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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
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三十六話 言うだけ野暮

本日はちょっと短めなお話です。

 なんとか激戦地から逃げることに成功して、そのまま空の旅のようなものに出ている。


「──一旦『試練』の場所に戻りましょう。あの矢が襲ってくるかどうかは不明ですが、それでも他チームはいないはずです」


「わかった。にしても、三人もありがとうね、察してくれて」


 あの土壇場で何も聞かずに鎖で腕を繋いだと同時に大体を察してくれたおかげですぐに撤退できた。あそこで時間を取られていたらその混乱を突かれていた可能性だってあっただろう。


「まあ蒼の『術』だろうなとは思ってたよ。そもそも『拘束術』って本当に向き不向きが激しいから使ってるやつの方が珍しいし」


「へえ。……あれ? でも俺がふっ飛ばされた時に『拘束術』で罠張ってたって聞いたけど……」


「時間をかければできるぜ。ただオレもあんまりやりたくないけどな。体力も労力も本当に苦手なやつは比にならないからよ」


「なるほどね……」


 あれは事前準備されていた襲撃であったから、ということだろう。にしても、だとすれば俺は『拘束術』の才能があるってことか? ……あんまり嬉しくないな。


「三人もずっと戦ってたから疲れてない? 大丈夫?」


「いや、めっっっちゃくちゃ疲れたよ。正直、もう指の一本だって動かしたくないくらいにはな」


「オレも……流石に連戦はしんどいな。しばらくは休んでたい」


「これから『授業』終了時刻までは休んでいて大丈夫です。幸いにも私達は『旗』を他のチームに取られることはなかったので」


 そういうと圭さんはジャージに入れていた『旗』を見せてくれた。

 もしこれが無くなっていた場合はこの撤退作戦が無に帰す。本当にそれだけはあってほしくなかったから『旗』を見た瞬間に体の力が抜けてしまった。


「なんというか、一気に肩の荷が降りた気分……実感はなかったけど、やっぱりずっと緊張してたのかな」


『大丈夫? 蒼も『術』を何度も使ったし、それなりに疲れも溜まってるでしょ?』


「心配ありがとうね、竜。でもなんやかんや竜が一番MVPだと俺は思ってるよ? 竜がこうやって俺達を何度も助けてくれたからさ」


『……改まってそう言われると、照れるよ』


「今のは蒼が正しいだろ。ほんと、竜のおかげだ」


「オレも今回ばっかりはマジだぜ? な、圭ちゃん」


「圭ちゃん……まあ、そうですね。こうして今戦いから逃れられたのも伯世さんのお力があってこそ。行き過ぎた謙遜はあまり褒められませんよ」


『て、照れるって!』


 そう言いながら竜は少しからだをくねらせて顔を手で覆い隠した。いや、めちゃくちゃでかい巨体でそんな動きをされると振動もやばいし、顔もゆうて見えないんだが、そこは言うだけ野暮であろう。


「なにはともあれ、だね。一件落着だ」


 ──激戦の後の平穏。今はそれをただ享受しようと、そう思ったのだった。





 ──『授業』が終了する時刻にはけたたましい音のチャイムが響く。小学校とかのアレである。キーンコーンカーンコーンと鳴るやつ。それが『授業』の終わりを告げて、同時に施設の前に集合する合図でもあった。


「そういえば、今日の夜はキャンプファイヤーだっけ」


「そうですね。そうして明日の昼頃に出発です」


 二泊三日の林間学校もあと一回寝たら終わりだと思うと変に感傷に浸ってしまう。というか、『授業』での記憶が強烈過ぎて他が霞みがちではあるが。

 昨日の『授業』とカレーづくり、夜の馬鹿騒ぎ。あとは……ああ、そういえば今朝に下着失踪事件があったな。


「アレ、結局解決したのは良かったけど……なんで男子?」


 狙われたのはまさかの男子の下着。それも五人ほど被害者がでていた。なんやかんやあって犯人はクラスにはいず、そして下着も発見されたのだが嫌に記憶に残る珍事件だ。俺は被害者ではなかったが!


「ともあれ今日の夜はキャンプファイヤー……中々に中々な内容だね」


「……そうですね」


「その若干引いてる顔、傷つくよ」


 軽口を叩き合いながらも圭さんと一緒に施設へと向かっていく。

 鐘が鳴ったと同時に俺達は自分達の『試練』の場所から施設へと向かっていて、今は俺は圭さんと、あの三人はそのちょっと前にいながら森を渡っている。


「にしても、最後の方はやばかったね。なんかすっごい爆発音とか聞こえたし」


「あれだけの人数が集まったのですから、当然と言えば当然の規模ではありますが……あまり派手に暴れることは感心できませんね」


 戦闘音がそれなりに距離があるはずなのに聞こえてきたということは、それに比例して戦闘規模も大きいということ。

 今の俺にできることはといえば怪我人がいないように祈るぐらいのことだが。


「……なんかさ、ゆうて俺がこのクラスになって一ヶ月ちょっとだけど、むしろこういう祈りとか同情を素直に受け取らないで拒否りそうなメンバーが多そうなんだよね、なんでだろう。直感?」


「──。まあ、否定は、できませんね」


 仲良くしてるメンバーは限られているが、それでもな気もする。


「なーんか、戦ってわかったけど個性強くない? このクラス。俺大丈夫かなぁ」


「……………………そうですね」


「え、何その沈黙」


 どこか睨み気味の圭さんの視線に疑問を持ちながら、そうして学校の施設へと到着したのだった。

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