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人妖!  作者: 家中由真
林間学校編
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三十三話 色々とアウト

 岩から逃げ切って数十メートル。今は恐らく雷がいるであろう場所の近くに移動した。


 仕方ない。どこに誰がいるのか森であるから見晴らしが悪く具体的にわからないのだ。その中で、雷っぽいものが発生している場所へと俺達は移動している。


「──いた」


 そこにはどこか楽しそうに笑いながら戦っている雷と、その様子釣られて笑っている銅牆君、そして俺をふっとばした時みたいにボンボン撃っている緋山さん、どこか三人に翻弄されている向がいた。


 なんというか、この戦いに入りたくない。


「……俺はあんまり役に立たないな」


「え?」


「氷を出したって銅牆の『術』に使われるのがオチだ」


「あー、なるほどね」


 銅牆君は触れてるものを自由に操るだとか。現に今も木が変形してたり土が波打っていたりする。だからこそ氷で妨害しても逆に利用されてしまうということだろう。確かに相性が悪い。自分が労力使ったのをまんま流用とかちょっと腹も立つだろう。

 ただ氷で壁を生成して分裂した上での合流は難しいとなると、他の手段を考えいないといけないだろう。


「……でしたら、とりあえず地面を全て凍らせることはできませんか?」


「スケートリンクみたいに、ってことか?」


「ええ。滑ってしまうような厚みの氷を」


「なるほどな。わかった、やってみる」


 そう言うと葛の周りから急激に気温が下がっていく。さぶい。

 地面が一気に凍っていき、まるで冬の湖みたいに綺麗に氷になった。それで靴は凍らずに足元だけだというのだから理屈がよくわからない。物理法則とかやっぱり『術』には関係ないのだろうか。


「どわっ!?」


「っと、う、お!」


「よいしょ。んー? 氷?」


「これ、は」


 向が転び、銅牆君がすぐに近くの岩に飛び乗って、緋山さんが上へと飛んで木の枝に着地し、雷は察したようにその場から動かない。動けば凍る、というよりかはどこから凍らされたからわからないから動かないと言った感じだ。──信用と信頼、なんだろうか。


 先程と同じように俺は雷へと一直線に札を投げて『拘束術』で腕同士を繋ぐ。そしてそれが道標となるように雷はちょっと滑りながらもこちらに走ってきてくれた。

 そうして葛はその場に氷の壁を木と木の間に設置してここにいる三人から攻撃されないようにする。


「……ふぅ。氷の上って走るもんじゃないな」


「お疲れ様。ってことで今から撤退するよ」


「りょーかい」


 これもまた先程と同じようにすぐに走る。その間に地面にはえている草木が急激に成長して脚に絡もうとしたり、爆発が近くに怒ったりと妨害はあったがなんとか逃げ切ることに成功した。


 ので、次は作戦の超要である竜との合流&回収だ。


 そうして、この森の中心部で巻き怒っている五つの戦場のもう一つへと、俺達は足を運んだ。





「──いた!」


 そこには、竜が空を低空飛行しながら何か白いものを弾き飛ばし、地上にいる川岸さんと五海さんを狙っている。そのすぐ横では狐と狼……ではなく向と満月さんが戦っている。


 戦っているのだが、少しおかしい。四人ぐらいいる向が錯乱しながら満月さんと戦っている。


「てゆうか、アレ何? どゆこと? 分身ってこと? 俺、向にそんな能力あったことしらないんだけど……」


「稲荷さんの『固有術』でしょう。それで自身の姿を複数に見せかけている。ハリボテのようなものです」


 けれどもどれが本物かどうか、なんら本体は姿を消している可能性だってある。俺には瀬奈の透明化よりもよっぽどタチが悪いと思えた。


 いや、比べるのも失礼なのかもだしデメリットメリットが違うなのかもしれないが。


「あっちはあっちで俺的には嫌だったから比べるのはなしだな……それよりも、さっきと同じ手段にする? 葛にびゃーって凍らさせてもらってから俺の『術』でこう──」


「──二度も同じ手段に頼るだなんて、蒼ってもしかして馬鹿? ボクったらなんでこんなお馬鹿さんを庇っちゃったんだろう」


「そ、その容赦のない罵倒とボクっ子は……麗!?」


「やあややあや。さっきぶり」


「うわ、その首って……もしかして、あれ!?」


 余裕綽々、とは見えないけれど決して自らの余裕な態度を崩さない麗の手には刀と先程の『試練』の首がしっかりと握られている。ポタポタと血が流れており、少し怖い。


 それに気づいたのか麗は持っている首を見てから、面白そうにこちらに投げた。めっちゃ笑ってるで。見た目やばい。


「あげるよ」


「いらねぇ!」


「……いえ、頭内さんだけではありませんね。出てきたらどうです」


 俺と麗がコントを繰り広げている間に妖鏡さんは真剣な顔をしながら麗とは別の方向を睨みつけるよう見える。そうすると、まるでそこの空間が歪んだような気がして──


「──バレちゃってたか」


「別に、共闘関係にはないぞ」


 ──そこには、瀬奈と影池さんがいた。


 二人もそこそこ切り傷やら何やらができており、万全とは言えないだろう。特に、瀬奈は足がひどく傷ついている。先程の傷を無理やりハンカチで縛っているが、少し表情が曇っている。影池さんはそこまで傷はないがそれでも無傷ではない。あの後に二人だけでも戦っていたのだろうか。


