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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
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三十四話 予想外の提案

「っ、ぶないな!」


「ちょこまかと、逃げるね」


 麗VS俺と圭さん。

 圭さんが麗の刀を流用しながら麗の刀を流したりしているが、この拮抗状態もいつまで続くのかわからない。


 隣では葛が瀬奈を、雷が影池さんを相手に戦っていて、どっちもギリギリそうな争いであり、実際に激しい戦闘音が響き渡っているので援軍は求められないだろう。だとすれば、どうするか……


「──圭さん! どうせ麗にはわかってるし言っちゃうけど、竜達巻き込もう!」


「! ……わかりました!」


 竜は今は川岸さん、五海さん、向、満月さんと戦っている。確かに麗達にだって味方はできてしまうが乱戦をさらに広げることでそのまま混乱に乗じて撤退だ。


 まあ、これだってどうせ麗に読まれてしまっているだろうけど。


「『結界術』使えるようになったの、おめでとうだね。それでも簡単にボクが逃がすとは思わないでほしいな」


 ほーらやっぱり読まれてる! 『読心術』の応用かなんかで記憶も読めそうだしな、コイツ!


「そこら辺は企業秘密で」


「企業!?」


 軽口を叩きながらも麗の攻撃が止むことはない。容赦されることもない。というか、手加減してほしいんだが。……いや、十分されてるか。


「っと。地面に『術』仕込んどくなんて、初心者にしては中々姑息だね〜」


「姑息って言い方に関しては異議を唱えたい、なっ!」


 地面に置いていた札からの遠隔発動は事前に見抜かれて回避されてしまう。だからこそ、必要なのは絶対に逃げられない状況を作ること。そうすればいくら心が読めていようが関係ないから。


 ……一番の壁はその状態に持っていくことがほぼほぼ不可能であるという点だが。


「もう! ちょっと諦めてよ!」


「それはムリでしょ!」


「ていうか、麗だったら圭さんを読んで偽物かどうか分かるんじゃない!?」


「生憎と、ボクは『旗』を持ってないからね」


「でしたら影池さんから取り返すのが道理では?」


「嫌がらせだからねー」


「最低!」「……」


 そう、現実問題で言えば麗は瀬奈と共闘して影池さんから取り戻したほうがいいだろう。けどそうしないのは嫌がらせと、勝ちが確定している『旗』を確保しておきたいからだろう。なんというか、前者の理由が八割そうだが。


「う、おっ!?」


 ギリギリで刀から逃げるも既にジャージはボロボロで何度か地面に転がったせいで土がついている。反撃しようにも行動を動かす直前で全て止められるからどうにもできない。


「──さて、そろそろいいかな」


「!?」


 ガキン、そんな金属音を響かせて麗は圭さんの刀を弾いて奪い返した。その刀は圭さんの手から離れると同時に札へと変化してそれを麗は回収した。

 そして麗の刀は俺の方を向き──


「──!? 流石に、それは勘弁かな!」


「咲崎さん! 今すぐに撤退を!」


「え!?」


 直前で刀はピタリと止まり、麗と圭さんは同じく──竜達がいる方向を見た。そこでは俺達が戦う前から激しい争いが起こっており、特段何も変わっていないように見える。けれど、それは視覚情報だ。


 ──水の音が聞こえる。


「ま、まて、まてまてまて、待てってばぁ!!」


 水。大量の、水だ。大量の水が、流れている。水が、流れて──呑み込んで。


 ──パックリと、全員呑み込まれた。





「──げほっ。ごほ、っ」


 木になんとか掴みながら濁流を防ぎ、ギリギリ流されることはなかったがそれでも水が体の中に入ってしまって気持ち悪い。服だって水のせいで思いし、というかまだ四月だからかなり肌寒い。


「うぅ〜。っていうか、誰だよ……ああもう、今度タンスの角に小指ぶつければいいのに……」


「随分と陰湿な嫌がらせを考えますね」


「圭さん! 大丈夫?」


「……いえ、左足が取れました」


「うわっ!? 本当だ!」


 圭さんの左足は取れていて、その断面は水に流されたこともあってかキラキラと輝いている。綺麗であるが、普通に状況がヤバい。


「どこに流れたとかは……?」


「不明です。私の体を離れた時点でどこにあるかは。……そこで、お願いがあるのですが」


「な、なんでしょう」


 ゴクリと喉が鳴るのがわかる。なんだろうか、代わりに足になれとか、泳いで──ゆうて水深もないが──探せと言うのだろうか。……いや、圭さんはそんな人じゃないか。人じゃないが。


 そうしていると圭さんは自分の長い腰まである三つ編みの髪の毛を指さして言った。


「これ、切断してくれませんか?」


「……え?」


 驚きの提案に少し、数秒だけ呆けてしまう。予想以上と言うか、予想外の提案だった。足の確保ではなく、髪の毛?


