦争や妖怪というものについてと色々書かれていますよ」


「なるほど」


 人妖戦争、という単語には聞き覚えがある。学園長や麗、歴史の授業で出てきた単語として、軽くであるが。確か千年前に起こった人間と聞いている。すごく大きく、たくさんの命が失われたと。


「──それだけじゃ、ない」


「そう、だっけ」


 軽口を言おうとしたのだ。けれど、あまりにも麗の表情が暗いから、声が出なかった。


「はぁ。……それ、読んでおいたほうがいいからとりあえず今日はこれでお開きにしようか」


「わかった……」


「ん、じゃあまた明日ね」


 そう言うと麗は机の上に広げていた勉強道具をカバンに閉まって、そのまま図書館の出入り口へと向かっていった。俺もそのお開き宣言を受けて片付けをして、そのまま寮に戻る準備をする。


「そういや、俺達一年って委員会活動は夏休み明けでいいんですよね?」


「ええ。夏休みまでは四年生も手伝ってくれますし、それにそこまで仕事量は多くありません。……生徒は」


「……なんか籠もってますね」


「いえ、……ただ夏休みには僕や数名の教員でこの図書館にある全ての本を確認するというこの世の地獄作業がありまして……」


「うわぁ」


 先生の目が遠くを見ているのも納得だ。なんというか、本当に地獄みたいな作業だ。というか、終わるのだろうか、約四十日間で。


「基本的に夏休みも図書館は解放していますからね。先に地下室にある本の確認と一週間のみある閉館日に地上の本の全ての確認をしてます……」


 夏休みは別館の方は閉まっていますが。なんて言う先生の補足もあまり強くはない。たとえ閉まっていたとしても、そも本館がありえない広さをしているのだ。これを数人と、式神がいたって十時間以上の労働は確定している気もする。


「……手伝ってくれてもいいんですよ?」


「遠慮します……それじゃあ、さようなら」


「ええ、さようなら」





 部屋に戻り今日は瀬奈が作ったカレーライスを食べた。その後は普通にシャワーを浴びて歯を磨いてといつものとおりに過ごして次の日の準備を軽く済ませてそのままベッドへと入った。


 二段ベッドの上段に俺のベッドはあり、カーテンがついている。基本的に夜の十時になれば全員がこの個室ベッドに収まって部屋の電気が消される。なのでベッドには小さなランプを俺は置いている。カーテンは中々に優秀で外に光が漏れることは滅多にない。

 そのランプを付けて俺は今日借りた本を読む。


 ──『人と妖』


 そんなタイトルのこの本には人間と妖怪、その存在と関係性について書かれていたのだった。

始まりました第三章!

章タイトルは期末編のくせしてあんまりテストは関係ない予定です!めちゃくちゃファンタジーになってく予定だぜ!

毎日投稿は……約束…………できま………………すん。

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