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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
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三十七話 踊らされてた

 すでに施設の前にはだいたいのメンバーが揃っていて、一部のクラスメイトは簡易的なテントと「出張保健室」と書かれた場所に言っていた。そこから出てきた人は手当されていて、看護の先生がいるのだろう。確か保険の先生が今回の林間学校に同行するって事前に言っていたはずだ。


「……『旗』はどこのチームも奪えなかったってことかな」


 ぱっと見た感じであるが、どこのチームもこの世の終わりのような表情をしていなく、それに『旗』を普通に手のひらに持っている。つまりは平和的? あの戦いは終わったということだろうか。


 影池さんも瀬奈に取り返されたと言っていたので、あとはどれが偽物であるのかが先生から聞くのを心臓を馬鹿みたいに跳ねながら聞けば良いんだ。

 ……あれ、良くはないな。


「ちょっと僕も保健室行ってくるね……」


「お、おおお、行ってきな!」


 やっぱりあんなに攻撃されてその上で戦闘と色々あって竜の体もボロボロなんだろう。


 というか竜が龍になった時に負った傷というのは人の姿になったときはどうなるんだろうか。縮小化? それとも治る?


「うーむ、生態の謎、生命の神秘……」


「──何いってんの、蒼」


「麗! 無事だったんだ!」


「まーね。ボクもボクで水に押し流されてって……ちょっと髪が水浸しになっちゃった」


 そう言いながら麗は髪の毛の長い部分をぎゅっと手のひらで握って水分を絞る。俺も肩ほどの長さまで髪の毛はあるがタオルで簡単に拭いている。ちなみに圭さんは濡れなかった。鏡だからだろうか。


「まあ体質だろうね。……言っておくけどさ、あれも『授業』で必要で、謝る気はないよ?」


「? ……ああ、謝るって、攻撃してきたこと? いや、あれで責める方がお門違いだよ。俺も麗も同じだけ戦ってるしね」


 必要なことで、避けられなかったことだ。それに対して責めるなら俺だって麗相手に『術』という名の狂気をぶっ飛ばしてるし先にやられたとはいえ圭さんだって刀で斬り掛かっている。こういうのは水に流すべきなんのだろう。


「……まあ実際水に流されたんだけどね」


 乾いた笑みを浮かべながら笑えるか笑えないかのギリギリのジョークで攻めてみる。


「何はともあれ、だよ」


「……じー」


「? 何?」


「いや、余裕そうだなーって」


 麗達は圭さんがいないから『旗』が本物か偽物かどうか見分けられない。だから他の人みたいにもうちょっと慌ててもいいかなと俺は思う。というか、慌てる麗を見てみたい。


「ああ、そういうこと。──ま、ボクはもうネタバレを食らったんだよ」


「ネタバレ……?」


 どういうことか。

 そう麗の言葉の意味を聞こうと話しかけようとしたが、その前に先生からの号令がかかり、声をかけれることはなかった。





 円羅先生はまるで校長先生の立つ朝礼台? のような場所に立ちクラスを整列させる。これはグループごとに並ぶ。そうして俺は葛の隣に立った。


「保証付きだけどそれでもやっぱり緊張するね」


「まあそれでも確率としては四分の三だ。そこまで気負いすぎないほうが良いさ」


「うぅう……理屈はわかっても感情が納得できないってやつか、これが」


 圭さんのお墨付きってだけで安心はできるが、やっぱりいざって時は嫌でも緊張するものだ。しょうがないとも俺は思う。


 そうして先生はどこかもったいぶるようにマイクを手に取った。


『──まずは、』


 キーンとマイクから嫌な音が響き、先生はマイクをまるで汚物のように三本指だけで持って遠ざけた。というか鼓膜に良くない。

 軽いハプニング。よくあるハプニング。けれどそんなハプニングを挟んだからクラスの雰囲気は少し緩和された気がする。どこかピリピリと緊張感がある雰囲気から、少しわくわくしている、みたいな。まあ他者の感情なんてわからないが。


 そうすると先生は一枚の札を取り出した、


『気になってると思う『旗』の偽物。それから始めたほうがいいだろう』


 偽物の『旗』には確か”目印”がついていて、それは札に反応するらしい。つまり、あの札が運命をわけるということだろう。


『──ふっ』


 先生は札に息を吹きかけて手から放し札は宙を舞った。そして、その札は──そこで、燃え尽きた。


「……え?」


 どういうことか、少し理解ができなかった。そして、このクラスの誰もが言葉を発さないのでそれは皆んなも同じなんだろうとも、そう思った。


 ──燃えた?