「ってか、影池さんは『旗』を持ってるんだよ!? さっさと奪い返しなよ! 俺達のことはお気になさらずに! どうぞ!!」


「関わりたくないという意思に溢れてるぞ蒼」


 軽く葛から叱責を受けつつも、既に戦闘準備は整っている。というか、ここで暴れたらあっちにも存在がバレるから奇襲からの竜回収が難しくなってしまう。できれば戦闘せずにお引き取りを願いたが……


「ま、無理でしょ。ボクと影池さんは君たちが持っている『旗』が欲しい。そして風滝君は影池さんから『旗』を奪い返してなんなら君たちの『旗』も欲しい。ね? 交渉は最初っからムリ。テーブルは最初っから割れてるの」


 正論であり、今の状況を表す言葉だ。そも、厳密なルールでいえば交渉のテーブルに着くことは禁止されている。あわよくば、は欲張りであったのだ。


 けれど、ここで争いたくもないしだからといって『旗』を渡すのは論外だ。それがなければ俺達は合格を逃がすのだから。ここで狙ってきている三人は俺達の『札』を奪うのが目的であり、そして共闘はしてこない所だけが救いであろう。


「──場が膠着していて先手を打たないのは、無しだろ」


 そう言うと葛は一気に地面を凍らせて麗、瀬奈、影池さん三人の足を地面から固定する。


「わぁ、さっすがだねー、葛」


「確かに先手を打たないのは愚か者の行動……ええ、そうですね。これは私の油断か」


「足ばっかり……!」


 愚か者だなんて素で言ってるやつ始めてみた。世代が違うだろ、もはや。


 そうして足が固定されている三人へとすぐさま札を放ち、足だけではなく腕も拘束しようとするが──


「……流石に、それじゃ一筋縄すぎるか」


「まあね。ボクはこういった『術』に関してはけっこー得意なんだ」


 麗は俺の札が届く直前で自身も札を放つ。そうするとそこで小さな衝突のようなものが起こり、お互いの札が焼けて消滅した。防御系の『術』ということだろうか。

 そして瀬奈には届く前に札が真っ二つになっていて、影池さんは直前に瞬間移動で逃げられている。一度見せた『術』でもあるし、対策はされているか。


「よい、しょっと!」


「いっ!? 掛け声に関して物騒なんだよ振り回してる物が!!」


「ボクの得物が刀なのはずーっと前からだからね、今更変えたりしないさ」


「変えよう!? 主義主張前に法律を優先しよう!?」


「法律上は問題ない、って!」


 そういう問題ではないだろう。いや、確かに法律上は問題ではないかもしれにない。けれども倫理的やら道徳的やらで色々とアウトだろう。たとえ『術』があるとはいえそこら辺の法整備はキチンとしてほしい。人間の学生を放り込むならさ!!


 そうして場所はそれぞれ別れて、俺は圭さんと一緒に麗に、葛は瀬奈に、雷は影池さんに。


「っても、どうするか……」


 普通に剣の腕前が麗は良すぎる。その上で心を読んできて次に相手がどう動くかもわかるのだから絶対に相手にしちゃいけないタイプの敵だろう。味方にいてほしいタイプ。無い物ねだりだが。


「ふっ!」


「わっと」


 妖鏡さんが援護として落ちている麗の刀を使うも、それもいなされている。恐らく、普通に熟練度の差であろう。


「なんて、冷静に分析してる場合じゃないけど、さっ!」


 再び『術』を麗へと目掛けて放つもノールックで切られる。──のは予測済みであったので、そこにもうひと工夫。こればっかりはあんまりしたくないけどしないと勝てない可能性もあるんだからやります。やった。


「っと、うーわ、性格わっる!」


「麗には言われたくない!」


「いーんだよボクは!」


 小石を札の後に連続して投げる。こればっかりはキチンと見ながら切らないと逆に刀の方が傷ついてしまうだろう。石を人……じゃなくて妖怪に投げるだなんてあまり褒められたような行動ではないが。


 そうして麗の視線をこちらに奪い、そして圭さんが攻撃する隙を作る。


「──ま、二本使いだってできるんだけどね」


「っ!」


「うわ、ズルい!」


「努力の賜物、だよ!」


 麗は石を叩き落とすと同時にジャージから札を取り出して二本の刀によって圭さんの刀にも対応した。動きがすごすぎてちょっと良くわからない。


「ああ、もう! さっさと離脱させてくれ──!」


 そんな悲痛な叫び声は、届くことはあれど叶うことはなかったとさ。

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