「私の髪の毛も、もちろん鏡です。これを私の足にくっつけてください」


「……マジで? え、っと、切断? ってどうすれば?」


 いや、理屈も理論もなんとなくわかる。鏡でできている髪。なくなった部分を補強するために自分の髪の毛の分をそのまま足に回そうということだろう、なるほどなるほど。


「なにか鋭いもので根本の部分をバキンと」


「りょ、了解!」


 鋭いものが何かとあたりを探すと、ちょうどポケットに入れていたボールペンを思い出す。すぐにポケットから取り出してそのまま圭さんの髪の毛の肩より短いあたりに軽く当てて──そのまま、思いっきり振り上げ下ろした。


 ──バキンと、割れた音がした。


「っ、!」


「え!? つ、痛覚ってある!?」


「いえ、割れた衝撃ですのでご心配はなく。その、あまり身動きが取れないのでその髪を私の左足の切断されている場所にくっつけてくれませんか?」


「液体のりとか塗ったほうが良いかな?」


「大丈夫です」


 どうやらいらぬお節介をかけてしまったようだ。


 そのまま圭さんの割れた髪の毛(パッと見ただけでも一メートルはありそうだ)を左足の切断部位にくっつける。そうすると不思議なことに軽く部位をくっつけただけでカチリと嵌るようにくっついたのだ。


「すご……」


「……あの、そんなにまじまじとじっくりしっかり見られると照れるのですが」


「あ、ご、ごめんね!? 流石に無神経だし無配慮だよね!」


 すぐさま圭さんから目をそらすして後ろを向くと影が伸びるのを感じる。地面にまだ数センチ残っている水がパシャパシャと鳴る音が聞こえるので、どうやら圭さんは立つことができるようになったみたいだ。


「ありがとうございます」


「いや、圭さんが無事? で良かったよ」


 実際の所くっつくとしても左足が取れたことを無事であると言えるかは怪しいが。


 圭さんは若干髪を斬った際に水がついてしまった髪を一度軽くさらりと撫でる。不思議と鏡であるのに自然と束がいくつかできていて、太陽に照らされとても綺麗だ。


「──まずは、鳴雨さんと北原さんと合流が一番大事でしょう」


「そうだね。麗達があの後どうしたかもわからない……っていうかこの洪水は川岸さんとか五海君かな?」


「恐らく、としか言えませんね。私が見えたのは『大量の水が現れる』未来だけでしたので」


 けれど咄嗟に圭さんが俺に忠告してくれなかったら俺はそのまま流されていた可能性がある。マジ命の恩人だ。


「にしても、一体何がどうなったのか……」


 地面の土が段々と水を吸収していって水たまりが収まってきたのは良いが、逆に地面がぬかるんできているので走ったりは向いてないだろう。


 そうして少しまだふらついている圭さんに肩を貸しながら、先程まで竜達が戦闘を繰り広げていた場所まで移動していく。一気に水が溢れ出てそこから逃げたためか戦っていた人らは全員どっかに逃げていたのか、味方はおろか敵も見つけられない。


「……あれ? あそこにいるのって」


 ふと、目の前に誰かが倒れているのが見えた。それは、よく見れば濡れた尻尾をぎゅっと絞っている──向であった。


「あ、蒼!? ちょ、タンマ! っていうか降参! 今は戦えないって!」


「別に出会って三秒で戦闘、なんて考え方を俺は持ってないよ。ていうか俺も圭さんも流された時にけっこー体力使っちゃってるからキツイんだよね」


「そっか、じゃあ俺と一緒か」


「多分向達が戦ってた場所でこの水って生成されたよね? なにかあったの?」


「なにかあったと言うか……あれだ、『術』同士がぶつかっちゃってそれ以上のエネルギーができて暴走、みたいな感じだ」


「……そういった事例があることは、私も知っています」


 二つ、かはどうかはわからないが『術』同士がぶつかりあってその衝突エネルギーかなんかでもっと爆発的なエネルギーが生まれて……みたいなものだろうか。


「それでこんなことに……」


「俺も予想外だし、っていうかその爆心地? にいたせいで思いっきり水圧を顔面から浴びたせいでめちゃくちゃ痛いし……はぁ、なんかすっげー不運」


「げ、元気だしなよ」


 他チームであるが基本的に向のような善人を見捨てられるような精神は俺はしていない。軽く慰めながら向の姿を今一度しっかり見る。


 髪の毛は乾かすためか、タオルかなんかを肩にかけて髪はほどいている。ジャージも脱いでシャツとかの最低限の服装、それに少し切り傷と打撲が少々であろうか。


「ま、俺はここで影池と合流するからさ、見逃すってわけじゃないが……他のメンバーと合流できると良いな」


「ありがとね。それじゃ、向も元気に」


「──蒼さん!」


「うわぁっ!?」

 向とすれ違う、そんな時に圭さんが大声とともに体を大きく動かしてそのまま二人で倒れ込んでしまった。


「え、え、何? どうしたの圭さん?」


「やってくれ……やろうとしてくれましたね、稲荷さん」


「そういうゲーム……じゃなくて『授業』だからな。悪ぃ」


「え? ……え!? そ、そういうこと!?」


 段々とすれ違おうとしていた向の姿が朧気になり、そのまま先程まで俺達がいたところに向の姿が見えた。


 ──幻覚、ということだろうか。というか、幻によって俺と圭さんからこっそりと『旗』を取ろうとしたのだろう。


「さっすがに、騙された! 酷いよ!!」


「言い方が悪い! そういう『授業』だって言っただろ!」


「でもだよ! でもだってだよ!」


 ──信じていた相手に裏切られる、それがめちゃくちゃ辛いんだよー!!

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