『簡単に説明する。──偽物なんてなかったって話だ』


「………………………………それはそれで性格が悪い!!」


 ──つまりは、俺たちはずっと踊らされてたということだろう。





 なんというか釈然としない。

 ぶすくれた顔をしながら先生を睨みつけるが先生はいけしゃあしゃあと説明を続けている。


「……よかった、ってシンプルに喜びにくいな」


「全然喜べないよ! 俺、こういう夢オチ系とか本当に嫌い! 努力を無駄にするよね!」


 努力というか時間というか。とにかく俺の頑張った気力を今すぐにでも耳を揃えてきっちりと返して欲しい気分だ。


「……妥当、と言いたくはありませんが今回の『授業』が実践形式での『術』の特訓であるならばその目標は達成されたでしょうね。『試練』も他チームとの戦闘も、どちらも皆が皆『術』を使いましたから」


 先生の狙いはきっと、いや十中八九そうであろう。俺だって遠隔での発動や『結界術』も不格好ながらにも成功できた。


 ……が、それが苦労とイーブンとは思わない。というか思えない。思いたくもない。


「はぁ、なーんかこの林間学校で楽しかったのって、結局レクじゃん。あの矢も他チームとの戦いもいい思い出だね〜、なんて言えないよ……」


「それも蒼の優しさってことで。オレはこのチームで良かったとは思ってるぜ?」


 雷がそう言いながら俺の背中を軽く叩く。励ましてくれているのだろう。優しい。染みる。


「うぅう、……って、竜!? 溶けてない!?」


「いやぁ、張り詰めてた糸がぁぁぁ……」


「竜──!」


 ダララとくねる竜は地面へと倒れ込んでしまった。一番頑張っていたし一番体張っていたと思うし、こうして全部ドッキリでした☆ 的な終わり方にショックを受けているのだろうか。いや、わかりみしかない。


「今日の夜ご飯バーベキューだよね? 肉焼いてあげるからさ」


「え!? 本当!?」


「お、おうよ」


 お肉好きなのかな。もしや、野菜好き? まぁどっちでもいっか。


 今日の夜ご飯はまたもやグループごとにバーベキューすることになっている。昼ご飯はお弁当の予定だ。ちなみに午後はなんでも今回の『授業』を通しての自身の改善点発見とかなんとかである。キャンプファイヤーは夜ご飯の後だ。


「ちょっとは苦労が報われた気分だよ〜。ん、復活!」


「よかったな。俺もちょっとなんかがっかりだよ。せっかくだから偽物の引いたチームを見ながら肉食おうと思ってたのによ」


「地味に性格悪いね、葛」


 それもちょっとおもしろそうではあるけども。

 そう思いながら先生の話を聞いているとそのまま数分で話は終わり、食堂へと移動することになった。





 食堂はチームごとではあり、そのまま配られたシャケ弁当を食べる。


「ん、美味しいね」


「──あ、蒼君。おつかれさま〜」


「愛さん!」


 後ろの席はどうやらDチームであるらしく、そこには愛さんが座っている。いつもと違いリボンではなくシュシュで髪の毛をまとめており、ピアスには装飾がなく小さな物がついていた。


「そっちもお疲れ様。なんか最後は肩透かし的な展開だったね」


「そうだったね。わたしもちょっと苦労が報われない気分。駄目だったチームをちょっと笑ってやろうと思ったのに」


 お前もかよ。


「……ま、お互いに無事で良かったって話でいいかな?」


「そうだね、無事が一番だ」


 どことなく愛さんと葛が似ているような気もしつつもそのままDチームの方を見る。Dチームは向、影池さん、愛さん、正斬君の四人だ。やっぱり四人ともどこか怪我を負っていたりしていて絆創膏や湿布を貼っていたりする。


「向め……ゆうて許してないからね……」


「う。わ、悪かったって」


「まあ『授業』で仕方がないなぁとも私は思っちゃうな。それに私もごめんなさい」


「影池さん。まあ……………………………………仕方、ないのかもしれないね」


「めちゃくちゃ悩まれてる……ごめんってぇ」


 なんというか、いや、わかってはいるが軽く裏切られた形に近いからショックだったというか。まあ向だって必死だったし仕方はないことは本当に理解はしているのだ。


「……ま、みんな頑張った結果ってことなのかな」


 そういうオチの方が綺麗なのかもしれない。なんて思いながらしゃけをまた一口食べた。


「ふふ、そういう終わり方は美しいですね。私だってそう思うな」


 ニコリ。そう笑う影池さんの表情を見て不自然に鼓動がなった。なんというか、このクラスには美男美女が多すぎる。


 ──瞬間、背後から冷たく殺されそうになるほどの視線を浴び勢いよく振り返る。


「? ……? なんだぁ?」


 なんというか、嫉妬のような視線であったが……


「あ、そっか蒼君はわたし達と中学同じじゃないもんね」


「え?」


 まるで愛さんは面白いものを見つけた子供みたいない悪戯な笑みを浮かべながら俺の耳に囁いた。


「わたしは穂香(ほのか)ちゃん……影池ちゃんとわたしは同じ中学なんだけどね──駿(しゅん)君、ずーっと穂香ちゃんのこと好きなんだ」


「……あー、なるほど」


 つまり五海君の視線であったということか、さっきのは。愛さん、影池さん、五海君は同じ中学で五海君→影池さんへの恋愛感情。なるほどねー。


「だから副学級委員も引き受けたのかな」


「だろーね。それに穂香ちゃんも駿君のことは信頼してるっぽいし……ま、いつか実る恋っぽとわたしは見た」


 人と人だけでなく妖怪と妖怪でもそういったクラス内での色々はあるということだろう。恋愛も、その逆に誰が嫌いだとかも。

 俺の中学の時の人間関係はなんの参考にだってならないが嫌でも教室内でそういった噂話を聞いたことはある。──ここで俺もそういう青春だとかできるといいかもな。

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