幕間 『初日夜、男子部屋にて』
「──ってわけでチキチキ☆第一回枕投げ大会を開催する!」
「な、なんだって──!?」
夜の十時、どこか浮ついた向の言葉に、全員の注目がいった。
和室の大部屋。このクラスの男子の人数は十人で、その人数分の布団が床には敷き詰められている。それぞれ早いもの順に布団を決めていったため、蒼は鬼城院と北原の隣になったのだった。
そんな中で向は枕を掲げながら、いわゆるドヤ顔で持論を力強く話していく。
「こんな大部屋で! 男子が十人もいて! やることはたった一つだろ!?」
「別に決まってはないだろ……バカやってないで寝ようぜ向」
「ノリ悪いぞ瀬奈!」
「……ま、いいんじゃね?」
「お、五海はそう思う?」
副学級委員であり、日頃は結構真面目である五海君が賛成を示したことによりクラスの流れがそのチキチキ☆第一回枕投げ大会をする方向になっていった。
咲崎はそのノリについていこうとするが、まるで流れが「酔っ払った父さんみたいだなぁ」なんて思いながら見ていた。
「ルールは簡単! ドッチボールと同じで当たればアウト、受け止めればセーフ。首から上もセーフだ! 個人戦だけど誰かと組んでもいいぜ! ってわけで桜、一緒に組も」
「おいこら! さらっと自分は戦力確保してんな!」
「別に俺はいいけど……」
雷からの批判をさらっと回避しつつそのまま試合開始のゴングは向のスマホから鳴った。音声アプリの音だった。
「おりゃ!」
咲崎の枕をとりあえず目の前にいる北原に投げる。参加表明さえもしていない相手に投げるという軽く卑怯な行為であるが、しかし北原はひょいっと避けられて逆に投げ返していく。
「わっと」
「俺としちゃ早く寝たいんだけどな」
「じゃあさっさとリタイアしたら?」
「腰抜け、なんて言われるよりかはマシだろ?」
闘争心に火がついたのか、だいたいのメンバーはやる気に満ちている。……けれど、一部は本当に興味がなさそうだったりもう寝ちゃってたりするが。
「って、わ!? 後ろからっ、誰!?」
「くらえっ!」
「雷かよ!」
どこでそんな枕を取ったのやら、鳴雨の手元にはすでに三つの枕が握られている。その近くには正斬や風滝が沈んでおり、その二名から奪ったのだろうか。
なんてことを考える余裕がなくなるように、咲崎は北原と鳴雨に挟まれて、軽くピンチに陥っていた。
「二人は共闘でもしてんの!?」
「してないしてない。ただこうやって二人で一人を狩ったほうが楽だろ?」
「俺も雷の考え方に同意だな。だからさっさと犠牲になってくれ」
「ひどい!」
二対一という構図に咲崎は不満を表すが二人はそんななのなんのそのと枕を投げつけていく。曲芸師たるやの動きでそれらをギリギリで回避するも、しかし依然として咲崎の不利には変わりない。
「うお、何だその動き」
「……キモい」
「今キモい言って言ったな!? 覚えてろよ葛!」
床を這ったりそこから飛んだりと本当に気持ちの悪い動きをしているのだが、それは一応は自覚している。
「意地張るな〜」
「じゃあ雷は離脱して貰おうか!」
「それは話が別だ、ろっ!」
──負けず嫌い。
結局のところ、負けず嫌いの意地張り合いなのだろう。そう俯瞰して場を見れていたのはこの三人で北原だけであっただろうが、それでも自身もまたそれであると実感しているため、北原はそれを口にすることはなかった。
「っと、あぶね」
「ぎゃあっ!? うわ、銅牆君!?」
「……」
「あいかわらずの、無口っ!」
鳴雨はそう言い返しながら銅牆へと反撃をする。
「そういや二人は同じ中学だったな」
「そーそ。成矢とは同じ中学で……だからって機を狙うな!」
軽口を叩き合いながら枕を投げ合う。それに乗じて咲崎は逃げようとするが、それを北原が阻止した。
そうしていると、二人の影がその場に増える。
「行くぜ桜!」
「わかった、向」
残った六人で枕を投げ合い、つかみ合い、そして──
「──あ」
「みぎゅ」
──咲崎の顔に、鬼城院の全力が飛んだ。
それは、まるで柔らかい枕が岩のごとくの衝撃で、つまり──咲崎の意識が飛ぶに十分であったのだ。
「あ、蒼──っ!」
「ごめん! だいじょう……ぶじゃないな!」
そして──心配する稲荷と鬼城院の後ろに枕を構えている北原と鳴雨と銅牆がいたのだが、それをご法度とするルールはないのであった。
*
そんなどんちゃん騒ぎも先生の突撃により終わりを見せ、時刻は深夜の一時。布団でそれぞれ相手の枕を蹴っ飛ばしたり、転がったりと最悪の寝相を見せる一部へとヘイトが溜まりつつも、大部屋は皆が寝静まっていた。
「……ん、」
そんな中、部屋から入って一番右端の布団がもぞり動く。そこには、五海が寝ていた。
「……中途半端」
そう思い再び布団で寝ようとするも、一度目が覚めてしまってなかなか寝付けない。そうして五海は体を起こし、少し考えてトイレに行こうとする。
「起こしちゃ、わるいよな」
一歩一歩慎重に人を踏まないように布団の海を歩いていく。電気は消されており暗いがそこまで視界は悪くなく、なんとか扉にたどり着いた五海はそのまま外に出ようとして──
「──ッ!?」
──目が、合った。
「ぇ、あ、……っ」
なんとか手で声を出さないように口を抑えつつ、五海は外へと出る。そして廊下に出たと同時にその場にしゃがみ込んでしまった。
「……えぇ」
目が、合った。それは──微動だにしないで、目だけははっきりと開いていた咲崎と。
暗い部屋の中、布団に入ってはいたものの決して動くことなく目を開いてこちらを見つめていた咲崎。
「こわ、か、った……」
そうボソリと五海は呟いて、そそくさとトイレへと向かったのだった。
*
「……その、咲崎」
「ん? どうしたの五海君」
「いや、……昨日、なんで起きてたんだ?」
「え? 昨日?」
「…………いや、なんでもない」
これにて林間学校編終わりです。三月から期末編を始める予定です!
ちなみに咲崎は生存能力やら野性味が強いだけで根は優しいんです。根は。葉っぱと茎はちょっと優しくないかもですが。




